11話 無双
大量なデフルウの強襲からバルストを救出したルティーナ。
そこへ避難したはずの全員がシャルレシカの感に導かれ合流する。
馬琴は好機と、全員を岩でつくった窯の中に避難させ、一気に外周にいるデフルウ達をほぼ全滅状態まで追い込むのであった。
最後の仕上げは、直接対決だと意気揚々と外へ飛び出すルティーナであった。
魔物相手に直接、【能力】を使えることに興奮が止まらないルティーナであったが、冷静に穴の開けた場所の上の壁に手を当て、【塞】を描き穴を塞いだ。
そして、デフルウがする来ないと聞いたルティーナは怯えるシャルレシカの体を包む大きさの【硬】を描き硬化させるのであった。
「る、ルナぁ~~? な、なんでぇ私もぉ外にぃ~? なんかぁ体がカチカチなんでですけどぉ~……」
(ちゃんと喋れるようだな。小鳥で実験しておいて正解だったな)
「良かった。あなたが居ないと魔物を全部やっつけたか解らないでしょ? ごめんね付き合って」
(それよりさ、ルナもシャルも平気なのか? この光景……この世界の人間って肝がすわってるのか?)
(意外と平気……かな?)
(俺、気持ち悪いるんだけど――)
(なによ情けないっ)
そんな会話の最中、一匹のデフルウがシャルレシカに飛び掛かったが、硬化した頭を噛み切れず困惑していた。
それを呆れて見守るルティーナであったが、馬琴が攻撃の手順の指示を出した。
(ルナ、短剣を抜いて、デフルウの方に向けて構えてくれ)
(えっ、私、お父さんに剣は指導してもらったけど、あんな機敏な魔物には、まともに当てる自信はないわよ?)
(んん、大丈夫、手は添えるだけだから)
(?)
ルティーナは言われるがまま、短剣の先をシャルレシカに噛みついているデフルウに向けた。
馬琴は添えた手のひらに、【伸】を描くと剣先が伸びていき、そのままデフルウを貫いた。
続けて、馬車から持ち出していた板を扇のように数枚構え、デフルウと対峙を始めた。
板にはすでに、さまざまな漢字を描いて準備されていたのだ。
迫りくる一番近いデフルウに向かって、【爆】と描いてある板を投げつけた。
デフルウが板をなぎはらおうとした瞬間に【起動】し、板は爆発を起こしデウルフの身が飛び散った。
そして次々と襲いかかってくるデフルウに板を投げ続けるルティーナ。
馬琴はそれぞれの飛んでいく板に対して、デフルウと板がそれぞれ接触する瞬間を見ながら、こまめに『起動』をした。
【雷】の板は、雷を落とし感電死させた。
【燃】の板は、炎で包み込み一瞬で焼き払った。
【嵐】の板は、激しい風が発生させデフルウを空高く舞い上げ、地面に叩きつけ憤死させた。
【毒】の板は、板から毒が吹き出し、それを浴びたデフルウは苦しみ悶えて死んだ。
「ルナぁ~あと一匹だよぉ~。そこの岩陰にぃ隠れてますよぉ~」
「ありがとう、シャルっ」
(さて、最後の一匹かぁ、ルナ? 1対1ならやってみたらどうだい? 自分の剣技も試してみたいでしょ?)
(え? えぇぇぇぇぇぇ~! わ、私が戦うのぉ~)
(……でも、やってみたい! 私も冒険者を目指しているんだから……これぐらい出来なきゃだよね!)
(まだ、左肩の【力】は残しているから、剣を振るうだけでもかなり強力だとおもう)
(
ルティーナは左手で【堅】を描き剣を持つ右腕に25cm程の大きさで転写し、続けて左手に【爆】だけを描き準備をしていた。
(わかった! やってみるっ)
そこに隠れていた、デフルウが飛び掛かってくる。
「出てきたねっ!」
ルティーナは剣で、デフルウの爪攻撃をなぎ払い互角に戦っている。
(すごいじゃないかっ! ルナ!)
善戦していたルティーナであったが、不覚にも足元の岩につまずいてしまう。そこを狙ってデフルウが牙を向いてきた。
その瞬間、剣を捨て硬化させた右手を突き出し、デフルウの口に向かって突き出した。
デフルウは拳に噛みついてきたが、堅くて噛み切れず躊躇した一瞬、左手に描かれている【爆】をデフルウの顔に転写した。
あわててデフルウが身を引いた瞬間、頭が爆散するのであった。
「ルナぁ~! すごいですぅ! もぉ、デフルウは居ないですよぉ~」
「でもぉ、私はぁ~、いつまでぇ~このままなのぉですかぁ~?」
馬琴は、シャルレシカの【堅】を【停止】し自由にしてあげるのであった。
ルティーナは、まさか自分たちの力でデフルウの大群を倒したことに大興奮であったが、バルストのことを思い出し窯から全員を外に出すことにした。
開かれた景色を目の当たりにした四人は、デフルウ達の死体の山と、仁王立ちするルティーナの姿に驚愕した。
ルティーナはバルストの腕を復元しようとしたが馬琴の【能力】でも復元できなかったことにくやしさを覚えるのであった。
だがアンナの献身で止血され、かろうじて動けるようにまで回復はしていた。
「ルティーナ、まさかお前に助けられるとはな……だが、これはおまえが一人でやったというか……?」
「ここで事情を聴きたいが、とにかくこの場を離れたほうがよいな」
「バルストさん、馬車の車輪が壊れてしまってます……どうしましょう――」
(マコトが、お父さんで壊したんだけどね……)
「それじゃ私、助けを呼んでくるから待ってて!」
「シャル~、念のため警戒だけよろしくね~」
ルティーナは鎖骨に手をあて、【翼】を描き空へ羽ばたいた。
その場を飛び去るルティーナの姿を、言葉を失い呆然と見送る五人であった。