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第5話 通り過ぎた壁は、0と1が不規則に行き交っていた。

「金を稼ぐぞ!」

「稼ぐぞー!」

 アーナスからの説明が終わり管理所を出た俺たちは歩き始めた。

 初心者向けのアリと言うモンスターの存在と、街を出たところにいると言うことを管理所を出る前にアーナスに聞いたので、街を出る方法についても聞いたところ、


「大体の人はワープ所に行って200ルーフで街の外に連れて行ってもらいます。たまにお金がなくて歩いていく人もいるらしいですが、そんなのはごく少数ですね」

「今時200ルーフさえ持っていないでどうやって生活してるんでしょうかね」

「ハハハハ」

「ハハハハ」

「「ハハハハ……」」


「200ルーフさえ持ってない奴なんかこの時代に居ないだろう、なんていう考えがあること自体が間違っている」

 ルーフとはこの世界の通貨の名前らしく、周りを見て回った感じ円と同じような価値だと思う。

「この世界も大変な世の中になったんだねー」

 今の世界は前世の世界の未来なのではないかと、花音と考えた。

 前世の世界がこの世界と同じと確定した訳ではないが、この街の作りに既視感を覚えたから繋がりはあるはずだ。

 最も、前世の記憶ではモンスターも居なかったし、通貨も出始めで、定着しきってなかったが。

「単発のバイトで200ルーフ稼いでからいく?」

「やだ、モンスターと戦いたい」

「りょーかい、歩きますか」

「うん」


 この時は30分くらい歩けば着くだろうなどと思っていて、軽い気持ちで歩き出したことをその後、後悔した。




 30分後……。

「思ってたよりも遠いかもね」

「まぁ、大丈夫でしょ」


 1時間後……。

「疲れたー」

「ずっとゴロゴロしてたからー」

「前世の話でしょー」

「…………」

「まさか前世についた脂肪もついたまま!?」

 逆に、何で無くなってると思ったんだ……。


 2時間後…………?

「遠い!」

 花音が辛抱たまらず悪態をついた。

 出発した時には真上にあった太陽も、今は赤く染まっている。

「まだまだだな、こんな程度で根を上げるとは」

「うつ伏せで何言ってんのよ……」

 花音のジト目が突き刺さる。

「見ろ!この足の長さを、お前の倍近く回してんだよ」

 ピクついてる太ももをうつ伏せのまま、手を回して叩く。

 この筋肉がどこにあるのかもわからない細い脚で、よく頑張ったと思う。

 我が足ながら、だらしない。

「あの看板なんか書いてない?」

「かんばん?」

 確かに先に何か見える。

「これより先、虫キケン?」

「……!?、あんな遠いのが読めるのか?」

「視力は3.5あるから」

 マジか、どこの民族だよ。

 俺の顔を見て、花音が少し得意げに胸を張った。

「とりあえず行って見るか」

「うん」


 ん?虫……?




「これは虫と言っていいのだろうか……」

「見た目はant、大きさはelephant」

 隣で花音がつぶやいた。

 発音いいな。

 岩の影に隠れる俺たちの前には象のように大きい蟻が行軍していた。

 遠くから見た時には壁かと思った。

「もしかしてモンスターってあれ?」

「アリってこんなリアルな蟻のことかよ」

「うへぇ、気持ち悪い」

 花音が気持ち悪いとつぶやいた瞬間行軍しているすべての蟻がこちらに、ぐりんっと首を向けて来た。

「「!!」」

 花音が芯から震えたのが肩から伝わった。

 もちろん俺も震えた。むしろ俺の方が震えた。ちびったかと思った。

 蟻たちは止まり、俺たちは固まった。

「ゆ、ゆっくり後ろに下がるぞ」

 花音が頷くのが視界の端に見えた。

 よーし、大丈夫、大丈夫。

 ゆっくりと足を擦り下げて……。


 ジリっ、ガサササ……、ザザザザザザザザザー!


 動かした瞬間一斉に走ってきた。

「ゔあああー」

「きゃー」

 俺たちも右足を支点にくるっと後ろに向いて全力で走り出す。

 後ろから聞こえる複数の足で、カサカサ地面を蹴る音に恐怖心を煽られる。

 それにしても

「きっつっ……!」

 まだ少ししか走ってないのに足が空回り、肺が締め付けられ、脇腹の抉られるような激痛と、恐怖で高鳴っていた心臓が今は、呼吸の乱れで荒ぶっている。

 この幼い体躯が恨めしい。


 …………。


 ちょっと待て、俺らは逃げる為に来たんじゃない、倒しに来たんだ。

 俺は急ブレーキをかけて、また、右足を支点にくるっと後ろを向いた。

 えーっと、俺の能力は俺の言葉を聞いた相手が最初に想像した能力になる、だったか。

 スーッと息を吸って、右手を前に掲げる。

 蟻たちは何かを察したのか、一斉に足を止めた。


「ファイヤーボール!」


 ……。


 …………。


 ザザザザザザザザザー!


「何で!?」

「あんなアホそうな蟻に人の言葉が理解できる訳ないでしょー!」

 確かに!

 言葉が理解出来なきゃ想像も何もないな。

 そういえば、意思疎通できない相手には、発動できない事があるって書いてあった気がする……。

「くそ〜!」

 またまた、右足を支点に後ろを向いて全力で走り出す。

 だが、俺の頭の中の考えとは裏腹に、一度止まった足は上手く動いてくれない。

 スピードも落ち、蟻がすぐ後ろまで近づいて来るのを背中で感じる。

 やばい、やばいやばいやばい。

 アホそうなと言った花音の言葉に反応して早くなった気もするし。

 悪口は何となくわかるのかよ!


「ぐぇっ……」


 ビリリッ、カァァァン!


 一瞬、何が起こったのか全ては気づけなかった。

 花音が俺の襟を引っ張って自分に引き寄せ、蟻から守ってくれたようだ、それによって服が軽く破けたけど。

 いつの間にか花音は俺のいるところまで戻って来ていたらしい。

 花音に腕を引かれてまた走り始める。

 背中がスースーする。

 さっきの蟻の攻撃に服の後ろもやられてたのかもしれない。

 ヨレヨレで俺の体に合っていたのに。


 …………。


 そういえば2人ともパジャマなんだよな。

 俺たちの持ってる唯一の前々世の物で、元いた世界を忘れない為にと、前世では大事にしていたんだが……。

 だから今日起きた時に着てたのは嬉しかった。

 なのにっ!

 やば、改めてそう考えたら泣きそう……。

「花音!俺のパジャマがー!」

「…………」

「俺のパジャマがー!うぇぶぅ」

 俺が叫んでいると急に花音が止まって、花音の背中に顔がぶつかった。

「なんか前に見えない?」

「いてて……え?」

 鼻を押さえて下を向いていた俺は、その言葉に顔をあげる。

「かべ?」

 見ると確かに、青い壁のようなものが遠くにある。


 俺はその壁に見覚えがあった。

 前世の俺の記憶でも追われた壁だ。


 あれ?

「なんかこっち来てない!?」

「確かに!」

 後ろを見ると蟻たちはすでに、脱兎の如く引き返していた。

 前に向き直ると、壁はもうすぐそこまで迫って来ていた。

 前世ではあれに飲み込まれたらこの世界に来ていた。


 っ…………!!


 前回死ななかったからって、今回もそうとは限らない。飲み込まれるのは出来れば避けたい……。


 俺は無駄だと思いながらも、立ち尽くしている花音の腕を引いてまた走り出す。


 しかし抵抗虚しく壁は通り過ぎた……。


「あれ?」

 何ともない、と言いかけた瞬間。


 ジ、ジジジ、ジー


 ブツッ


 意識が途切れた。


 いつの間にか暗くなっていた空を最後に。

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