第12話 嫌がらせにしてはやり過ぎだろ。
「おお……!」
視界が広い、
体が動かしやすい、
元の体だー!
小さくなってから数日しか経ってないけどすごく懐かしい気がする。
「上手くいったじゃん」
自分で自分の体を抱きしめて喜んでいた所、花音の声で目が覚めた。
「やったね、もうこれで不便な思いをしなくて済む」
捲っていた袖と裾を元に戻す。これだけで嬉しい。
「よし、戻るか」
「おんぶっ」
くそ、この流れで逃げられなかったか。
「ボディレイズ、……あれ?」
花音に向けて前回と同じように技名を言ったところ、体が軽くなったのは良いが地面が近くなった。
「戻っちゃったじゃない」
「2個のスキルを同時に使えないのか?」
「基本、スキルを重ねがけするには熟練度25必要」
「「…………」」
いや、わからん。自分が今どのくらいなのかもわからん。
両手でステータスを開いて確認してみる。
熟練度 3
まだまだだな、でも俺は戦闘に参加してないからしょうがないか。
ブランもそういう大事なことは先に言って欲しかった。
「花音は?」
「9」
1番倒してる花音でも9か。
「ブランは?」
「4」
ステータス画面を開かずに答えた。
あれ?俺とあんま変わらんじゃん。
「いや、私は5に近い4、瑛太は2に近い3全然違う」
やっぱりブランは俺のことが嫌いなのだろうか。
「ブランになんかしたの?」
「いや何もしてないはず……」
年頃の女子は難しいな。
もう一度大きくなってから花音をおぶって、管理所に行き換金した。
考え直せば、わざわざルフナを使わなくとも、女性ひとりくらい元の体ならおんぶ出来た。
昨日ほどではないが視線を集めていたけれど、花音は降りたがらなかった。気づいてないのだろうか。
また食材を買って宿に戻る。
この世界の冷蔵庫はすごく高価らしく、食材も毎日使い切る分だけ買わなきゃいけないらしい。前の世界が前の世界だけに、色んな食材をお金で手に入れられるだけこの世界は便利だと思ってしまう。
宿に着くと部屋には戻らず、階段奥の食堂のようなところに来た。
「部屋に行かないの?」
「あそっか、昨日夕ご飯も食べずに寝たもんね」
ここの食堂でも開いてたのか?
ブランが食堂のキッチンに勝手に入って野菜を洗い始めた。
「え?勝手に使っていいの?」
「ここは部屋を借りた人が自由に使えるキッチンだから良いんだって」
「ほへー食堂じゃ無かったのか」
「大体の宿はこういう作り、高級なとこだと部屋についてることもあるらしいけど……」
ブランが野菜を切りながら答えてくれた。
「私達はあっちの席で待ってよ」
「そうだな」
邪魔になると悪いし。
ちなみに、
「花音は料理出来なかったっけ?」
「まぁ、焼くくらいなら」
出来ないのか。
「瑛太は出来たっけ?」
「まぁ、焼くだけなら」
どっちも原始的な料理しか作れないのか、ブランが居てくれて助かった。
「もう塩のみの味付けは飽きてたからな」
「そうだね、昨日の夕ご飯も美味しかったから期待してて」
まるで自分で作るかのように自慢してきた。
よっぽど昨日美味しかったんだな。これは期待できそうだ。
しばらく花音と適当に話していると、キッチンからブランの花音を呼ぶ声が聞こえ、2人で料理を運んできた。
「おー、唐揚げか」
「うん、蟻の唐揚げ」
「え?」
「蟻の唐揚げ」
「…………」
机に置かれたその《《ブツ》》は普通の唐揚げにしか見えないが。
でも、一緒に運んできた花音は死んだ目で何かブツブツと言っている。
「き、黄色い液体が、あ、頭から、あ…あんなに……!うっ……」
あぁ、蟻の死骸を見てしまったのか……。
「昨日は普通の料理だったのにどうしたのよー?」
「瑛太が食べたいって言うから作った」
ギンっと花音の眼光が刺さる。
「そんなこと言ったか?」
『なんか食文化が違うのかと期待してたから、
「思ってたより普通」
少し残念だけど、でも作ってくれただけでありがたい。』
「それっぽい事言ったかも……」
まじかー、俺のせいかー。
「どうぞ」
ブランがわざわざ小皿に盛り分けてくれた。
さっきから笑顔なのだが、目が笑ってないのは気のせいではないだろう。
花音もブランも自分の皿には手をつけずに俺を見ている。
最初に食えと……。
…………。
こういうのは意外と美味しいもんだから、大丈夫大丈夫。
「いただきます」
なんとなく1番大きいのを口いっぱいに頬張る。
「「「…………」」」
「ど、どうなの?」
「…………」
「不味いの?」
「…………」
「声が出ないほど不味いの!?」
口に入れ過ぎて喋れないだけだ。
「んぐ……」
苦労して全部飲み込む。
「美味しくも不味くもない」
「え?」
硬いけどそこまでじゃないし、変な味がするかと言ったらそんな事もない。
臭いわけでもない。
本当に何とも言えない味だ。
「これは食べてみないとわからない」
「い、いただきます」
花音が恐る恐る口に入れる……かと思ったら結構口に入れた。
ブランもどこか諦めた顔でかなりの量を口に入れる。
「「「…………」」」
花音がしっかり飲み込むと顔をしかめて、
「ん、確かに食べられなくはないけど……」
と言いながら、
また口に運んだ。
「!?」
「ふっ、何で自分で食べて自分で驚いてるんだ……よ!?」
な、何だ?自分でも気づかないうちに、二口目を……。
それを飲み込んでも、またひと口またひと口と、箸が止まらない。
花音も同じように食べ進めている。
しかも、なんかだんだん美味しくなってきたような。
「これが虫の肉、ひと口食べたら止められなくなり、だんだん美味しく感じてくる、そして気づけば常に虫の肉を求めるようになっていく」
いや、麻薬か。なんて物食わせるんだ。
「|はんへふはんははいほうふはほ《何でブランは大丈夫なの》?」
「私は食べ過ぎて効かなくなった」
免疫がついたのだろうか?まず何でそんなに食べたんだよ。
気づけば最後の一つを花音に食べられていた。
「やっと終わったか」
あれ?
あんなに食べたのにお腹が空いてきた?
花音も不思議そうにお腹を押さえている。
息が荒れて苦しくなってきた。
はぁ、はぁ、すごく……、虫の肉が……、食べたい……!
「寝るまではその空腹なくならないから早く寝た方がいいよ」
そう言ってブランは食器をキッチンに持っていって洗い物を始めた。
こうなったのはお前のせいだろ。
片付けは任せて一刻も早く寝ないとっ……!
「うぅぅ……」
お腹が捩れるような空腹に耐えながら、蹲っている花音を連れて部屋に戻った。
そしてすぐに花音とベッドに入って強く目を瞑った。
くっそブランめ、寝れねぇよ。




