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最終話です
結論から言うとアンガスとクライドのたくらみは魔具によってすべてバレていたの。
ユージーンはちょっと落ち込んだ。
「俺ってそんなちょろい若造だと思われていたんだ……」
「ユージーンだけじゃないぞ、王家も騙されていたんだ。王家の方が長年横領されていて気づきもしなかったんだからな」
リック兄様もちょっと落ち込んだ。
ともあれ二人の悪だくみは発覚したのよ。アンガスを役所に、クライドを強制労働に縛り付けてその間に鉱山の調査が行われた。調査を始めて数日後、鉱夫たちも帰って来たので調査ははかどった。みんなゆっくり休んで温泉に入ってつやつやした顔で帰って来たそうよ。
お屋敷の隠し部屋からは大量の響澄石と希少な宝石がゴロゴロ出てきたそうよ。大量の響澄石に私は狂喜乱舞だったけど、貰えるのはもう少し先。ん?貰える?貰えるわよね?王室の財産になるのかユージーンの財産になるのかわからないけれど。
とりあえずお宝はそのままそこに残された。そんな物の存在は知らなかったとアンガスやクライドに言い逃れされないように現行犯で捕まえようということになったの。お屋敷は密かに騎士団の監視下に置かれていたし、アンガスもクライドも解放された後、行方をくらましたつもりになっていたけどちゃーんと監視がついていたのよ。
そうして二人は捕らえられた。アンガスとクライドともう二人。賄賂で味方に引き入れていた鉱山関係者だったわ。
二人はもっと過酷な鉱山に送られることになった。罪人が送られる鉱山よ。そこで横領した金額分プラス王家をたばかった罪を年月に換算して強制労働よ。年月に換算したら二百年くらいになったのでつまり一生強制労働ってことね。
アンガスの奥さんとお子さんは何も知らなかったのでお咎めは無かった。旦那さんに捨てられた上に罪に問われたら可哀そうだものね。
それからシャウニーの街のアンガスの別宅にも騎士団の強制捜査が入ったそうなんだけど別宅はがらんとしていたそうよ。豪華な調度品も宝飾品も何もなかった。
アンガスはそれを牢屋の中で聞いて「嘘だ!!」と叫んだんですって。アンガスの夢を集めた豪華な調度品と宝石を身に着けた美しい愛人が待っていた筈だと。
あら、ビーンランド子爵令嬢は私たちのお披露目の夜会に出席していたわよね。
騎士が後日ビーンランド子爵令嬢に話を聞くために子爵家を訪れた。
ビーンランド子爵は娘のことを親孝行な娘だと褒めまくっていたそうよ。そこで発覚した事情によるとどうやらビーンランド子爵は投資に失敗して多額の借金を背負った。没落寸前だったらしい。そこにユージーンから領地のお屋敷に来て欲しいと手紙が届いた(嘘だったけどね)絶対にユージーンを射止めて玉の輿よ。借金なんかすぐ返せるわと意気込んで彼女は出かけたらしいわ。
その後しばらく連絡が無かった子爵令嬢だけど、ある日大金を手に戻って来たらしいわ。親切な人が私に貢いでくれたのよとお金を差し出した。子爵はお金持ちに娘は囲われたのではないかと心配になったけど彼女はその後王宮の夜会以外はどこへも出かけなかったので安心していた。娘のおかげで没落しなくて済んだと涙を流しながら騎士に語ったそうよ。
結局そのお金は回収できなかった。子爵に渡ったお金は借金返済に消えていたし子爵は何も知らなかった。ビーンランド子爵令嬢?彼女は取り調べの騎士にこう語った。
「私はアンガス様の恋人になるつもりでしたわぁ。彼は私の為に豪華なお屋敷や宝石を用意してくれたんですもの。彼がくれたんだから私がどう使おうと私の自由でしょう?お金の出所?そんなの知りませんわぁ。投資でもして儲けたのだと思っていましたの。あら、そう言えば彼は捕まってしまったのね。奥様と別れて私と結婚してくれると思っていましたのに。どうしましょう、騎士様」
うーん、転んでもただでは起きない令嬢ヴィオラ・ビーンランド。ユージーンに玉砕しても金づるをちゃんとつかんだのね。
ただ、お披露目の夜会の出来事で社交界では他の貴族に距離を置かれるだろうし今回の話が広まれば罪に問われないまでも社交界でつまはじきになるんじゃないかしら。
その後彼女は二十も年上の平民の商人の後妻になったと風の噂で聞いた。その話を聞いたのは三年後、私とユージーンの元に小さな天使が来てくれた頃ね。お金持ちで年上の旦那様に甘やかされてそれなりに幸せになったみたい。
「もうすぐねユージーン!!」
私は馬車の窓から景色を見て弾んだ声を上げた。
今日はステラに恩賞を届けに行くの。私たちが領地に向かうのでお屋敷は既に準備は整えられている。新しく雇い入れた使用人たちが待っている筈よ。その前はお屋敷は閉められていてメルサさん夫婦が管理をしてくれていたの。私がステラの身体の中に入っていた時に世話をしてくれたおばさんメイドよ。
ステラはお屋敷には居ない。辞めたそうなの。なぜかと言うと―――
「姫様、ユージーン!久しぶりだな!」
私は走ってステラに飛びついた。
お屋敷の丘を下ったところにあるステラの家。ステラのお父さんとお母さん、弟と妹かしら?小さい子が四人もいるわ。一家総出で出迎えてくれて、あ、地面に膝なんかつかないで。頭を上げて。ステラが言った言葉に飛び上がって拳骨を落とすのは止めてあげて!
ステラの家族が物凄く緊張しているので私とユージーンはステラを連れて近くを散歩することにした。
「今回の恩賞だ。これで良かったのか?」
ユージーンが差し出したのは土地の権利書。ステラはそこそこ広い土地を手に入れたの。そこで果樹園をやりたいそうよ。
「じゃあこれは私から。農機具なんかを揃えるのに使って」
金貨の入った袋を差し出すとステラは一瞬遠慮するそぶりをした。
「新しい魔具の売れ行きが好調なのよ」
「そうか!姫様からなら遠慮なく貰うよ。その代わり毎年その年一番の果物をお屋敷に届けるから食いに来てくれよな」
「ふふっ。毎年来るわ。これからずっと」
「果樹園はお前が経営するのか?」
少々心配そうにユージーンが聞くとステラはあっさり答えた。
「もちろん父ちゃんも母ちゃんも協力してくれるけど、なんて言ったってあたしとジェイミーの夢だったから二人で頑張るよ」
「ジェイミーって?」
「将来のあたしの旦那だよ。大人になるまでにお金を貯めて果樹園をやりたいねって約束してたんだ」
なんとステラには既に将来を約束している彼氏がいたのね!ステラってまだ十三歳よね。私が十三の時には魔具の事しか考えていなかったわ。私は軽くショックを受けていた。
「姫様もユージーンと幸せになれよ!子供が出来たら呼んでくれ。あたしは子供の扱いには慣れているんだ、弟も妹も面倒を見てきたからな」
「ああ、頼むぞ」
笑ってステラと別れた。別れたけれど別れじゃない。彼女とは立場が違っても一生の付き合いになるような気がしたわ。
丘の麓で待っていた馬車に乗り込んだ。
「結婚式が待ち遠しいわね、ユージーン」
「俺は明日にでも結婚したいくらい待ち遠しい」
そう言いながらユージーンは私を抱き寄せると……
コリーンはお屋敷で待っているしサイラスやジーニアスからは馬車の中が見えない筈よ。だからセーフ。
お屋敷に着く短い間に何度も熱い唇で息を塞がれて私の顔が上気していてもみんなにはバレないわよ……ね?
―――(おしまい)―――
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