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『……い、……いコラ!ぬすっと!』


 うーん、うるさいわね。今集中しているんだから話しかけないで欲しいわ。


 一旦ドゥルイット侯爵は執務室に戻り私はこの部屋で魔具作りに熱中していた。

 コリーンたちは王宮に帰るのを延期し、今は様子見の状態みたい。


『コラ!ぬすっと!あたしの身体を返せ!』


 私は組み立てていた魔具から顔を上げてきょろきょろと辺りを見回した。


『何キョロキョロしてるんだよ!早く身体を返せ!』


 私はハッと気が付いて急いで私の身体が寝ているベッドに駆け寄った。


「……目が覚めていないわ……」


「セラ姫様どうなさったんですか?」


 部屋の片隅のローテーブルにお茶の支度をしていたコリーンが声を掛けてきた。


「コリーン、今声が聞こえなかった?」


「いいえ、何も」


『お前何であたしの身体を乗っ取っているんだ?さてはお前悪霊だな!悪霊退散!キエーー!!』


 あまりの煩さに私は耳を塞いだ。耳を塞いでも直接頭に響いてくるその声は消えなかったけど。


「ちょっと静かにしてちょうだい。私は悪霊ではないわ。私の名前はセラフィーナ・ティア・アリンガム。この国の第二王女よ。貴方はステラね」


「セラ姫様???」


 突然何もない方角に向かって話し始めた私を見てコリーンが怪訝な顔をしている。


『悪霊!何であたしの名前を知っているんだ?第二王女様ってなんだ?あたしは騙されないぞ!』


 頭の中の声を無視して私はコリーンに言った。


「ドゥルイット侯爵を呼んでくれる?サイラスも同席した方がいいわね。……ステラがいたわ」




 一時間後、やっとステラは私の言うことを理解してくれたけど私はぐったりしていた。彼女に理解させるために何度も何度も説明したのよ。懇切丁寧に。


 そのステラはというと……


『うめーー!あたしこんな美味いもん食ったことないや。なあなあ、今度はそれ!その丸いヤツ食ってくれよ』


 絶賛お菓子を堪能中。なんとなくわかってきたのはこのステラの身体に私とステラの意識が同居しているということ。身体の主導権は私だけれど味覚や嗅覚などの五感は共有しているということ。


「私とステラが入れ替わったわけじゃなかったのね」


 私がポツリとこぼすとドゥルイット侯爵が難しい顔をした。


「ということはセラフィーナ殿下の身体には今誰の魂も入っていないということか?」


 死人みたいな言い方しないで欲しい。遠からずそうなるかもしれないけど。


「お水は唇を湿らすなどして定期的に差し上げています。それから呼吸や心臓の鼓動が物凄くゆっくりなので冬眠のような状態なのかもしれません」


 コリーンも難しい顔をして言う。


「でもいつまでもつか……」


「一刻も早く王宮に帰った方がいいだろう。専門家に見せた方がいい」


 サイラスはそう主張したけど、こんな見たことも聞いたことも無い現象、専門家なんている訳がないわ。それに王宮に帰ったら外見ステラの私が私の身体の身近にいられるかわからない。


「やっぱりもう少しここに居た方がいいと思うわ。それでもとに戻れる方法を探りましょう」


 私が言うとサイラスは不満そうな顔をした。


「ここには姫様の命を狙う殺人鬼がいるんですよ!」


 だから死んでないから。それに殺人犯から殺人鬼に格上げされてるわ。


「そのことだが……セラフィーナ殿下が突き落とされた時この屋敷にいた者は全てこの屋敷に足止めしている。どうにか犯人を割り出せないだろうか?」


 ドゥルイット侯爵はこの屋敷に帰ってきてすぐ私が階段から落ちたことを聞いたらしい。私が寝かされている部屋に駆け付けるとコリーンとサイラスに姫様を殺そうとした者がいる。すぐに犯人を見つけて捕らえろと詰られたらしいの。


 その時は階段から落ちたのは事故じゃないかと思っていたし、医者も外傷は軽傷だけど頭を打っているので安静にするようにと言ったので私が目を覚ましたら事情を聞こうと思っていたらしいわ。


 その後、私たちがこのお屋敷に着いてからのあれこれをコリーンから聞いて吃驚したそうよ。彼は私が丁重にもてなされていると思っていたのだから。それでも自分が不在にしてしまったことを申し訳なく思い急いで帰って来たらしい。

 あくまで彼の言い分だけど。


 まずは私が元の身体に戻れないかと試してみた。

 多分階段から落ちた時に私とステラの頭がぶつかったのが原因だからもう一度ぶつけてみようという訳だ。


 コツン……なんともない。

 ゴツン……痛っ!変化なし。

 ガツン……いっったーーい!!まだ駄目。

 ガッツ――ン!!……☆☆☆涙出て来た……


『いってー!おい!あたしの身体だぞ!馬鹿になったらどうすんだ!』


「ぶつけたのは私の身体よ。馬鹿になるなら一緒だわ」


 涙目でステラに言い返す。


 サイラスが「俺が首を掴んで思い切り打ちつけてみましょうか」というからフルフルと首を振った。

 死ぬから。それ元に戻る前に死ぬから。サイラス貴方が殺人犯になるから。


「この方法は駄目みたいだな」


 ドゥルイット侯爵がため息をついた。


 仕方がないのでいい方法を思いつくまで私を突き落とした犯人を捜すことにした。


 皆でソファーに座る。コリーンがお茶を入れなおしてくれた。


 この屋敷にいるのはここに居る四人とドアの外のジーニアスを除くと執事以下上級下級メイド、下男やコックを合わせて使用人が十三名、令嬢が四名、令嬢が連れてきたメイドが各一名。


「一応令嬢たちには部屋から出ないように伝えています。食事も各々の部屋でとるようにと」


 ドゥルイット侯爵はそう言ったけど、私が侯爵の部屋に行った時ビーンランド子爵令嬢とよろしくやっていたわよね。

 私がそう告げるとコリーンとサイラスが白い目で侯爵を見た。


「違う!誤解だ!本当にヴィオラとは何でもないんだ!」


 ふーん、どうだか。


『なあなあ、このお茶もすんごくいいにおいがするけどさっきのお菓子もう無いの?』

 

 緊張感のない声が頭に響く。


(ちょっと黙っていてくれる?)私はやっと声に出さないでステラと会話するコツをつかんだ。


『ウヒヒ姫様やきもちやいてんの?』


「違うわよ!!」


 つい声に出してしまい、慌ててステラに言ったのよと説明した。


「そう言えばドゥルイット侯爵閣下はどこに行っていたのですか?」


 コリーンの問いかけにああそれも聞いてなかったと私は思った。私という婚約者が来るとわかっていてこの人はどこに出かけていたのかしら。


「それが……」


 ドゥルイット侯爵の話によると、彼はこの屋敷に到着すると五日後に婚約者のセラフィーナ殿下が来るから精一杯もてなすようにとクライドに伝えたらしい。その次の日、この領地の代官のアンガスが急ぎやって来た。領地の北東部で魔獣が出て村に被害が出たという。

 普通の魔獣であれば領の兵士たちで対応できるのだが、新しい領主様が救国の英雄だと知ったら領民が安心するでしょう、是非顔を見せて激励してやって欲しいとアンガスが言う。クライドも小さい領ですから一日で行ってこれますよ、と言うのでさっさと討伐して帰って来ようと腰を上げた。ところが現地の村に行くと何か様子がおかしい。怪我をしたと言って包帯を巻いている人はいるのだが村に壊れたところはない。ただ村人は救国の英雄様だと物凄く喜んでくれた。魔獣は?と聞くと村人は首をかしげる。包帯を巻いていた者に聞くとどこかに逃げていったという。なんだかおかしいと思っていたところにアンガスが知らせを持ってきた。二つ向こうの村で魔獣が出たと言うものだった。

 急いで向かおうとしたが夜になるのでこの村で一泊した方がいいという。結局泊まらされ村人の歓待を受けた。

 そんなことが何回も続き、気づけば一週間も過ぎていた。途中一度屋敷に戻ろうとしたのだが、アンガスに王女殿下はクライドがちゃんともてなしてくれていますよ。彼は有能ですからと言われ、新領主として領民の安全を守ることが一番大切でしょうと諭された。何とか早く魔獣を討伐して戻らなければと気ばかり焦っていた七日目の夜、またほかの場所で魔獣が出たと言われ、もうこれ以上付き合うわけにはいかないとアンガスを振り切り屋敷に戻ってきたのだという。





「怪しいわね」


 私の言葉にコリーンとサイラスも頷いた。


「本当なんだ、信じてくれないか」


 ドゥルイット侯爵が縋る目で見てくる。


「ドゥルイット侯爵の事ではないわ。代官のアンガスが怪しいと言ったのよ」


「それにクライドも怪しいですね」

 

 サイラスが続けて言う。

 クライドは真っ黒だわ。彼はドゥルイット侯爵には私たちを失礼のないようにもてなすと言い、私たちにはあの態度。


「……私を怒らせて王宮に帰って欲しかったのかしら」


 私がポツリと言うとコリーンが続けた。


「でもそうしたらこの婚約は解消になるんじゃないですか?せっかく自分の主人が王女様を娶るという栄誉を賜ったのに失礼なことをして追い返したら下手したら罰を受けますよ?」


「幽霊姫とか引きこもり姫とか言われている私が救国の英雄の妻になるのが許せなかったとか?」


 私の言葉にコリーンが悲鳴のような声を上げた。


「セラ姫様!!姫様はそんな馬鹿にされたり軽く扱われるような存在ではありませんわ!!そりゃあ四六時中魔具の事しか考えていないような変わった姫様ですけど、教養も高く思いやりもあって外見だって元のお姿はとてもお美しくて」


『今はブスだっていいたいのかコノヤロウ』


(ステラも十分可愛いわよ)


 私は心の中でステラを慰めながら言った。


「でも対外的な私の評価は違うでしょ。まあそれをかえって都合がいいと放置していた私が悪いんでしょうけど。対外的には私は引きこもりでお父様やお兄様たちに嫌われてあばらや宮に押し込められている幽霊姫だわ。ドゥルイット侯爵が王家に無理に押し付けられた婚約者を嫌っていても―――」


「待ってくれ!!」


 急に強い力でドゥルイット侯爵に手を握られた。 


「俺が貴方を無理に押し付けられたなんて……どうしてそんな話になっているんだ?俺はあなたと結婚させてくれと陛下に願い出てやっとお許しを貰えたんだ」



 私の手を握り熱い瞳で私を見つめながら切なげな表情を浮かべるドゥルイット侯爵。


 サイラスがそれを見ながらポツリと言った。


「少女に無理やり迫る変態おじさんに見える」







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