第3話 正直、美女2人に押さえ込まれて嬉しかったです。
「おー」
外に出たら、なかなかに興奮する街並みが広がっていた。
これぞ異世界というような街の大通りに面している宿からでて、まず最初に目にはいったのは道の先にある、
「大きな噴水」
花音も目をキラキラさせて見ている。
「当分の目的は安定した衣食住を得ることで良いかな?」
僕は花音を見上げながら言う。
足が小さいと感覚が違って歩き辛いな。
愚痴りながらも花音に早歩きでついていく。
「私もそれに賛成、そうと決まれば誰かに話を聞きに行こう!」
「情報がないと何もできないからねー」と続けた。
状況を飲み込んで落ち着いたのか、部屋を出てから花音はよく喋るようになった。
多分、こっちが彼女の素なんだろう。
あまりこちらからは話しかけれないのでありがたい。
僕は女の子と喋れている事にすこし浮かれていた……。
「あ!」
と花音が声を上げる。
「あのお爺さんに話しかけない?この街のことに詳しそう」
花音の指の先を見ると、杖を突いたヨボヨボのお爺さんが屋台にいた。
詳しい詳しくない以前に会話が出来るのだろうか?
まぁ、
屋台を営んでいるのなら大丈夫か。
「お爺さん、冒険者ギルd……」
「お兄さんな」
「えっと……」
「お兄さんな」
「そうかもしれないですね。」
花音は考えるのをやめた。
「で、おじっ」
「アン?」
「お、お兄さん!冒険者ギルドの場所ってわかる?」
「知らねえよんなトコ、聞いたこともねぇ、買わねぇなら帰れ」
「知らないのっ?てか無いの!?」
マジか!ほんと捻くれてんなこの世界。
「知らねぇって、ほら帰った、帰った」
「シッシッ」と手で払われるままにその場を離れた。
その後色々な人に話を聞いたが、ギルドは無く、魔法も無く、代わりにルフナと言う能力と、ルフナ管理所とか言う施設があるらしい。
「と言う事で、ルフナ管理所にやって来ました〜」
花音が動画じみた喋り方で実況する。
「もうギルドって言えよ……」
よくアニメや、漫画などで見た冒険者ギルドな佇まいだ。
「じゃ、入るわよ」
花音は両開きの扉の右側をそっと右手で開いた。
「「わぁ」」
管理所の中は、扉の開く音を掻き消すほどの喧騒が待ち受けていた。
受付のような場所で話している人や、仲間と肩を組んで酒を飲んでいる者、隅で酔い潰れている者から、女性に話しかけている者まで、各々が自由な時間を過ごしていた。
自分の胸が高鳴っているのを感じる。
「すみませーん」
花音はすでに受付に話しかけに向かっていた。
「いつの間に……」
僕も急いで追いかけた。
受付の美人なお姉さんに「初めてでよく分からないのですが……」と、話しかけてみた。
「初めての場合は登録して頂いて、能力の解放をしてもらいます」
能力の解放……!
「その後は討伐した素材や、採取した物などを持って来て頂いて」
討伐、採取依頼……!
「その成果に応じて熟練度が上がっていき、お得に暮らせるかもしれません」
熟練度、お得……!
…………お得?
「お得?」
花音も同じ疑問を抱いたようだ。
「はい、例えば熟練度が店の提示する値に達していれば割引されたり、熟練度20以上、30以上、40以上などで泊まれる場所が分けられているホテルもあったりします」
お得だ、地味に嬉しいな、やる気が出てくる。
「熟練度はこの街だけで無く、いろんなところで通じるその人の指標のようなものになっているので積極的に上げることをお勧めします」
なるほど、この世界では熟練度が一種の階級のようなものになっているのか。
「では、登録しますか?」
「「します!」」
そこまで言われたら登録するしか無いだろ。
…………。
こうして半強制的に登録することになった……。
カウンター横の扉に通された僕たちは、そこに真っ直ぐ続く窓がなくて薄暗い、先の見えないほど長い廊下の、沢山ある扉の内向かって右側の8番目の扉に通された。
机を挟んで二つのソファーが向かい合わせに並んでるシンプルな部屋だ。
ここも窓が無いが、廊下よりは明るい。
「どうぞお座り下さい」
そう言った彼女は色々載ったトレイを机に置いた。
…………。
あれ?
一緒にここまで来たはずだよな?
そのトレイいつ用意したんだ?
まぁ、
そんな事もあるか……。
うん。
「お二人の登録を行うアーナスと申します」
と言いながら彼女は胸の名札を持ち上げた。
「あれ?なんか他の人と色が違う」
「確かに、花音よく気付いたな」
花音は得意げに胸を張る。
「職員の名札の色は『最も見本になる職員ランキング』で一位を取った回数によって分けられています」
「そんなランキングが……」
「最初は白色からスタートで、
1回目青
2回目赤
3回目銀
4回目金
5回目黒
となっております」
そう言うアーナスの名札の色は黒く輝いていた。
「すごい!アーナスさん5回も一位取ったの⁉︎」
「いえいえ、皆さんのおかげです」
僕たちの前にいる人はひょっとしたらすごい人なのかも知れない。
「それでは登録についての説明をさせて頂きます」
「「お願いします」」
「登録にはこちらにある道具を使います」
アーナスはトレイに乗っていた道具を手で持ち上げて見せた。
それで目に液体を差すだけらしい。
「ただのスポイトじゃん」
そう、理科の実験とかで使ったあのスポイトだ。
…………。
ここだけの話だが僕は自分で目薬を差す事が出来ない。
自ら自分の目に異物を入れるなんて無理だ。
そもそも生き物として大事な目に異物が入らないようにための脊髄反射だろう。
それを無視して目薬を差せる人は感覚が鈍いとしか考えられない。
衰えだ衰え。
だから僕は……。
「難しければこちらで差す事も出来ますがどうしますか?」
「大丈夫です」
「ぼ、僕も!」
「分かりました」
流れで答えてしまった……。
多分大丈夫だろう……。きっと。
「ではこのビーカーに入っている液体をスポイトで一滴だけ左目に差してください」
トレイの上には透明な液体の入ったビーカーも置いてあった。
謎の液体……。
大丈夫なのだろうか?
!!
横を見たら花音が差した後だった。
え〜、マジかよ。
「瑛太は差さないの?」
「い、今差そうとしていた所だ」
大丈夫、こういうのは怖がらなければ案外簡単にいけるものだろう。
ピチャッ
外した……。
「「……」」
大丈夫だ、今の結果を踏まえて微調整すれば……。
ピシャッ
外した………。
「「………」」
いや、まだだ。
さっきより近づいた。
大きな進歩だ。
次はいける。
パチャッ
外した…………。
「「…………」」
「瑛太……、差せないなら正直に頼んだら?」
「ッ……」
いや次こそはっ……、
パシッ
気づいた時には、僕が持っていたはずのスポイトがアーナスの手にあり、机を飛び越えて迫って来ていた。
「花音さん両足を!」
「は、はい」
両足を花音に掴まれ、アーナスの足で両腕を押さえ込まれ、空いている左手で僕の口を押さえ付けられた。
「瑛太さ〜ん、暴れないでくださいね。すぐ終わりますから」
「ん〜、んん〜ん〜!」
こちらで差すって無理やりってことか〜!
ピチョン
あっ……。
瞳の真ん中にしっかりと入ったのがわかった。