第1話 腹、減ったな。
「ハッピーバースデー俺!」
目が覚めた僕は伸びをした後に、ワンルームのたった一つある窓に向かって叫ぶ。
今日は僕、久岡瑛太の記念すべき18歳の誕生日。成人だ。
だからと言って何か予定があるわけではない、なぜか祝ってくれる友達もいないし、家族もいないからだ。
でも寂しくは無い。
慣れたというのもあると思うけれど、このボロアパートは壁が薄く今みたいに叫ぶと、
ドン!
このように隣人からお叱りが来る。寂しくなったらよくこうして、人の気配を感じている。
壁の向こうの人に腰から90度に一礼してから、
「いつもお世話になってます」
と朝の挨拶をささやく。
キシキシと床の音を響かせ、玄関に無造作に転がるサンダルをつっかけた。
横を向けば前髪が鼻の頭まで伸びている自分が鏡に写っている。
いつも思うが、外からは全く目が見えないのに対し、こちらからはしっかりと見えているのだから、人の目は優秀だと思う。
学校もなく、いや、行く気がない僕はいつも通りジャージのまま玄関のドアを開けた。
「コンビニにでも行って朝食買うか」
僕だけかもしれないが、一人暮らしを始めてから何故か独り言を多く発するようになった。
喋り方を忘れないようにする為だろうか?
もしかしたらなにかに自分が今ここにいると証明したいのかもしれない。
まぁでも、
こういうのは考え出したらキリがないものだ。
一応鍵の施錠を確認してからコンビニへと足を向けた。
「ありがとうございましたー」
「買ってしまった……。」
僕の右手には、ケーキやプリンなどの甘味が何個か入った袋が下がっている。
誕生日が1人になってからも、これだけは欠かさず毎年食べているんだ。
3つ食べて、
次の日にもうひとつ食べる。
いつの日かそれが当たり前になっていた。
「帰るかぁ」
と、独りごちてから歩き出した……はずだ、何故はっきり言い切らないかというと、そこからの記憶が曖昧、いや、意識自体が曖昧だったのかもしれない。右足を出した、そこだけは鮮明に思い出せるのに。
そして気が付いたのは、
目が覚めたのは、
意識が戻ったのは、
記憶が始まったのは、
知らない天井だった。
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