1話 邂逅《カイコウ》
俺の意識が少女の中に? 異世界召喚に失敗された男の異世界冒険が始まる
王城の薄暗い部屋の中、数人の者たちによって秘密裏に『勇者召喚の儀』が行われていた。
国王らしき人物が、勇者召喚をもちかけた占い師の老婆に語り掛ける。
「おぉ、あれがヘルアドの言う『流れ星』か?」
老婆はそれが勇者召喚の合図だと答えている。
これで悪災に立ち向かう勇者の出現を期待する声が漏れる中、水晶に映る勇者候補らしき人物の中に、男性ともう一人、女性がいる様に見えたその瞬間、突然会場は大爆発に巻き込まれ国王以外は跡形もなく消し飛んでしまったのであった。
――この事件は当時、王都襲撃事件として処理された。そしてその事件から8年の月日が過ぎるのであった。
とある森の小道で、幼女がデーアベ――熊の魔物――に追われている。
悲鳴を上げながら必死ににげる幼女は転倒し、足をくじいてしまう。
絶望しかけたその時――
「こらぁ~! 熊野郎っ! 何してやがるぅぅぅぅぅぅぅ~」
と勇ましいながらも可愛らしい怒声が響き渡る。
幼女が目を開けると、銀色の長い髪を持つ同い年くらいの少女がデーアベに飛び掛かっていく姿が目に飛び込んだ。
銀髪の少女の手のひらには何かの模様が浮かび、その手でデーアベの後頭部をひっぱたき、後ろに飛び去りながら「目を閉じて! 耳をふさいでっ!」と叫んだ。
幼女が言われた通りにしたのを銀髪の少女が確認した直後、爆音が響きわたる。
次に目を開けた時は、デーアベの頭は爆散し絶命していた。
銀髪の少女は幼女に
「あなた、大丈夫?」
「足は痛くない?」
と優しく声をかけながら、再び手のひらに何か模様を浮かべ、幼女の足首に手を添えた。
この辺りは魔物が居たことを不思議そうな顔をしてながら銀髪の少女は独り言を言っていた。
そんな姿に違和感はあったが幼女は自分の足の痛みが和らいだことに気付いた瞬間、銀髪の少女はそれは治癒魔法でない事と告げ、ただの気休め程度だと説明した。
そして街まで一緒に移動することとなり意気投合し自己紹介をしようとした所へ、仲間の女性が慌てて駆け寄ってきた。
「る、ルナァ~待ってぇ~! 私を置いてぇ~先に行かないでぇ~くださいよぉ~! 走るのぉ~苦手なんですからぁ~」
「ごめんごめん! シャルと一緒じゃ間に合わなかったからさ」
「自己紹介が途中だったわね! 私の名前は、ルナリカ=リターナ! これからノスガルドに行って冒険登録するのよ!」
――ルナリカの本当の名前はルティーナ=リバイバ。彼女は訳があって偽名で冒険者になろうとしていた。
そして彼女にはもう一つの秘密があった。それは彼女の中に、里見馬琴という高校で古典の教師をしていた男の意識が宿っていた。
彼は2061年7月、妻となる為永誉美という同じ高校で国語の教師をしていた女性と結婚することとなり、幸せな瞬間を迎えようとしていた。
式は順調に進み、いよいよ誓いのキスの瞬間が訪れようとしたとき、周りからカメラマンのフラッシュが炊かれ始めるが、その瞬間に突然まばゆい光に包まれてしまい、意識を失しなうのであった。
それからどれだけの時間が過ぎたかも解らないまま気が付くと、馬琴は見慣れない西洋風の小屋の中に居たのであった。
体を自由に動かせないことに気づき、あたりを見回す中、ふと目に入った鏡に見覚えのないかわいらしい銀髪の少女の横たわる姿が目に飛び込んできたのであった。
彼は必死に声をかけていたが、声を出している気が全くしなかった。その少女を見続けるうちに、鏡に自分の姿がない事に疑問を覚え、まるで自分を見ているかのような感覚に陥った。
そんな中、逆ギレしながら少女――ルティーナ――の声が語りかけてきた。
ルティーナと口論している内に、馬琴は自分の中にルティーナが居るのではなく、ルティーナの中に自分の意識が存在しているという理解しがたい状況であるという結論にたどり着くのであった。
馬琴はこの状況に困惑つつも、この状況と自分は害はないことを必死に伝えた。
ルティーナは自分の頭の中に聞こえる「おじさんの独り言」に不満を述べるがらも、馬琴は害が無い事を理解し、自分が動けない理由もあわせて状況整理をする事に協力することにしたのであった。
そして自分は11歳であること、『ルナ』と呼んでほしいと自己紹介をするのであった。
馬琴も『おじさん』は簡便して欲しいと、せめて『マコト』と呼んでほしいと頼み込むのであった。
ここから馬琴とルティーナの奇妙な共同生活の物語が始まる。