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第6話 て言うか、またあの長い道を歩くのか……。

「順調か……?」


 真っ暗な空間に浮かぶ8つの画面の内、一際大きい画面のアバターが口を開いた。

 その画面の向かいには、小さなアバターが映っている画面が弧を描いて7つ並んでいる。

「はい、今のところ問題なく運用出来ております」

「アクセス数も上がり続けています」

 小さなアバター2人が答える。

「例の先駆者組は?」

「そういえばリープさせたんだってね」

「何でー?もう用済みとか言ってなかったー?」

「なんか面白そうだとおもってね」

「お前は相変わらず唐突に、勝手に、ことを進めるな……」

 残りの5人の小さなアバター達が話す。


 パァンッ!!


 柏手が響き、また静寂が訪れる。

「これで今回の会議を終わる……、各々持ち場に戻れ」


 プツッ


 大きいアバターが消え、ほかのアバターも1つ、また1つと消えていく。


 プツッ、プツプツプツ、プツッ、プッ……。


 最後に残ったアバターが一言こぼした。


「これで会えるよ……ちゃん……」




「わっ!」

「あ、やっと起きた」

 なにか嫌な夢を見たのだろうか、最悪の目覚めだ。

 周りを見渡すと、緑の芝生が広がっていた。

 朝日が優しく暖めて、気持ちの良い風が通り過ぎるたびに、嫌な気持ちも一緒に流してくれるようだ。


 …………。


 てっ、違う!

 風に気持ちよくなってる場合じゃないだろ。

 何でこんなとこで寝てたんだっけ?

 確か蟻に追われてて、逃げてたら前から迫って来た数字の壁が2人を飲み込んで、通り過ぎたら意識が切れたんだったか。


 は!服!


 手で触って確認すると破れたはずの襟と背中は、元に戻っていた。

 理由は分からないけど良かった。

 この服だけは絶対に失いたくない。


 そういえば、


「花音はいつから起きてたんだ?」

 草で何かを作っていた花音は顔を上げて、コテンと首を傾げた。

「んー、数分前くらい、かな?」

「じゃあ何処か変わった所とかあった?」

「あ、景色が綺麗になったかも」

「え?」

 想像の斜め上の回答が来た。

 試しに辺りを見回してみるが、

「そうかー?」

 あまり違いが分からない。本当に変わってるか?

 キョロキョロしていると、後ろに何かを隠したような体制で花音が近づいてきた。

「瑛太ー目瞑って」

「何で?」

「いいから、いいから」

 変なことはされないだろうと目を瞑ると、頭の上に何か載せられた。

「ジャーン」

「え?何乗せたの?」

「あ、まってまって取らないで」

 頭に伸ばしかけた手を止めると、花音が両手の人差し指と親指で長方形を作って開いた。

 何やら空間をタッチしている。

 え、今のでステータス画面を出したのか?

 花音の指を目で追っていると、突然カシャッと音が鳴った。

「え!写真!?」

「さっきいじってたら見つけた」

 親指と人差し指でステータス画面を開く方法もさっき見つけたらしい。

 優秀な好奇心をお持ちで。

 試しに自分も親指と人差し指で長方形を作って開いてみると、ステータス画面が開いた。

 アーナスも教えてくれれば良かったのに。


 いや、


 優秀らしいアーナスがこんな便利な事教えないわけがないか、ステータス画面の変化も、あの壁の影響なのだろう。

 何か他にも変わった事は無いかとよく見てみると、右上に可視化のマーク、カメラのマークと並んで、

「メッセージ?」


 ピロン


 俺がつぶやくと吹き出しのようなマークの右上に『①』と出て光った。

 そこをタップすると花音の名前が出てきて、それをもう一度タップしたら、草冠を頭に乗せた少年がこちらを上目遣いで見ている写真が載せてあった。


 …………。


 あ、

「これ俺か」

 カシャッともう一回聞こえたと思ったら、俺の全身の写真が送られてきた。

 ダボダボで、ヨレヨレの、パジャマ姿の少年。

 これを見せられると、何ともいえない気持ち悪さを感じる。


 ピロン。


 なんかまた来たな。


『かわいい』


「……、早く街に戻るぞ」

 後ろから花音の押し殺した笑い声が聞こえた。





「人増えた?」

「なんか男ばっか?」


 俺たちは長い長い道のりをまた歩いて来て、街に戻ってきた。


 何だろう上手く言葉に出来ないけど、街の雰囲気が変わった。

 一瞬、別の街と思うほどには変わっていた。

 街の作り自体は何も変わってないのに……。


「気のせいか」

「気のせいかな」

「気のせいだろう」


 気のせいという事にした。


「そんな事よりどうするよ、これから」

 討伐対象の虫が倒せないと話にならない。

 かと言って働くのはやだ。


「『最速のスタースの街攻略』が出たよー!」


 俺がうんうん唸っていると、そんな声が聞こえた。

 攻略雑誌かなんかゲームみたいだな。

 どうしよう、あったら便利そうだけどなー。


「先着10名様に無料でp……」


「ひとつください」


「は、はい、ありがとうございます」


「おっと、無料という単語に釣られて話を聞き切る前に飛び出してしまった、恥ずかしい」

 その言葉とは裏腹に口角が上がってしまったのを感じる。

「あんた昔っから無料好きだよね」

「しょうがないんだ、俺の体が脊髄反射を起こしてしまう」

 店員に引かれるのもいつものことだ。


 そんな事より、

 もらった攻略本を改めて見てみる。

 表紙には、『最速!スタースの街攻略 〜これで君も上位攻略隊に仲間入り出来るかも!?』とデカデカと書いてある。

 まるでゲームだな。

 スタースの街は、この街の事らしい。知らんかった……。安直な名だ。

 ページを一つめくると、目次があり、その中の一つの項目に目が止まった。

「えっとー……、蟻の大軍に注意!初期装備じゃまず勝てない初心者殺し!だって」

「それって私達がやられた蟻たちじゃ無い?」

「そうだと思う……」

 そのページを開くと、『蟻を狩りに行くならご注意を』、『見つかったら逃げ切れないと思いすぐ離れろ』などと書いてあった。

「まさに蟻集まって樹を揺るがすだな」

「今生きていることに喜ぶべきか、出会った事に悲しむべきか」

「そこは喜ぼうぜ」

 ポジティブに行こう。


 大体読んだかな?

 俺は攻略誌を閉じた。

 初心者におすすめの虫と、その特徴や弱点、注意するところから、スタースの街の地図と、おすすめのお店、そこで手に入る買っておいたほうが良いものなどが、分かりやすく書いてあった。

 なかなかに良い情報だった。

「思わぬ収穫だったね」

「ラッキーだった」

「この攻略情報さえあれば今度こそ倒せる!」

「お金が入れば宿にも泊まれる!」

「行くぞー」

「おー」


 花音と俺たちはまたあの長い道のりを歩き始めた。

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