鉱物学(mineralogy)的夢想の一考察
栃の実が山ほど落ちている
むろくぼ沢の清冽な水は
うんざりとした夏の日の澱を
きれいに洗い流してくれます
そのさまは鈴の音のように
黒雲母の砂のきらりと光る
むろくぼ沢の冷涼な水は
緑の泥で覆われた斜長石と
クォーツから生まれてきたのです
真っ白な峠の浜辺で
巨晶閃緑岩のみる500万年の白昼夢に
ボクはくらくらと眩暈して倒れてしまいそう
微細な緑のくさびを打ち込んで
六角柱の白い骨を掘り起こしてみようか
大地の毛細血管に迷いこみ
凍結した新第三紀の遺物を探し
無機物の記憶にさまよい
周期的でない秩序を辿り
それはいわば地球の
精神分析といえるかもしれません
その知れない底はあんまり真っ青で
のぞき込むボクは体を震わせてしまうのです
どんな海溝よりも深く深く、深く
鉱物学的夢想にふける
ある夏の昼下がり
【注】
むろくぼ沢というのは、山梨県道志の室久保沢のことです。ひとつ山を越すと、神奈川県のモロクボ沢です。ややこしい。