起源
「あ゙~~やっと終わったあ゙~。あの教授のレポート面倒なんだよなぁ。」
一般大学生によくある愚痴をこぼしながら、僕は今学期最後の仕事を締め切りまでに終わらせることができたことに安堵しつつ、
「でもなぁ、単位なぁ、取れてるかなぁ、、、毎度不安になるんだよなぁ、
あ゙ーおなか痛くなってきた。
てかこれ絶対胃に穴空いてるだろ。うん、間違いない。」
などと、今更いったところでどうしようもないことをこぼしながら、いったん寝ようかと眼鏡をはずした時だった。僕は空中にいた。厳密に言うのならば豪華な内装をした空間の空中にいた。
「え?」
と、素っ頓狂な声を出した時にはすでに遅く、そのまま固い床と こんにちは をしていた。そして気を失った。なんともまぁ無様な異世界転移だと心の底から思うことになるのは、案外すぐのことであるのだが、この時僕は気を失っているので、そんなこと知ったこっちゃないのである。
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僕がこの異世界に来る少し前
国王と王国魔導士団長、王国騎士団長並びに関係のある貴族、学者たちによる会議が王城で行われていた。
「して、ゴブリンの急激な活発化の原因、並びに現在の状況はどうなっておる?」
普段の国王はかなり優しいことで有名で、普段より使い慣れていない威厳のある口調には、どこかその優しさが見え隠れしているが、そんなことを気にしている暇は誰にもなかった。
「はい。魔導士団と魔物学者共同での調査を行いましたが、活発化の原因らしきものの発見には至りませんでした。ただ、ゴブリンの数も活発化に比例するように増えており、今後も増加するものと思われます。」
答えたのは、王国魔導士団長のアンスである。長く続く王国の歴史でも30代で士団長に就任する者は珍しく、長命種たちが「ほぉ」と声を上げるほどである。続けて王国騎士団長のバリアスが答える
「今回の騎士団大森林遠征でも異変が見られました。大森林に入ってすぐの場所でオーガとゴブリンの死骸。大森林入口より2日進んだあたりの地点で、アッシュウルフのものと思われる爪痕をいたるところで確認しました。ギルドに情報共有とすり合わせを行ったところ、爪痕を確認した地点付近でアッシュウル フの群れの討伐を確認しました。アッシュウルフの生息地である峡谷は大森林の近くにはありますが、縄張り意識が強い彼らが大森林で爪とぎをするだけでなく、縄張りを主張する爪痕を刻むのは異常としか言いようがありません。ただ、これを除いてもアッシュウルフがいた付近に生息しているはずのオーガ が大森林入口付近にいたこと、ゴブリンとの戦闘回数の多さ、どれをとっても異常としか言いようがなく、ゴブリンの増加がほかのところにも影響を与えているのは間違いないかと思われます。」
これを皮切りに貴族たちが領地の現状を話し出す。
「私の領地の村もいくつかゴブリンに襲われておりまして、女性を重点的にさらい、男はその場で殺す
というのを何人かにした後、すぐに帰るようでさらわれた女性を見つけ出すのが難しく、救出する際にはもうというのが多いです。」
「うちも同じ手口で領地から遠くの村が襲われるので、まずそこで情報が入ってくるのが遅れる可能性があり、動かせる兵に限りがあるので、巡回させようにも限度がある。というのが現状です。」
といった具合に嘆きとも、兵を送れ、ともとれる会話が続く中、国王が口を開く。
「ふむ。私も海洋国オーシャルの女王に聞いたのだが、少なくとも1000年前も始まりは今と似ていたようだ。」
この言葉がさらに議論に拍車をかける。
「海洋国の女王も長命種で1000年前は九世として戦っていた故、70年生きていれば運がいい我々とでは経験が違う。念のため準備を始めたほうがよさそうですな。」
「準備といってもこの国には九世レベルがいない。とはいえ質なら他国と比べても高水準故、そこでどうにか」
などと言っている時だった。
「え?」
という声とともに、会議室に膨大な魔力が何の前触れもなく出現した。
これにいち早く対応したのは、やはりというべきか士団長の二人であった。その場にいた貴族たちを守るように陣取り、出方をうかがう構えをとった。しかし、膨大な魔力をまとう男は動かない。数秒の沈黙 それを破ったのは、国王だった。
「そのものは気絶しているようだ。敵意も悪意もない。魔力封印の枷をつけるまでこの魔力に耐えられない者は退避させよ。魔力封印の枷は、アンスが、バリアスはアンナを連れてまいれ。」
国王の「敵意も悪意もない」この発言に誰からも疑問の声が上がらなかった。国王の人を見る目があるかないかにかかわらず、疑問の声が上がらないのは、理由がある。この異世界には魔力のほかにもう一つの力がある。それが魔眼である。魔眼は、魔力の多い者に発現しやすいが、しやすいだけで、魔力が少ない者でも発現する。そして魔眼にはいくつもの種類がある。
国王が所持する魔眼、それが「慧眼の魔眼」である。
これにより、誰からも詰められず、ほかの者が行動に移すことができた。この出来事での一番の収穫は、
僕が死なずに済んだことであり、王国のそして世界の歯車が大きく動き出したという事実を皆が知るのは、だいぶ後のことである。
主人公が気絶しているのでここで終わります。