第8話 俺ってもしかしなくとも、PvEだとただのお荷物じゃん。
「まるもど、ほんなほとは」
「口に物を入れながら喋らない、行儀悪いでしょ」
奢ってくれた食事を頬張りながら、俺と花音は彼女について聞いていた。
管理所は何事も無かったかの様に、もとの喧騒が戻っていた。
ここでは良くある事なのだろうか。
彼女の名前はブランカ、歳は14歳、親が多大な借金を残して夜逃げし、昨日まで貴族の屋敷で働いていたらしいが、元々彼女の事をよく思っていなかった男達が酔った勢いで襲いかかってきて、逃げてきたらしい。
「借金はまだまだいっぱい残ってるから、どうしても働かなきゃいけない……」
ブランカが淡々と自分の暗い過去を話すので、俺は少し心配になった。
放っておいたら壊れてしまうんじゃないか、感情がなくなってしまうのじゃないか、と。
「借金を返し切るまででも……、お願い……」
「返し終わってもブランさえ良ければ一緒にいていいよ」
花音はブランカの頭を撫でながら、そう言った。
ピクッと肩を動かした彼女は、「ありがとうございます……」と、変わらないテンションで頭を下げた。
頭を上げた拍子にフードの隙間からチラッと見えた顔は、とても中1とは思えないほど大人びていた。
あれ?さりげなくブラン呼びした?
「ふー、お腹いっぱい」
「ちょっとは遠慮したらどうなの?」
自分だってご飯おかわりしたくせに。
まぁ俺4杯食べたけど。
空腹は満たせたけど、宿に泊まる為の金が無いのは変わらないから稼がないと。
後ろを見るとブランカが俯きながらついてきている。
「そういえばブランカのルフナってどんなの?」
ブランカは両手で四角を作って広げ、可視化した画面をこちらに投げてきた。
ブランカ 14歳 女
ルフナ
欲を満たして貯まったポイントを使って火の精霊を呼び、さらにポイントを使って操れる。
ポイント
3
解放率
0%
熟練度
0
「欲って何でも良いのか?」
「何でも良い、でも、その時自分が欲している欲を満たすと、もらえる量も増える……気がする……」
3ポイントしかないと言う事は、それだけ欲が満たされて来なかったという事か……。
あ、
「そうだブランカ、まだお金残ってる?馬車で街の外まで行けるくらいの」
「それくらいなら……」
「花音!これであの長い道を歩かなくて済むぞ」
「そ、そうね……」
花音は浮かない顔をしていた。
そりゃそうだ、中学生から食費だけでなく、交通費まで取ろうと言うのだから。
俺だって何とも思わない訳じゃない、でもしょうがないじゃないか、逆にjcに数十kmも歩かせろと言うのか。
これだけはどうしようも無い。
あまり気は進まないが……。
「三人街の外までお願いします」
ブランカから受け取った金を俺が払って、馬車に乗り込んだ。
馬車が動き始めると花音がこちらをジト目で見てきた。
「何すか」
「別にー」
花音も自分にしょうがないと、言い訳してるんだな。
そう勝手に解釈した。
「着きました」
「もう!?」
馬車流石だな、ケツいてぇけど……。
「あれ?いつの間に外壁なんか建ったんだ?」
元々柵が建っていたであろう場所に、立派な外壁が街をぐるっと囲む様に建っていた。
さっき街に戻った時には無かったはずだよな。
「本当だ、建築が出来るルフナ持ちの人でも居るのかな?」
あー、確かにそれなら短時間でも建てられるのかも?
ルフナって戦闘以外にもいろんな使い道があるんだな。
この世界では、俺らが思ってる以上に日常にルフナがなくてはならない物になっているらしい。
塀の前に止めてもらった馬車から降りて、徒歩で開きっぱの塀の門をくぐる。
その奥には虫と戦っている人達が何人か居た。
そのさらに奥に一匹で歩く蟻が見えた。
「よしあいつを倒すぞ」
「瑛太は何も出来ないから下がって!」
「おい!まぁその通りだけど……」
反論出来ないのが悔しい。
「まず私が切り込むからブランは隙をついて精霊で攻撃」
「ん……」
蟻に向かって歩きながら、花音はポケットから猫耳カチューシャを取り出した。
…………。
そう、猫耳カチューシャだ。
さっき街で安かったから買ってきて(もらって)いた。
花音のルフナは『コスプレをしたものの能力を使える』『コスプレの完成度が高ければ高いほど強くなる』と言うものだ。
よって、猫耳カチューシャをつければ、引っ掻き攻撃のようなものが使えるのではないかと言う考えだ。
「おー!」
カチューシャをつけた花音がいきなり声を上げたと思えば、立ち止まり振り返って、こちらに向けて手を突き出してきた。
「おー!」
その手をよく見ると爪が少し伸びて鋭くなっていた。
俺の反応を満足そうに受け取った花音は、振り返って蟻に向かって走り出した。
「ちょっ、待ってー」
追いかけるが、花音との距離はどんどん離れていく。
ついには後ろからブランカに越された。
「う…………」
やばい泣きそう……。
前世も前々世も運動神経だけが俺の取り柄だったのに……。
花音はもう蟻のすぐそばまで行っている。
それに気づいた蟻が花音に向けて顎を突き出した。
ざん……。
一瞬だった。
蟻の顎より先に花音の爪が蟻の頭を裂いていた。
蟻の傷口からポリゴン片が散り、やがて全身が消滅した。
攻略本には「蟻は攻撃力がある代わりに、耐久力が少ない」と書いてあったけど、まさか一撃とは……。
しばらく立ち尽くしてた花音は、近づいてきたブランカに気づいて手をかざして、ブランカも戸惑いながらもその手にハイタッチした。
少し遅れてついた俺も花音とハイタッチを交わした。
「初めてルフナを使った気分は?」
興味本位で聞いただけだったが、
「すっごく気持ちよかった」
少し火照った顔で、目を光らせながら、想像の斜め上の解答が帰ってきた。
ルフナに快感を促す効果があるのか、蟻を切り裂いた感覚が気持ちよかったのか、どちらかは分からないが、前者である事を願った。