108話 魔物ノ正体
1人となってしまったサーミャは、ヤケになり人形を倒し導かれるように通路を突き進み、行き止まりの先の部屋にたどり着く。
そこはイスガの書庫の様で、さまざまな研究の本が並べられていた。
そこで彼女は色々な魔法の本を目にすることになったが、興味が沸く魔法は、ほとんどが使えないものであった。
――そして、全員は合流に向けて再び行動を始める。
ルティーナとロザリナは、写し取った地図を使って、シャルレシカがいる場所に近くなるように通路を選んで移動していた。
彼女なら、自分たちの接近を察してくれると信じて。
「ルナ、このまま進むと次の部屋で行き止まりですね」
「シャル達に近づくためには、一度、外に出て、ここの場所にある部屋に入り直した方が早そうですよ」
ルティーナは、シャルレシカがここに着いた時に外には悪意のない魔物がたくさんいると言っていたため外に出ることは避けたかったが、
ロザリナの示す部屋とこの場所の距離は見た目20mぐらいしか離れていないため、2人の力であれば万が一でも対応できると判断し、通路の壁に【穴】を描くことにするのであった。
「じゃぁ、穴を開けるよ」
「(コクリ)」
一方、シャルレシカは3人の様子を覗きながらエリアルと爆弾の部屋で様子を見ていた。
「ルナ達は、どんどんこっちにぃ近づいてきてますねぇ」
「ミヤも近づいてはいませんがぁ、みんながバラバラになった場所に移動しなおしているようですぅ」
「この部屋には1つ階段と扉が2つか……」
「位置的にわぁ~、階段を上がればルナ達に近づけそうですぅ」
「しかし、地上に出ると……何か居るんだろ?」
「う~ん……悪意は感じないんですがぁ」
2人は合流すれば何とかなる可能性が高いと判断し、階段を登ることにした。
そして、目の前にある扉を開けると――。
「そ、外? に出たのか?」
「それに、空が低い……いや、空を砂が渦を巻いて埋め尽くしている……のか? なんて光景だっ」
「「「「「グルルルッ――」」」」」
「僕達に襲い掛かって……魔物というより人? ……じゃないか?」
「そんなぁ……悪意をぉ感じなかったのにぃ」
その頃、サーミャは道を戻りながらも、人形との戦闘に夢中になっていたため通路に何かを見落としていないかを探しながら、元の道を戻っていた。
しかし、冷静に通路を見ることができたサーミャは、通路に疑似した扉を見つけるのであった。
「これ、扉だよな? わかりにくいなぁ~」
「しかし、このまま戻っても結果が見えてる……この扉に賭けるしかねぇか」
そして、サーミャが扉を開けると上り階段があり、その先へ進み行き止まりの扉を開けると――。
「そ、外? 砂が渦巻く空? これが今のイスガ王国なのかよっ」
「「「「「グルルルッ――」」」」」
「シャルが言ってたやつか? ……人? いや魔物なのかっ? 悪意はねぇって言ってたよな……襲ってくるのか?」
「なら、先手必勝だぁ~『フリーズ・ランス』っ」
しかし、魔物に直撃するが対して効いていないのであった。
「効かねぇ? なら、例のやつを試してみるかっ」
そしてサーミャは覚えたての『フィルス・フリーズ・ランス』を、逃げながら放つのであった。
魔法は魔物の左肩に直撃し、ちぎれ落ち血らしきものが噴き出しているにもかかわらず、まだ動き襲ってくるのであった。
「さすが威力が違げぇなぁ……でも、倒せねぇか……なんなんだこの魔物は」
「グオアアアァッ――」
魔物は雄たけびをあげると、ちぎれ落ちた腕をひろい身体にくっつけ再生するのであった。
「マジかよっ、てめぇはリーナかよっ」
「へ、ぷしっ」
「どうしたのリーナ、外に出たとたん粉塵が舞っちゃったね。ごめんね」
「う~ん、これのせいでないような気が……」
「それにしても、この光景は異様よね……でも魔物らしいやつはいなさそうで助かったわ。で、あの建物が目的の部屋に繋がるのね?」
「えぇ、行きましょう」
エリアルもサーミャ同様、魔物と対峙が始まっていた。
『ソード・オブ・スラッシュ』で剣の切れ味を最大にしても、斬りつける程度しかできず、すぐに完治してしまうため困り果てていた。
シャルレシカも『エクソシズム・ケーン』を使って雷による魔法攻撃で応戦するが、それも効果がなかった。
「雷もダメ、斬るのもダメなら、それなら焼いてやるっ」
「『ソード・オブ・ヴォルケーノ』っ」
(【炎】っ)
「これならどうだっ!」
エリアルの魔剣は、魔物は炎に困惑し不用意に差し出した左腕を切り落とした。
切り落とされた腕の切り口は燃えたまま転がり、切られた側の腕の付け根も燃えたまま火が消える様子はなかった。
「効いてるぅ? なら、ふっ『フレイム・インボルブ』ぅ~」
シャルレシカの追撃も効果があり、魔物の全身は炎に包まれ苦しみ始めた。
すかさずエリアルは『ソード・オブ・スラッシュ』で切りかかり真っ二つにし、魔物はそのまま燃え尽きるのであった。
「一体何だったんだ今の奴は、本当に悪意がないんだよね?」
「う~ん」
「でも魔物は足が遅そうだね。走れば十分逃げられそうだな……先にルナ達と合流を――」
「その前にぃ~、さっきのぉ切り落とした腕からぁ、記憶を読み取ってみていいですかぁ?」
「あぁ人形は機械だったが、こいつは生き物だからね」
エリアルは『ソード・オブ・スプラッシュ』を使い、水で燃やされていた腕を消化した。
シャルレシカは魔物の実態を探ろうと、すぐさまその腕から記憶を読み取ろうとしたのであった。
「こ、これってぇ~人間の腕ぇ?」
「!」
「どうやらぁ、この国を襲撃したぁ魔物の息吹を浴びてぇこうなってしまったぁ様ですぅ」
「そ、それじゃぁ、この魔物達はイスガの民?」
「もしかして、襲ってきたのではなくって……」
国民の全員が魔物になっているとすればかなりの数であるはずだが、80年近くこの状態であったのだろうと予想され、数が少ないのは寿命で死んでしまったのではないかとエリアルは想像した。
つまり、今、さ迷っているのは当時の子供達の80年後の姿であり、無邪気に自分たちに寄って来たかっただけだから、悪意がなかったのでないかと……。
2人は切ない気分になり動揺しているところへ、数匹の魔物が押し寄せ始めるのであった。