“旧友”
「ずっと君を待ってたんだ…!」
トラオムが満面の笑みを放ち、私に近づくと手を握り思いっきり上下に振る。
「わぁ…!!あいちゃん!!あいちゃん!!また会えるなんて嬉しいなぁ…!!あの時僕、君の――」
「トラオムっ!!は、離してっ…」
トラオムは少女が嫌がっているのに気が付き、慌てて手を離し急いで身だしなみを整える。
ごめんごめんと言いながら苦笑いを見せ、にこりと笑うその表情はまさに“少年”という言葉が似合う。
あいはその笑顔に圧倒されて思わず許してしまった。
「ありがとう…!あいちゃん!」
再び眩しい笑顔を見せた時、トラオムは何か思い出したのか“ポンッ”と手を叩いて少女の方を見つめる。
その真っ直ぐな視線にまた目を奪われようとした時、ドアの前へ行き、振り向き際にトラオムは無邪気な声で少女に言う。
「僕の部屋に案内するねっ!」
少女はまた考える暇もなく頷いてしまい、トラオムに背中を押され部屋に入る。
部屋数は少なく、こじんまりとしている。
(ここが主人公の家か…)と
思いながら辺りを見渡していると、
テーブルに置かれた写真立てに目が行く。
それに気付いたトラオムが、苦笑いで話し出す。
「そいつ?俺のライバルでもあり親友だった――」
そこまで話すと、言葉を止めてしまうトラオム。
少女が”どうしたの?”と聞くと、ハッとしたかのように我に返り、またあの眩しい笑顔を向ける。
“ねぇ、さっきから変だよ”
そう言おうと少女が口を開いた時、何故か声が出なかった。正確には出ている。だが音になって響かない、トラオムには何故か届いていなかった。
「僕の親友だったんだけと、最近亡くなって…。ダン…なんで死んじゃったんだ…」
悲しい表情を浮かべるトラオム。
少女は写真立てへ再び目を向ける。
真っ白い髪に赤色の瞳。トラオムの言う通り、その人物は主人公のライバルで良き友人でもあり、彼にとって“親友”と言ってもいい間柄の人間。
本名はエンダーン。ダンという愛称で呼ばれていた。
そんな彼が亡くなった…。
亡くなった…?まてまてまて…!!ライバルである彼がこんな序盤で亡くなるという物語では無かったはずだ、なのに何故亡くなっている?
私のこの力は物語に入り込むと同時に、現時点で書かれている内容が自動に頭の中へ入ってくる。
なので彼が一巻目で、
しかもこんな序盤で亡くなるなんて“絶対ない”ということを知っていた。
なのに彼は既に亡くなっていて土葬まできちんと行われていると、トラオムは目の前で話している。
「ダンと…あいちゃんも一緒に遊んだよね」
突然の言葉に少女は後ずさる。
今こいつはなんて言った?いや、さっきからおかしい。旅路の途中で始まる物語が違う展開から始まり、何故だか知らないが主人公は私を知っているし、彼は既に死んでいて、今まさにエンダーンと私が遊んでいたと…こいつは吐かしたのだ。
「な、何言ってるの?私達初めて会ったじゃない…」
トラオムはキョトンとした表情を浮かべ、信じられないことを口にしたのであった。
「あいちゃんこそ何言ってるの?」
「僕達…友達だったじゃないかーー」