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 次の日、朝食にリック兄様の部屋に出向くと既にウッドマン卿がテーブルに座って凄い勢いで朝食を平らげていた。

 ステラはマナーなんて何もわからないので食事は全てリック兄様の部屋でとっている。

 ステラがテーブルに着くと早速リック兄様が教えてくれた。


「魔具が完成したそうだよ」


「ふぁあ、ふぉふしほふぁいほーふぇふぁふふぁ」

 

 ウッドマン卿、口の中の物を飲み込んでから喋って欲しいわ。ステラのマナーの方がましね。

 だけど魔具が完成したのは物凄く嬉しいわ。これで……待って待って、過剰な期待は禁物よ。まだ上手くいくかどうかわからないんですもの。私は気を引き締めた。


 朝食後に私の部屋に移動する。


 期待し過ぎないようにと気を引き締めていても胸の動悸が治まらない。あら、この胸の動悸は私のものかしらステラのものなのかしら。


 ジャーンとウッドマン卿がかぶせてあった布を取り去った。


「『スーパー離魂くん一号』です!!」


 昨日見た機械にアームが一つ追加されその先に薄い金属の板が一枚取り付けられていた。






 ユージーン、リック兄様、コリーン、サイラスが見守る中、ステラはステラの身体と寄り添うようにベッドに横になった。


 私の頭とステラの身体の頭には『スーパー離魂くん一号』から伸びた管が張り付けられている。そしてステラは自分の身体とおでこを合わせた。

 ステラの身体に触れた瞬間、彼女がビクッとなるのがわかったわ。ステラの身体は冷たかったから。


『大丈夫よ。身体を維持するために冬眠みたいな状態になっているんじゃないかと前にコリーンが言っていたでしょう?よく見て?貴方の身体はゆっくりだけど呼吸もしているし心臓の鼓動も聞こえるわ。貴方は生きているのよ』


 ステラは頷いてステラの身体とおでこを合わせた。


「おっと、この板を間に挟んでくれんか」


 ウッドマン卿が差し出した板をおでことおでこの間に挟む。新しく『スーパー離魂くん一号』に取り付けられたアームの先端に付けられた板ね。


「さて、この『スーパー離魂くん一号』を起動するにはかなり多くの魔力が必要なんだが……」


「それは俺がやろう」


 リック兄様が申し出てくれてウッドマン卿の指示の元、起動するスイッチに魔力を流し込む。


 ブーンという音の後に、『スーパー離魂くん一号』の上部の丸い石を両側のアームが掴んだ布が物凄い勢いで擦りだした。いえ、私は直接見たわけではないの。ステラは額を突き合わせていたから。後から聞いた話よ。

 たまにパチッ、パチッと音が聞こえる。


「セラフィーナ殿下、頭部の管に魔力を流してください!」


 ウッドマン卿の指示通り魔力を流す。


「三、二、一、そおれっ!」


 しまらない号令と共にハンマーがグイーンと持ち上げられ……


 ゴイーーーン……


 物凄い衝撃とバチッ!ボン!という音、誰かの「わー!!爆発した!!」という声がかすかに聞こえ私は意識を手放した。









「……ラ、セラ、大丈夫か?生きているか?」


 私を抱きしめ必死に呼びかけるユージーンの腕の中で私は意識を取り戻した。


「ユージーン……」


「き……君はセラフィーナなのか?ステラなのか?」


 私はにっこり笑って答えたわ。


「私はセラフィーナよ。やっとこの身体で話が出来るわ、婚約者さん」


 途端に息もできないくらいギュッと抱きしめられた。


「セラ、セラ良かった……元に戻って良かった……」


 私を抱きしめて話すユージーンの声は震えているわ。泣いているの?


「ユージーン、いい加減その場所を私と代われ!」


 リック兄様に言われて渋々ユージーンが私を放す。


「……セラ、お帰り」


「リック兄様、ありがとう!!」


 リック兄様とハグを交わす。目の端に抱きあって喜ぶコリーンとサイラスが見えたわ。ん?抱きあって?


 リック兄様は私の顔を覗き込み「もう大丈夫だな」と頭をポンポンしてくれた。



 ―――ステラは?


 急いでベッドを見る。ステラの身体がもぞもぞと動いて……


「うー……いてて……馬鹿になったらどうしてくれる……ん……」


「ステラ!!!」


 私はステラに抱き着いた。


「元に戻ったのよ!私たち!」


「え?姫様?姫様が見える……ってことは……」


「そうよ!自分の身体に戻れたの!!」


「……う……うう……うわーーーーん!!」


 物凄い勢いでステラが泣きだした。


「うわーーん、うわーーん、えぐっ、うわーん……」


 ステラは不安だったのね。物凄く不安だったのね。まだ十三歳の彼女は巻き込まれただけなのに訳の分からない状態になって……でもステラは明るかったし前向きだった。きっとずっと不安を押し殺して来たのね。彼女の口の悪さは生来の物もあるでしょうけどきっと不安の裏返し。突っ張ることで不安を跳ね飛ばしてきたんだわ。


 私はステラが泣き疲れて眠ってしまうまでずっと彼女を抱きしめていた。リック兄様もユージーンも彼女の頭や背中をずっと撫でていた。


 三十分後に「腹減った!!」と飛び起きたけどね。


 ちゃんとコリーンが暫く寝たきりだったステラの身体の為に消化の良い食べ物を用意してくれていたわ。


 ステラが眠ってしまってから私はウッドマン卿のところに行った。


「ウッドマン卿、ありがとうございました。おかげで元の身体に戻りましたわ」


 ウッドマン卿は爆発したらしくところどころ焦げたり壊れたりしている『スーパー離魂くん一号』の傍で割れた眼鏡を外し泣き笑いのような表情を浮かべていた。


「やあ、初めましてセラフィーナ殿下。僕の研究が役に立ってよかったよ。『スーパー離魂くん一号』は壊れてしまったけどね」


「でもウッドマン卿の考えは立証されましたわ」


「ああ、ああそうだ。僕の研究は実を結んだんだな」


 私はウッドマン卿と固く握手を交わした。


「さあ、明日には王宮に帰るぞ。やっとフィービーに会える!!」


 あらリック兄様、騎士団をほっとけないから帰らなくてはと言っていたけど本音は愛娘に会いたかったのね。



 

 




 そうして一日身体を休めて私たちは王都に向かって出発した。


 リック兄様が連れてきた騎士団と私の護衛として同行した騎士やメイドたち。もちろんコリーンやサイラス、ジーニアスも一緒よ。

 それからアンガス、クライド、アンジェラは強制連行。かなりの大所帯ね。


「ステラ、本当に一緒に行かない?」


「うん、王宮なんて恐ろしいところ行けるか!あたしはここがいいんだ」


 ステラはどうしてもこのお屋敷に残るというの。私は王宮に連れて行きたかったのだけど。

 リック兄様も重ねて言う。


「ステラ、君はセラの命を助けてくれた。今回の事で多大なる迷惑もかけたからかなりの額の恩賞が与えられるだろう。それとは別に君が望めば王宮のセラ付きのメイドにも推挙できるが」


 王宮のメイドは王都の平民の若い女性たちにとってはあこがれの職業らしいわ。その中でも王族の専属メイドは一番の花形だと言われているの。ただ、私付きというところが微妙なんだけど。〝引きこもり姫〟付きは王宮メイドの中でもハズレだと言われているから。


「王宮のメイドなんてあたしには荷が重いや。その……あたしは言葉使いもなってないしガサツだし王子サマやユージーンに失礼な事いっぱい言ったのもわかってるんだ。でもこれがあたしだしマナーなんて覚える気も無いって言ったろ。だからここで暮らしていくのが一番いいんだ」


 ……すごく残念だけどステラの幸せはここにあるのね。


「わかった、恩賞は俺がここに届けてやろう。俺はここの領主だからな、ちょくちょくくることになるだろう」


 ユージーンがそう言うので私も急いで言った。


「それなら私ももうすぐ領主夫人になるんだから一緒に届けに来るわ!」


「そ、そ、そうだな」


 ちょっとユージーン、そこで赤くならないで。私まで顔が熱くなってきたわ。


「ははっ姫様もユージーンもありがとう。あ、もうユージーンじゃなくてご主人様って言わなくちゃな」


「お前にはユージーンと呼ぶ権利をやるよ」


 ユージーンはステラの頭をポンポンと叩いた。






 クライドやアンジェラを連行するのでお屋敷はクライドの補佐をしていた従者の青年と上級メイドに一時的に預け、代官のアンガスの代わりは補佐をしていた役人に頼んだ。王宮に帰ったらお父様に相談していい人材を紹介してもらわなくては。


 そうして私たちは王都に帰って来た。私は十七日ぶりに王都の土を踏んだのだけど、ドゥルイット侯爵領での出来事が濃すぎて数年ぶりに帰ってきたような感慨を覚えたわ。


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