120話 「スレイナ」ノ魔手
ルティーナ達は、アジャンレ村でアンナから必要な情報を得ることができた。
必要な『ヒーリング・ストーン』の発掘現場は災害地で入手は不可能とがっかりしたが、もう1つだけ、ルティーナの実家が無事であればあるはずとアンナは語る。
そしてルティーナ達は、自分が転落した崖の調査の次いでに実家に寄ることに決めたのであった。
ルティーナ達は一夜を、アジャンレ村で過ごしていた。
そして、翌朝の早朝――場所は変わってガイゼルの護衛任務中のロザリナ達。
彼女達は、ガイゼルの無事に商品搬送を終え、任務の最終日の帰路の途中であった。
「(今日の夜にはノスガルドに戻れそうだね)」
「(ルナ達の首尾はどうでしょうね? 久しぶりにお母さんたちに逢えて帰って来たくないって言い出しそう)」
「(あはは、子供扱いしたら怒るよルナが)」
「でも、おまえら凄いな、魔物に遭遇しても全然余裕じゃねぇか? もうすぐ『バリア・ストーン』の内側に入るし盗賊が出る場所もねぇし、もう危険なことは――」
「っと雲行きが怪しいな……先の空が真っ暗だ。デカいのが来そうだな?」
ゴロゴロゴロォ~――。
ガイゼルが懸念した通り、数分後に雷が響き渡り、目の前から大豪雨が迫ってくるのであった。
予想以上の豪雨の為、国境前で足止めをくらってしまう。
先が見えずに峠を越えるのは危険なため、雨が落ち着くまで近くの岩場で雨宿りをすることにした。
――そんな彼女達を、遠くから見張る10人の一団とスレイナが居た。
「フフッ、情報通り戻ってきたわね……偶然とは言え、おあつらえむきの天候だ」
スレイナは、5人で行動していると聞いていたにも関わらず、ロザリナとエリアルしか居ない事に疑問を感じていた。
黒魔法でも姿を消せるため、シャルレシカが何かを察して、迎撃を企んでいる可能性も捨てきれなかったが、今の天候を利用しない手はないとゲレンガが作った薬がどの程度、通用するのかを試すのであった。
ザバァーー!
「しかしまぁ参ったなぁ~どんどん酷くなる一方じゃねぇかよ……こりゃ今日中につけるかどうかになってきたなぁ」
「すまねぇなぁ、ルナリカ達と明日、ノスガルドで合流するんだろ? 間に合わねぇかも――」
「大丈夫ですよ、合流はどこにいても関係ないんで」
「はぁ? さすがに俺達がどこに……そうか、シャルレシカか? ん、でもあいつの索敵でも……」
「ま、その時はその時で」
「なんだよ意味深だな」
しかし、突然、ロザリナが土砂降りの先に何が居ると騒ぎ始める。
通りすがりで雨に遭遇してしまった人がいるのかと様子をみていたが、おかしいことに気付いたのだった。
「きょ、巨大なデーアベと――」
「あ、あれは……イスガに居たあの魔物、いや人間……なのか? そんな馬鹿なっ」
「(なんで、こんなところで襲撃してくるなんて、私たち2人しか居ないと悟られたから?)」
「なんだよっロザリナっ! あんな魔物、見たことがねぇぞっ」
「ガイゼルさんっ! あいつらの足は遅いから、とにかく馬車でここを離脱しましょう」
「――あぁわかった」
ガイゼルはすぐに馬車を動かし、街道に出ようとするが、あまりにもの土砂降りに馬が言うことを聞いてくれない上、視界も悪く思うように走れなかった。
しかし、目の前には新しく巨大なデーアベが迫ってくることに気付いた。
「おいっ、だめだ! 逃げ道がっ」
エリアルは自分が前線に出ると飛び出す。ロザリナは万が一の討ち漏らしの迎撃とガイゼルの安全を守るために馬車の外に降りて構えるのであった。
2人は、人間の魔物については薬を使っている盗賊達と理解し、意思をもって攻撃してくる以上、同情は一切しないと気持ちを切り替えた。
「ロザリナっ何が起こってるんだっ! お前、なんか知ってんのか?」
「(……)い、いいえ以前、王宮からの討伐案件で、不可解な魔物の発生が報告されていましたから、その仲間なのかと」
「そ、そうなのか……しかし、おまえらに護衛を頼んでおいて正解だったな」
「最悪、私たちを見捨てて、いつでも馬車を出せるように準備だけしておいてくださいね」
「見捨てねぇよ」
エリアルは剣を振りかざし、魔物たちに向かって走りこんだが、デーアベが3体と人間の魔物が5体がエリアルを取り囲み、残りの人間の魔物2体がロザリナの方に向かって行った。
「リーナっすみませんっ! そっちはお願いしますっ」
「わかったわ」
「(こっちに、厄介なのが2体か……動きが鈍いから助かりますが、『シャイン・レストレーション』で魔力を消費する情は無いです……確か頑丈で再生してしまうんでしたよね?)」
ロザリナは拳任せに1体づつ魔物を後ろに突き飛ばし、馬車から遠ざけることに専念していた。
「こいつらは火に弱かったよな……『ソード・オブ・ヴォルケーノ』っ」
(【炎】っ)
エリアルは魔剣を操ろうとするが、豪雨のせいで魔剣の炎の威力はかき消され水蒸気が吹き荒れ、ますます視界が悪くなってしまう。
「し、しまった逆効果……『ソード・オブ・スラッシュ』っ」
(『【斬】』っ)
エリアルは魔剣と豪雨との相性の考えがまとまらず、迎撃に集中するしかなかった。
デーアベの1体は倒すことは出来たが、人間の魔物に圧されて、ロザリナの方へ徐々に戻り始めた。
「魔剣はどうしましたか? エルっ」
「いいや、この豪雨が剣の能力と相性が悪いっ、こいつらはイスガの奴と同じで、切っても再生してくるっ」
「同じなら火の剣が有効だとは解っているのだが」
「なるほど――たぁっっ! 私は打撃しか攻撃できないので、こいつら相手だと致命傷にできませんしね」
「熊は私が相手しますので、なんとかなりませんか?」
「すまない、助かるっ」
エリアルは気持ち的に余裕はでき、この豪雨の中では、氷を使うと回りの雨が剣に凍り付きますます使えなくなる。そこで水を利用する剣を考えついた。
「(よし、ちゃんと僕の理想の剣になってくれよ……トモミさん……お願いします! 名前は……)」
「『ソード・オブ・メイルシュトローム』っ」
(【渦】)
すると、エリアルの剣に周りの雨の水が連鎖するように広がり大きな渦となり、振りかざすことで4体の人間の魔物を飲み込みみ空高く舞い上げ、そのまま地面に叩き落とすのであった。
さすがの人間の魔物も、高所から地面に叩きつけられ原型をほぼ失い再生しなく完全に動きが止まるのであった。
一方、ロザリナはデーアベを完全に拳撃で駆逐し、残り3体の人間の魔物に対し、しかたなく『シャイン・レストレーション』で完全に消滅させるのであった。
ゴロゴロゴロォ~――ズドーンッ!
安心しきった2人に、無常の落雷音がなり響く――。