115話 「誉美《ともみ》」ノ幻影
馬琴の存在を知った4人であったが、ルティーナに対する態度は変わらず今まで通り一緒にいてくれると誓ってくれた。
そして、会話が進んでいくうちに、エリアルの剣の中に、馬琴の婚約者である誉美が存在していることに気づき、彼女との対話を試みることにした。
ルティーナは唯一呼応するエリアルに、剣を持った状態で誉美に話しかけることを試させることにした。
しかし、反応は全くなかった。
反応が無い事に落胆する馬琴であったが、ミレイユの言ったスウエンが剣を見つけた時の話を思い出した。
――不思議そうにその破片を剣でつついたその時、水晶と剣が光出し、ムルシア語ではない聞いたことの無い言葉が耳に響いた
(おそらく、日本語で何かを伝えようとしてる……)
「シャルの水晶で見えていても、会話とかは聞こえないんだよね?」
「そうなんですぅ~」
(剣と一体になる直前だったから最後に喋れたのか?)
「ところで、剣の中のトモミさんは、見えたり聞こえたりしているのでしょうか?」
「僕が魔剣を使う時に、意思に沿って発動するってことは……聞こえていると思うんだけど……」
「マコマコみたいに、自分の意思を主張してる雰囲気はなさそうだね……」
「この件はこれ以上は悩んでも解決しないか」
(それ以前に、俺と誉美が水晶の破片に閉じ込められていたのか……この世界で一体なにが)
「皆、いろいろ付き合ってくれてありがとう」
「でも、少し謎が解けてスッキリしたよ。ありがとう」
「それとマコマコ、僕もこの剣は大切に使うようにするから安心してくれ」
(ありがとうエル……君だけは、あだ名で呼ばないと信じていたんだけど……)
(ぷっ)
「さぁて、ルナの不安が無くなったとこで、トリは、あたいがどうやって助かったかって話しだな」
サーミャはおもむろに鞄から、もみくちゃになった血まみれの紙を取り出した。
「げっ、何よこれ」
「そんなゴミみたいに見るなよ」
「まぁまぁよく見てくれよ」
「ん~、ムルシア語? 何が書いてあるの?」
彼女は、イスガで1人行動しているときに書庫にたどり着き、そこにある色々な事が記述されている本をあさったことを語る。
「それで必要なものだけ破って持って帰ったってこと?」
「そういうこと」
ルティーナが居れば、本を小さくしてそのまま持って帰れることが理想であったが、今では大地の下になっていることを残念そうに語る。
そして、ある魔法の描いてある紙を机の上に広げた。
「「「「『ディメンジョン・テレポート』?」」」」
「これは、呪者が心に思った人のそばに自分を転移できるって魔法らしい」
「それじゃ、ミヤは死にかけながらその呪文を唱えて偶然、墓場に?」
サーミャは、馬琴にも見解を聴きたいと、ここからは自分の推測と前置きにして話しを始める。
無意識のうちに死ぬならヴァイスの所へ行きたいと願いながら詠唱していた。
そもそも、この魔法は『火』『水』『雷』『風』『土』『光』の属性を扱えないと使えない。
彼女は『光』以外の攻撃5属性の持主であったが、偶然所持していた『鍵』は『イスガ』への出入りに使われていたものから、おそらく6属性を有していた物を持っていたから使えたのではないかと。
それにより、ヴァイスの所=墓地となり転移したのではないかと語る。
「そこに偶然、シェシカさんが居てくれて助かったってことね」
「運が良かっただけだがな……でも、ヴァイスに逢えた気はしてるんだけどな」
「で、マコマコはどう思う?」
(うーん……)
そして馬琴は、1つの答えにたどり着き、ルティーナが代わりに答え始める。
おそらく『鍵』は光魔法の属性しかなかったのではないかと。
封印の間にあった銅像と、始めの部屋にあった銅像に、そしてイスガに入る為の地上での状況から推測するに、それぞれ『光』属性を加えることで起動していると語る。
つまり、封印の銅像には、あと『光』魔法だけ加えれば封印魔法みたいなものが起動し、出入りする銅像には攻撃5属性が準備されていて『光』魔法で転移が起動した。
そうでなければ『鍵』だけで出入りや好きなところへ行けてしまうのだから。
「なるほどな、流石、マコマコだな。そっか……それの方がしっくりくる」
「でも、なんで銅像に差してねぇのに『光』魔法が使えた――」
「私達が脱出しようとした時、不自然に爆発音がしたの……」
ルティーナ達が最初の部屋で脱出しようかと悩んでいた時に、遠くから爆発音が聞こえたことを思い出す。
その時、サーミャが瓦礫の下敷きになったタイミングで、脱出をしたことにより『鍵』が光り、サーミャも脱出でき3分以内にシェシカに再生魔法で助けられたなら辻褄が合うと。
「攻撃の最上級魔法を使った……それが、お前らを脱出させるきっかけを作ったんだな……凄い偶然だな」
「あの時、マコマコの苦渋の判断が偶然を生み出したんですね」
「で、マコトが実験したいことがあるんだってさ」
「「「「?」」」」
『ディメンジョン・テレポート』をやってみようとサーミャに持ちかける。
ルティーナ達が持っていた『鍵』は銅像に差した為もう消滅しているが、サーミャは手に握っていたので持ち帰ることが出来ていた。
しかしーー。
「残念だな、マコマコ」
「すでに『鍵』を持って、実験してみたんだ。ルナを思い浮かべならが詠唱すれば、お前らの所に行けるんじゃねぇかな? って」
「『鍵』は役目が終わって効力がぁ無くなってしまったってことですかねぇ?」
だが、ルティーナは『鍵』を使う訳ではないと。
ロザリナに『ヒーリング・ストーン』の首飾りを渡し、回復魔法で充電するように指示した。
「あっ、なるほどそういうことですか!」
「?」
「マコトがさ、この首飾りをミヤが持って『キュア・ヒール』を発動した状態で、詠唱したらどうなるか試してほしいってさ」
「おぉぉ~、あの時の『鍵』と同じ原理ってことか!」
充電が終わるころ、エリアルは自分を目印にしてくれと伝え、自発的に宿の外へ出ていくのであった。
そしてサーミャが準備ができたところで、わざとシャルレシカに彼女に抱き着くように伝えた。
「はぁ~い」
「え、これはどういうことだ? ルナ」
「ミヤが一人だけしか転移出来ないか? くっついていれば一緒に転移できるのかも調べたいんだってさ」
「なるほどな、マコマコは抜け目がねぇな」
「ルナ、これで充電は出来たと思います」
「んじゃ、貸してくれよリーナ」
サーミャは首飾りを身に着け、回復呪文を口にするのであった。
「『キュア・ヒール』っ」
すると、サーミャの体を回復の光が包み込むのであった。
「……(エル)……」
「『ディメンジョン・テレポート』っ」




