第7話 なんてタイムリーな子なんだ。
ガタガタ、ガタガタ……。
俺と花音は気がついたら馬車に揺られていた。
親切な人が乗せてくれたのだが、その人が言うには蟻に運ばれていた所を助けてくれたらしい。
ちなみに、なぜ蟻に運ばれていたのかは、その人達は勿論、俺と花音も覚えていない。
と言うか、思い出そうとすると全身が震えて、冷や汗が出るのでやめておいた。
「あ、そういえば自己紹介がまだだったな、俺はテレイ、この辺のパトロールをしている」
そう言った、スキンヘッドでイカつい兄貴が伸ばしてきた手を握る。
「同じくこいつと一緒にパトロールをしてるホリーってもんだ」
テレイとは対照的に、スラっと細い体をしているホリーとも握手を交わす。
「まぁ、パトロールと言っても、そんな立派な事は何もしてないけどな、ただ街の周りを回ってるだけさ」
「いやいや、そんな事ないですよ」
実際俺らは、助けられてるし。
すると、俺の服がクイクイと引かれ、右隣に座る花音が攻略本を見せてきていた。
指さす場所を見ると、『万が一街の外で危険な状態になっても安心、見た目の割に優しい2人組が助けてくれる!』という、見出しが書かれていた。
本文を詳しく読むと、この2人は街の外で瀕死になると声を掛けてくれて、街まで送ってくれたり、簡単な応急処置をしてくれるらしい。
「普通にすごい人達じゃん」
花音にだけ聞こえる声で囁く
コクコクと花音も頷く。
「お、着いたな」
外を眺めていたテレイが俺たちに到着を教えてくれたので、2人に礼を言って馬車を降りた。
馬車が見えなくなった所で俺はずっと思っていたことを言った。
「馬車ってケツいてぇな……」
「まだ馬車に乗って揺られてる感覚が残ってる……」
失礼ながらも、愚痴ってしまった。
「私思ったのよ」
「どうした?」
お腹が空きすぎて力が出ない俺たちは、管理所のテーブル席に2人して、身を投げ出していた。
「私達には他の仲間が必要なんじゃないかと……」
「確かに……!」
その考えはなかった。
ルフナと十分な情報があったにも関わらず勝てないとなると、それしかないのかもしれない。
「でも仲間なんてそうそう……」
「やめて下さい……」
騒がしい管理所にも関わらず、その弱々しい女の子の声は何故かよく響いた。
そして静まり返る。
声の方を向くと、小学校高学年くらいのフード付きマントを羽織った女の子が、イカつい男達に絡まれていた。
うん……。助けてあげたいけど俺たちが行った所で、どうにも出来ないし、街の中はルフナが使えないらしいし、ここは可哀想だけど…………。
「ちょっとそこ、何してるの?」
「て、おい!」
気づいたら花音が男達にメンチ切ってるんだけど……。
マジかよ。
はぁ、花音1人に行かせる訳には行かないし、
「全く、そんなちっちゃい子にいい大人が何人がかりだよ」
自分の方が小さい事には気付かないふりをした。
のに……、
「うるせぇな、クソガキ陰キャが」
すぅ、落ち着け。俺はこいつらと違って中は大人だからな、こんなバカみたいな暴言で取り乱すなんて……、
「あぁ?」
「何か盛大な茶番が目の前で行われた気がしたんだけど……」
「ほら、邪魔だ、ガキはママのミルクでも飲んでやがれ」
あの有名なセリフも実際に言われると、ムカつくな。
「ガキじゃねえ」
「あぁ?どこからどう見てもぅっ……!?」
俺は丁度良く目の前にあった男の股間を、全身のバネを使って飛び上がりながら殴った。
「俺は17歳だ」
ドサッ
男は股間を押さえながら前に倒れ込んだ。
それを見て固まっていた残りの男達は、拳を見せたら震え上がって股間を押さえながら走り去っていった。
「ふぅスッキリした、花音お腹すいたー」
「当初の目的忘れてない?」
「あ!仲間探し」
「それもそうだけど……」
「ん」と、花音は俺の後ろを顎で指した。
俺は後ろを向くと……、後ろを見上げると、花音より少し背の低い女の子が居た堪れなさそうに立っていた。
「あー……、いてっ」
花音に頭をこづかれた。
「あー、じゃないでしょ」
花音はその子に近づき、「大丈夫?どこか痛くない?」と優しく話しかけた。
「あ、はい、大丈夫です。怪我もしてないです。あの、助けてくださってありが……」
ぐうぅぅ…………。
花音のお腹の音が鳴った。
「カッコわる」
「っっ……///」
花音の顔は見えないが、プルプルと震えている。
「あの……奢りましょうか?」
「「え?」」
「お腹すいてるのなら何か奢ります」
まさか子供から「奢りましょうか?」などと言われるとは想像もできなかったので、思わず聞き返してしまった。
「いやぁ、でもわr……」
「ゴチになります」
「ちょっと!」
だって、空腹は何物にも変えられない。
「じゃあ代わりにお願いがあります」
「いいぞ、常識の範囲内で何でも叶えてやる」
「私を仲間に入れて下さい!」
わぉ、空腹と仲間の問題が一気に解決してしまった。