第11話 「誰?」はちょっと傷ついた。
懐かしい景色を見た。
記憶上なら数日前のはずだが、とてもそうは感じられない。
自分が不思議な力で飛んだのか、そもそも世界と自分が同じ流れの上にいないのか、それ以外か。
でも、自分と彼女が世界と違う動きをしているのは確かだと思う。
確かだと思いたい。
ぐう…………。
「んぉ……」
「くふっ、ねぇブラン私、自分のお腹の音で起きた人初めて見た」
「私も……」
目を開けると、朝食と、くつくつ笑う花音と、口がによによしているブランが見えた。
起きた瞬間に恥ずかしい思いをしたのは初めてだ。
昨日は夕飯も食べずに寝てしまったらしい。
机の上には目玉焼きに、ベーコン、ご飯、味噌汁と至って普通な料理が並んでいる。部屋にキッチンが無いのにどこで作ったのだろうか。
でも、
なんか食文化が違うのかと期待してたから、
「思ってたより普通」
少し残念だけど、でも作ってくれただけでありがたい。
「普通で悪い?」
あ、やば、口に出てた。
しかも1番聞かれたくないとこ。
「いや、見た事ない料理があったりしないかな?とか勝手に思ってただけで、ただの独り言、寝ぼけ言」
「…………」
ブランの好感度が下がった音がした気がする。
「えっとぉ、自分も食べていいですか?」
「…………」
またブランの冷たい目が刺さる。
「普通の料理ですがどうぞ」
ごめんて。
朝食を食べた俺らは街の外に出た。
今日も狩りに行きます。行かないと金がないんで。お腹空くんで。
「ニャッ」
目の前で花音が蟻を爪で6枚おろしにした。
いつの間に「ニャッ」なんて猫っぽいことも言い出して。
「燃やして」
ブランも火の精霊で蟻を燃やしている。
いつそんなにポイントを貯めたのだろうか。
で、
俺は後ろから見ている。
スゥー
「集合っ!」
「何……」
「にゃに?」
「「…………」」
「?」
無意識の猫語……!?
いや、そんなことより、
「あのさ、俺……何もしてないよな」
「うん確かに何もしてない」
「役立たず」
「うっ……」
ブランよ、そんなストレートに言わなくても……。まだ怒ってる?
「で、思ったのが俺のルフナの説明にある"相手"を……例えば花音にしたまま蟻に攻撃できないかな」
「確かにそれができれば……」
これが出来れば言葉を理解出来ない相手に攻撃出来るかな?と。
カサササ……。
「あ、丁度蟻も来たしやってみよ、私ここにいるから」
そう言って花音は俺と蟻の間に立った。
んー取り敢えず分かりやすいのー……、
「ファイアーボール」
花音に向けて右手を前に出して言ってみると火の玉が集まった。
よし、ここで蟻に向けて、
ファッ…………。
あ、あれ?霧散した。
カササササ……。
蟻が迫ってくる、気づけば花音はもう俺の後ろに逃げていた。
やばいやばいやばい
「わっ!」
咄嗟に屈んだことにより頭の上を蟻の顎が通った。
花音の爪も通った。
背が縮んでなかったら噛みちぎられてたかも。こわっ。
今だけはこの体に感謝した。
それより、
「一撃で倒せるならなんで俺の後ろに隠れたんだよ花音」
「ごめんごめんつい無意識に」
俺はその無意識に殺されかけたのか……。
「じゃあ」とブランが手を挙げる。
「昨日花音をおんぶした時みたいに、自分に効果をかけるのは?」
なるほど、蟻に効果を向けるのではなく自分に向けるから、花音を"相手"にしたままに攻撃出来るかもしれないと。
カサササ…………。
またタイミングよく蟻が寄って来た。
よし!まず花音に向けて、
「ボディレイズ」
オッケー体が軽くなった、それでこのまま蟻に向かって走る!
「はあぁっ!…………れ?」
右の拳を振りかぶると同時に体が重くなった。
「うわっ」
その勢いに耐えられず足がもつれて転ける。
また頭の上を蟻の顎と、花音の爪が通る。
「「「…………」」」
「ごふっ」
綺麗なヘッドスライディングを決めた俺の背中に蟻の頭が落ちて来た。
「わーこれレアドロップじゃない?」
こいつ人がショックを受けてるって時にレアドロかよ。
まぁいいけど、戦闘以外で役に立つし、みんなが倒した敵のドロップアイテム拾うし、能力使わなくても戦えないわけじゃないし、知能のある敵が出たら1番強いの俺だし、それにそれに……。
なんて、心の中で捲し立てているとブランが、4次元ポケットを持って近づいて来た。
レアドロップの蟻の目を収納したブランは倒れた俺と目が合うと、
「フッ」
鼻で笑った。
あ、泣きそう。
それから昼食にブランが作って来たおにぎりを入れて夕方まで狩りを続けた。
俺のおにぎりだけ海苔がなかったのはきっと足りなかっただけだろう。
途中丸まって高速で転がって来るダンゴムシと、丸まらないけど高速で動くワラジムシが出て来たが、どちらも花音が下に滑り込んでお腹を引っ掻いて倒した。
その時の彼女の表情は何故だか靄がかかったように思い出せない。衝撃的だった気がするのだが……。思い出してはいけない気がした。笑っていたような……。
最後のアイテムを拾って空を見ると、太陽が丁度完全に隠れた所だった。
「お腹すいたー雑用おぶってー」
「俺は雑用じゃないし、昨日それで恥かいたの花音だろう」
「ふっふっふ、昨日宿ついてからどうすれば堂々とおぶられることができるのか真剣に考えたの」
昨日喋らないなと思ったら、そんなことを考えてたのか。
「で、どうするんだ?」
「瑛太がルフナで成長して、その上で身体強化すれば良いんじゃない?」
そんな事が出来るのか?出来たら元の体に戻れるんじゃ無いか!?
「やってみる価値はあるか……」
「でしょっ」
成長……グロウアップ、だけじゃダメか。何年成長するかも入れて……。
「グロウアップXV、うおっ」
視線がどんどん上がってく、見上げていたブランや花音もゆうに追い越して、止まった。
「誰?」
ブランが呆然として聞いて来た。
「久岡瑛太22歳だ」




