とある男の思考
シュポーロのとある一室
「お疲れ様です。ビーヌさん。」
「バンテス様、何かありましたでしょうか。」
「そう緊張しないでください。それと私とあなたの間に差はありませんから、様なんてつけなくていいんですよ?」
「私には、、、まだ、、、」
「それがあなたの美徳ともいえますから、強制するつもりもありませんがね。」
バンテスが呼びかけるが
一人で呼び出されることなどなかったビーヌにとって
心を落ち着かせることなどできない。
「それで、、その、、」
「ああ、要件でしたね。まぁ、お座りください。」
微笑みながら座るように促すバンテスに対する恐怖にも似た感情を押し殺し
促されるままに腰掛けるビーヌ
「さてビーヌさん。国際平和祭まであと1カ月と言ったところですが、どうですか?やはり不安ですか?」
「、、、はい。」
「あの場に居た方々がいるわけですから、無理もないでしょう。」
「それで、その、、、、、私は何をすればいいのでしょうか?」
「今回あなたがすべきことというのは特にありません。厳密には私たちも動きますが、あなたがすべきことは身の潔白です。」
「身の、、、潔白」
ビーヌはオウム返しのようにバンテスの言葉を理解しようとするために繰り返す。
「言葉通りの意味ですよ?」
それを察してかバンテスは安心するよう声をかける。
その言葉に圧はなく本当に善意しか込められていない言葉に
ビーヌは戦慄する。
ビーヌとしては自分の父親をバンテスの指示通り動き、
蹴落として今の地位に就いた。
ゆえに
自分も消されるのではないかそう考えずにはいられないこともあり
かえって優しいトーンが不安をあおる。
「先日の国際会議で多くの人々に顔を知られた状態でアレが起こった。あの場に居た人間からすればあなたも警戒対象なわけですね。なので今回はあなたにはただ平和祭を楽しんでいただこうかと思うのであなたには何の情報も開示しません。あなたの身の潔白をするという仕事とこちらの仕事は完全に切り離します。」
ビーヌは一つの可能性にたどりつく。
たどり着くべくしてたどり着く。
消される
と
「本当にあなたに危害は与えませんよ?あなたからしてみれば私のこの言葉が信じられないのは理解できますが、あなたの今の状態も私の言ったとおりに動いた結果なわけですし、あなたがとるべき責任はありませんので、本当に心配しないでいただきたいのですがね。」
「は、はい。」
「こうなったのも私の責任ですし、少々お話ししましょうか。とりあえずあなたが平和祭で警戒すべき人から話していきましょうかね。」
「お、願します。」
「まずは、、ミルティコアからでしょう。もともとが大国で油断ならない国ではありますがね。国王は、、言うまでもないでしょう。魔眼のことは知っていますね?」
「はい。慧眼の魔眼ですね。」
「そうです。使うことはないとは思いますが、念のため気を付けてください。特に部屋に入るタイミングと出るタイミングですね。次に纏晨弥ですね。ご自分の眼で見られているからわかるとは思いますが九世なれる時点で人の物差しで測ることは不可能です。衝突は絶対に避けてください。」
ビーヌはうなずく。
バンテスに言われた通り飛び込もうとしたとき
体が拒否反応を示していた。
あの場所へ行きたくない
と。
行かなければ自分がどうなるのかわからないため死ぬ気で飛び込んだわけだが
あの状況で平然と立っている晨弥という男の危険性は理解していた。
「バンテス様」
「?どうしました?」
「あの晨弥という男は、、天才なのでしょうか。」
「あの場で何かありましたか?」
「それが、、その、バレていたというか」
「バレていた?」
「はい。父上が何をしようとしているのか見透かされているように感じました。」
「なるほど。アルゼディア国王の入れ知恵も考えられますが、、、あなたは入れ知恵された人間を見分けることは多少できますよね?」
「ある程度はできるかと。」
「となると、どちらにせよ知能は間違いなくありそうですね。」
「知能、、、ですか。」
「そうです。よく他者に対して使う言葉に知性という言葉はよく聞きますが、知性とは品性の一部であると同時に足りない品性を補うためのものでもあると私は考えています。」
「、、、、」
「なるほど。そこの話を少々するとしましょうか。まぁ私はこう考えているという話なので、それを聞いたからと言って自分の考えを捨てることはないですよ。」
「は、はい。」
「知性という言葉をよく聞きますが、知性という言葉を使いたがる人間というのは多くいます。特に知能の高い方がその傾向にあると考えています。この知能の高い人間というのは例えば難関資格を持っている人間とかがそうですね。」
この世界にも司法試験のようなものがある。
科学世界とは合格した先にあるものは違ったりする。
「難関資格を持っていなくとも別の方面において同等の知識を持つ者などもそうですね。そういった方々の中で知性が足りていない方がよく知性という言葉を使います。それはなぜか。知能が足りていない者を馬鹿にするためです。知能が足りていない者を見下し蔑み、自分のような賢い者たちが支配しなければならないと、思いあがった者たちが使う言葉になってしまっていることが現状です。こういった人々が使う知性という言葉を私は濁性と置き換えて呼んでいます。」
「じょく、、せい、、」
「そうです。知能のある方と知能無きその他を区別しようとしたのでしょうね。ちなみに知性があるかどうかの見分け方聞きますか?」
「お願いします。」
「別にどうということはないのですよ。一番簡単だと私が思うのは、有名人や偉人が言ったとされる俗にいう名言の引用の仕方です。あとは書き言葉でも話し言葉でも命令口調になっていたり、その文から自身は優秀なのだと錯覚して自身の発言を理解できない者というより自身の発言を肯定しない者を馬鹿にする内容になっていたりしますが、、、こちらは一旦いいでしょう。話を名言の引用に戻しますが、使うタイミングとしては正しいところで使えるのは知能があるからでしょうが、知性がある者とない者とではそこから違うが生じます。結論から言うと自分に向けて使う方か他者に向けて使う方かの違いですが、、まずは知性のない方からですね。知性がない方は他者に向けて引用して馬鹿にするのです。引用をするだけして「そんなことも知らないの?」といった具合に他者を小ばかにするために使っている方ですね。」
「では、知性のある方というのはどういった方なのでしょうか。」
「知性があるから知能があるとはこればかりは限りませんが、知性無き方の逆。と言えば簡単ですが、、、そうですね。引用した言葉から自身が何を導き出したのかまで提示する方や、その言葉を受けて自分の行動を変えられた方ですね。、、、例があった方がいいですよね。」
「はい、、、」
「例えば、、、オールデン伝記を知っていますか?」
「はい。読んだことはあります。」
「あの伝記に出てくる言葉で「私の剣にほころびはない。」というものがあると思いますが知っていますか?」
「知っています。」
「あれを読んでいるのなら知らないと答える方はいませんよね。知性のない方々というのは、この言葉をそのまま使って他者の語彙力の少なさ、知識不足をあざ笑います。そういった面に対しても使うのは間違いではないとは思いますが、他者に対して使うものではないのです。状況に応じて必要な知識や技術、そして所持品その全ての準備はできていると自信を奮い立てる言葉です。私自身が知性のある人間だというつもりなどありませんが、部下の皆さんが働きやすい環境、例えば私への連絡のしやすさもそうですが、余計な緊張感を持たれないようにすることが、この言葉の意味に沿うことができると考えまして、私自身行動に移しているわけですね。自分で言うのは少々恥ずかしいですがね。」
「なるほど。」
「ついでと言っては何ですが、先ほど少し出た品性についてもお話しましょうかね。品性というものを話題に出すとよく出てくる言葉として金持ちが出てきますね。金では品性が買えないだとか。金のある者は品性があるだとか。この手の話をしているのはおおよその場合お金があまりない方々なので、金持ちという存在を漠然としか理解していないのですよ。正しくいうなれば品性とは金を得る過程で得るものなのですよ。そもそも買うという発想が間違っています。」
「しかしそれでは」
「そうです。今の私の説明では金で品性は買えないという言葉は生まれません。品性というのは金持ちになる過程の長さに比例します。もちろん、短くても品性のある例外もいます。大体の物事に例外はありますから言わなくてもいいのでしょうが。例えば今の冒険者稼業というのは強ければ一瞬で大金を稼げる職業です。領主級ほどの実力があればなおさらです。それゆえに領主級が一番品性の差が激しいのです。もちろんそれより上の階級でも品性がない者もいますがね。ここまでくれば察しているかもしれませんが、大金と言うものの手を伸ばしていた時間が長いほど必要なものが身に付きやすく、品性を得やすい。逆に短ければ短いほどに品性とは無縁でうぬぼれた金の奴隷になってしまうのですよ。」
「そしてそんなうぬぼれた方というのは、例えば自分の方が多く金使っている経済を回しているなどなど言いたがりますが、所詮は金の奴隷です。騒がせて差し上げましょう。」
「、、、」
「他にも何かご質問がおありですか?この際ですから質問があれば私の考えになりますがお答えしますよ?」
「では、、話が変わってしまい申し訳ないのですが、過去にあった国の記録を見ると財力と権力のある者たちが財力と権力のない者たちに敗れることが多々あると思うのですが、財力、権力と暴力の力関係が逆転するのはなぜですか?」
「球体をイメージしていただければわかりやすかと思います。おっしゃる通り通常であれば、財力、権力は暴力というものより力関係が上です。」
バンテスは自身の魔力で球体を作り出し、ビーヌが見ている面の中心を発行する点を作り
その少し上にもう一つ点を作る。
「つまりこの状態だと暴力より権力、財力の方が上ですよね。」
そういいながら少し球体を動かし
二つの点の間に線を入れる。
「これで少し点を見やすくなりましたかね。この線は二つの点をつなぐ最短の線の中間です。点をつなぐ線は権力、財力と暴力の近さを表しています。中間の線は超えられない壁です。」
そう言いながら二つの点を線を中心に近づける。
「このように近づけても暴力が権力、財力超えることはありません。何故だと思いますか?」
「人の理性、、でしょうか?」
「そうです。人として持つべき理性、倫理ですかね。今の世の中であたり前のように存在するそういったものがストップをかけているわけです。そしてすでにお気づきかもしれませんがもう一つ近づける方法がありますね?」
「権力と財力を180度以上のところにもっていく。」
「その通り。180度を超えると、最短はこの球体の動かし方で行くと暴力が上になりますが、距離が近くなりますね。つまりこれが革命というものであり、悪政を敷いた国が滅んだ理由です。この時の暴力は武力へと至ります。ゆえに権力者は暴力というものに恐怖し物理的な力をすべて暴力だと言い張り、ふるってはいけない力だと教えます。もちろん、暴力はふるってはいけませんからちょうど良いのでしょうね。」
「球体の動かし方を変えれば権力、財力が上に行ってしまうと思うのですが、、」
「その場合は、他国が権力、財力側へ加担したりすればそうなります。」
「その時、知力はどうしているのですか?」
「その時、知力は二つに分かれます。知性があるかないかに。無い場合は常に権力と財力の奴隷でしかありませんので、いいように使われる代わりにいい思いもしているでしょう。ある場合は消されます。危険分子なので。」
「消されるのは、、知性があるが故の運命なのでしょうか。」
「あなたがその運命をどういうものだと考えているかはわかりませんが、そうとも言えるでしょう。私は運命は過去の積み重ねた結果だと考えています。よく神の導きだというものがいますが、神なんてものは所詮、自分の行動を正当化するための道具にすぎません。自分の行動に責任を持つ覚悟のない者たちの集まり、知能がない者もまた自分の覚悟を何かに肩代わりさせようと神を信じます。ああ、この時の信じるというのは依存するという意味です。例えば「我らが神が我らが神を信じない者は殺して良いといった」と言って殺すのはそうしたほうが他の考え方を糾弾し思い通りに洗脳できるからですね。」
「なるほど。」
「とはいえ神はいても良いと思いますがね?」
「え?」
「いたらいたで面白いじゃないですか。科学世界にもなんとか神話なるものがあるようなのでぜひ読んでみたい。」
「わかるようなわからないような、、、」
「簡単に言えば聖都なんかは1万年ほど前からあるようですが、考え方の強制などはしませんよね。ただ厄災を神と崇める者たちは色々と野蛮ではないですか。」
「確かに、そうですね。」
「私が嫌いなのは後者のタイプです。まぁ、前者とて思うところがないわけでは無いですがね。」
「、、、」
「っと申し訳ありません。ついつい興が乗ってしまいました。確か、、平和祭で警戒すべき人物でしたね。申し訳ありません。今から続きをはなしても?」
「よろしくお願いします。」
、
、
、
、
、、、、
「ふぅ、、、いつになく饒舌でしたね。」
ビーヌも部屋から出ていき一人になった部屋で
独り言をつぶやく。
「人は生まれながらに悪で、善を手にしながら歩く。それが人生、、、、」
ビーンさんは生きてはいます。




