第4話 美人の真面目な顔は迫力があるな。
…………。
目薬を差した瞬間、記憶の波が僕を襲った。
知らない記憶だ。
そこは、ぽつぽつと木でできた家が並ぶ村。
そこには、花音がいて、でも俯いていて顔が見えない。
そこは、どこか見覚えのある気がする大通り。
そこには、数字の壁が迫ってきて、花音に引かれて走っている。
そこは、地面。
そこには、胡桃色の髪の毛が広がっている。
僕の知らない記憶。
いや、《《俺が知る記憶。
「花音!」
俺は花音に抱きついた。
「あぁ、ぁっ……!」
「ああ、あ、ぁぁぁ〜……!」
久しぶりの温もり。
もう感じられないかと思った温もり。
匂い。
雰囲気。
俺は感じたことがないほどの溢れる感情と、それに呼応するように溢れる涙が止まらない。
「何泣いてんのよ」
「う、うるさい〜」
「よしよし」
花音の温かい手が俺の頭を優しく撫でた。
ぽたりぽたりと、首に何かが垂れる音がする。
上を向けば花音も泣いていた。
彼女の涙が頬を伝って俺の涙と合わさって流れた。
俺の涙もさらに溢れ出る。
そして、
「え、なにこの状況……」
状況が理解出来ないアーナスの声が響いた。
「つまりお二人は一度亡くなっていて、
前世でも仲が良くて、
目薬を差した瞬間に記憶がもどって、
感情を抑えきれず抱きついてしまったと……」
「「はい」」
俺と花音はアーナスへ、簡単な状況説明をした。
一応前々世の記憶があることは伏せてある。
ちなみに、花音も転生者だ。
前々世の記憶もある。
前世での出会いは、服が他の人と違って綺麗で見覚えのある形だったから目に止まったのだ。
花音の前々世のことを俺はよく知らない。
前世の時に聞いた時ははぐらかされたんだったか。
…………。
前とか前々とか、ややこしいなぁ……。
んっんんっ。
アーナスの咳払いが響いた。
「じゃあ続けますね」
「「はい」」
俺らはソファーに直った。
「先程目薬の差した方の目を触ると、その人のルフナの詳細、熟練度が分かります」
そう言った彼女は自分の左目をコツコツと突いた。
うわ、見てるだけで痛い。
「安心してください。目薬が膜を張っていて全く痛くないので」
再度彼女はコツコツと左目を突く。
痛い痛くないに関係無くやだなぁ。
「あ、本当だ痛くない」
横を見ると花音が自分の左目を突いていた。
「わぁ、なんか見えます!」
「はい、それがステータス、ステータス画面です」
俺には何も見えないから、多分突いた本人にしか見えないのだろう。
俺は軽く息を吐いて左目にそっと触れた。
確かに痛く無い。人形の目のようだ。
……!
すると、目の前に青い画面のようなものが広がった。
なんだろう、すごくワクワクするっ……!
顔を動かすと、その動きに伴ってステータス画面も動く。
自分の目の前に固定されるみたいだ。
そこには、こう書いてあった。
久岡瑛太 17歳 男
ルフナ
単語を発声し、聞いた相手が最初に想像した能力が発動できる。
ただし意思疎通が出来ない相手には、発動できない事がある。
解放率
0%
熟練度
0
最初に想像した能力?
相手って誰だ?
パッと理解できそうな能力じゃ無いな。
「上から自分のルフナの詳細、ルフナの解放率、熟練度です」
ステータスと言うからには、ATKとか、DEFとか、そんなのがずらりと出て来ると思っていたが、かなりシンプルな画面だ。分かりやすくて良い。
「解放率って何ですか?」
花音が挙手した。
「ルフナにはほとんどの場合、発動に条件がかかっています」
俺で言うところの、『意思疎通出来ない相手には……』と言うやつか。
「ですが、使っていくとその条件が緩和されたり、できる事が増えたりします。それを解放といい、その割合を解放率と言います。解放される頻度、一度に上がる量には個人差があります」
要するに、ちょっと使っただけで解放率がぐんぐん上がる人もいれば、いくら使っても全く上がらない人もいると言う事だ。
前者であって欲しい……。
「他の人のステータスは見れないんですか?」
花音が挙手した。
「相手の左目に触れるか、画面の右上にある目のマークを押していただければ、他の人でも見ることができます」
確かに右上に、ネットなどでパスワードを入力するとき、隠すか隠さないか選択できるマークのようなものがある。
「ただし、マークを押したときは誰でも見ることができますが、左目に触れた場合は、触れた人しか見ることが出来ません」
「瑛太見せてー」
「えーっと」
試しにマークを押してみた。
……。
俺からだと何も変わらないようだけど……、他の人からだと画面が見えるようになったのだろうか。
自分の画面の奥に他の画面が現れた。
多分、花音のステータス画面だろう。
彼女の目の前にあるし……。
と、言うことは、俺のも見えてるのか?
ん〜、でも、どうやって相手に見せよう。
「ステータス画面は二本指で上にスライドさせると、その方向にいる人の目の前に飛んでいきますよ」
俺の考えを覗き見たのかと思うほど完璧なタイミングで、アーナスが人差し指と中指を揃えて上に空を弾いた。
花音が真似をするとシュッと、俺のステータス画面の横に放物線を描いて、花音の方から画面が飛んできた。
美甘花音 16歳 女
ルフナ
コスプレをしたものの能力を使える。
コスプレの完成度が高ければ高いほど使える能力は、多く、強くなる。
ただし、一度使ったら一日たたないと別の能力に変えられない、解いたら一日経つまで再度使えない。
解放率
0%
熟練度
0
コスプレって……、面白そうな能力だ。
画面越しの花音に勝手に猫耳をつけた。
「瑛太、なんか視線がエロい……」
「気のせいだ」
花音のジト目が突き刺さる。
「他にステータス画面について質問はありませんか?」
「「大丈夫です」」
「では最後に二つほど」
アーナスは表情を引き締めた。
「ルフナを続けて使いすぎないようにと言うこと、
左目の幕を割らないこと、
その二つにだけ気をつけてくださいね」
言い終わる頃にはアーナスのアルカイック・スマイルが戻っていた。
「説明は以上になります、ありがとうございました」
「「ありがとうございました」」