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「俺はおじさんじゃない。まだ二十六歳だ」


 と前置きしてからドゥルイット侯爵は熱く私に語り掛ける。


「俺はあなたと結婚させてくれと陛下に願い出てやっとお許しを貰えたんだ。卑怯かもしれないけれどアイスドラゴンを倒したことで俺は侯爵と言う地位を得た。諦めていたあなたに届く地位を手に入れたんだ。だから陛下に拝謁したときにダメもとであなたとの縁談をお願いした。二つ返事で了承してもらえた時は天にも昇る心地だったんだ。貴方は俺なんかと結婚するのは不服かもしれないが……」


 パート兄様が言ったことは本当だったのね。相手からお願いされたなんて引きこもりの私にはありえないと思っていたのだけれど。


「不服なんて……そんな……こと」


 あら?私不服だったんじゃないの?結婚なんてしたくないしこの人にも腹を立てていた筈なのに……


『いやよいやよも好きの内ってな』


(まったくどこでそんな言葉を覚えたの。子供は黙っていてちょうだい)


『子供じゃないぞ。あたしはもう十三だ!』


 私が心の中でステラと言い合いしているうちにドゥルイット侯爵がずずずいっと迫って来た。


「不服じゃないってことは……貴方は俺のことを好きなのか!?まさかそんな幸運が!!」


「いえ、そんな好きとかはまだ……」


『うわー!近い!近い!キモイぞこのおっさん』


(だから子供は黙っててって)


「やっぱり少女に無理やり迫る変態おじさんに見える」


「サイラスも黙っててって」


「も?」


「あーさっきからステラが五月蠅くって」


 私がそう言うとドゥルイット侯爵はパッと手を離した。私の中の同居人の事を忘れていたみたい。


「あの……ドゥルイット侯爵は私のことを知ってらしたのですか?」


「ユージーンだ。俺のことはユージーンと呼んで欲しい」


 やけにグイグイ来るわね。女慣れしてないってリック兄様が言ってたような気がするけど。

 私は面倒くさくなってそのまま呼んだ。


「ユージーンは私のことを知っていたの?お父様かリック兄様に教えられたのかしら?」


「あ、いや、魔具師のティア嬢の事は二年前ぐらいに偶然知ったんだけど、ティア嬢がセラフィーナ殿下だと知ったのは一年前ぐらいかな?セオドリック総団長のお子様が生まれてお祝いに行った帰りに君、コケただろう」


 なんか私に引きずられて言葉使いがフランクになっていない?貴方から君になっているし。その方が私も気を使わないからいいんだけど、夫婦になるわけだし。……って違う!!まだ夫婦になると決まったわけじゃないわ!なに絆されそうになっているの!彼の方から私を望んでくれたと知っただけでちょっといいなと思うなんてチョロ過ぎるわ!


 私が黙っているとユージーンは話を続けた。


「あの時通りかかった俺が支えたのを覚えているかな?その時にベールが捲れて君の顔が見えたんだ」


 んーーそんなこともあったような気がするわ。あんまり覚えていないけど。だけどその時チラッと見ただけよね?それなのにどうして私に?その……好きとか……あー照れるわ。

 ステラがゲラゲラ笑っているような気がするけど無視よ無視。


「……そんなことがあったかもしれないけど会ったのはその時一回きりですよね?」


「そうだけど魔具師のティア嬢の事は以前から好ましく思っていた。直接話をしたことは無かったけど笑顔が可愛い素敵な子だって……その、それに……」


 私の顔はボンと赤くなった。またステラが笑う。


「君の魔力は良い匂いがするんだ!!」


 やけくそのように叫んだユージーンの言葉に私の頭は一瞬で???に埋め尽くされた。

 暫く赤い顔のままで固まっていたユージーンは観念したように話し始めた。


「その……キモイとか引かないで欲しいんだけど、俺は魔力に匂いを感じるんだ。正確には鼻で感じる匂いとちょっと違うんだけど、うん、でも匂いと表現するのが一番近いかな」


「魔力の匂いって人によって違うの?」


「ああ。コリーン嬢の魔力もサイラス殿の魔力も全部違う。と言っても全ての人の魔力の匂いがわかるわけじゃない。魔力が少ない人はほとんど感じないんだ」


 私は魔力は多い方だわ。というか王族の魔力は桁外れだと言われている。 


「……私の魔力は良い匂い……」


「うん、今も香ってくる。とってもいい匂いだ。だから君が昨晩俺に話しかけた時に君の話を聞いてみようという気になったんだ」


 ……ちょっと待って、私は今ステラの身体の中にいる。それなのにユージーンは私の魔力の匂いがすると言っている……魔力は身体じゃなくて意識というか魂に宿るものなのかしら?


 黙り込んで考えに浸っていた私にやっぱり引かれたか?と焦ったユージーンが話しかけようとした時にコホンと咳払いが聞こえた。


「告白ターイムはお済みでしょうか?」


 ハッ!!コリーンとサイラスが半目で私たちを見ているわ。


「お済みでしたら犯人捜しを再開したいのですけど」


 コリーンの言葉に私とユージーンはうんうんと頷いた。




「セラフィーナ殿下が階段から落ちた時、その近くに居なかった者を除外すれば犯人は絞られてくるだろう」


 ユージーンの言葉に皆が頷く。サイラスも聞き取り調査などしたかったようだけど、執事のクライドが調査に応じるとも思えず、また使用人たちが嘘を言うかもしれない。そんな状況の中で私の身体を守ってこの部屋に籠る事しかできなかったと言っていたわ。私が一刻も早く目覚めることを願いながら。






 




 ユージーン主導の元、調査はサクサク行われた。

 そうして次の日には半数以上の人が当時どこに居たかが判明したわ。


 前日に引き続き私たちは私の客室に集まっている。


「ユージーンは執務とか忙しくないの?」


「代官のアンガスから領地の経営に関する書類の説明を受けて勉強するつもりだったんだ。だけどアンガスが書類が整わないとか用事があるとかでちっとも捕まらないんだ。事前に手紙でその旨を伝えていたんだけどな。だから現状出来ることは少ないんだよ。でも今はセラフィーナ殿下のことにかかりきりになりたいから丁度良かったけど」


 アンガスは正式には今の身分は代官ではないの。この土地がドゥルイット侯爵の領地になったので。ただ、ユージーンは領地経営の経験も無いしその暇もない。だからアンガスは引き続き領主代理としてこの領地を経営することになっていたの。一応王宮からドゥルイット侯爵家に出向という形ね。

 私がユージーンと結婚したら領地が増えるので、お父様が領主代理として優秀な人材を紹介してくれると言っていたわ。ユージーンは騎士団で忙しいし私は魔具作りに専念したいし。

 待って待って!なに結婚する前提で考えてるの。私はチョロくない、チョロくないわ!


 

 私がスーハースーハーと深呼吸している間にユージーンがわかったことを報告していた。


 使用人たちは全員が白。下級メイドやコックや庭師、下男などは元々立ち入れない場所だし、その時どこに居たかの裏付けも取れている。そう考えるとステラがあの大階段に居たこともおかしいんだけど、おばさんメイドのメルサが口を酸っぱくして大階段は使っちゃいけないと言っていたのに大階段を駆け上がったステラの性格は今なら納得できるわ。


『だあって、あそこを上った方が早いんだよ。そこにあるんだから使わなくちゃ損ってもんだろ』


 一番怪しいと思っていたクライドはエントランスの外に居た。サイラスと一緒に。メイド長のアンジェラは厨房に居た。私がお昼に軽食を人数分持たせてほしいとお願いをしたからなんだけど。

 物凄く嫌そうな顔をしたアンジェラはコリーンに叱られ不承不承厨房に向かってそのまま厨房で当たり散らしていたらしい。


 クライドはどうしてサイラスとエントランスの外に居たかというと、その時私たちは響澄石の鉱山に出かけようとしていたから。


 このお屋敷に着いて不愉快な思いをして二日。もうサッサと王宮に帰ろうと思った私たちだったけど響澄石は手に入れたかった。加工前の原石を。それが今回私がこの地に来た目的の一つでもあるの。それで鉱山に行きたいとクライドに言ったんだけど、クライドはのらりくらりとかわして鉱山行きを渋っていた。この糞意地が悪い執事は私の行動が何もかも気に入らないのかしら。頭にきた私は次の日に鉱山行きを強行することにした。


 その日の朝、もう一人の護衛のジーニアスにヒュッテの町に滞在している騎士たちを呼びに行ってもらって馬車の手配も頼んだ。サイラスは手配した馬車と騎士たちが着いたと聞いて門に向かったの。そうしたら門番から知らせを受けたクライドが出てきて「勝手に鉱山に行かれては困る」とか「主人が帰ってくるまで待ってくれ」とか言い出したので押し問答をしていたらしい。


「アンジェラとクライドが白だとすると残るは令嬢たちね」


 令嬢たちも一応は部屋にいたと証言をしたらしいけど、証人は彼女たちのメイドだけ。

 私たちは昼食後に令嬢たちをもう一度調べようと決め、一旦休憩することにした。







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