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 何気なく呟いたウッドマン卿の言葉がきっかけだった。


「うーん……魂に区別がつくような特徴があればいいんだが……」


『魔力!』


「え?姫様何だ?」


『魔力は魂に付随する。それなら私の魔力を識別できればいいんだわ!!』


「ちょっと、姫様!あたしにもわかるように説明してくれよ!」


 突然喋り出したステラを皆が注目している。


「ステラ!セラは何て言っているんだ?」


 ユージーンがガクガクとステラの肩を揺さぶる。


『きゃあ、ユージーン!やめて!私の脳まで攪拌されちゃうわ』


「あたしだってごめんだよ!放せよユージーン!」


「あ、すまん」


 ユージーンは放してくれたけど「で、セラは何て言っているんだ」とすぐに聞いた。


「魔力?」


 ステラの答えにみんなの頭に?が浮かぶ。


『ステラ、ユージーンに聞いて。ユージーンは私がステラの身体にいるときも私の魔力の匂いがすると言っていたのよね?』


 ステラに伝えてもらうとユージーンが頷く。


「そうか!!魂を識別するんじゃなくて魔力を識別すればいいんだな!」


 さすがウッドマン卿!!私の考えをわかってくれたわ。


「ふむふむ、早速『離魂くん一号』を改良せねば!……と、道具が……」


「道具ならありますわ!セラ姫様が魔具を作っていた道具が」


 コリーンが部屋の隅にウッドマン卿を誘導した。


「おお!これなら!よし、すまんが暫くは僕に話しかけないでくれたまえ!」



 ウッドマン卿は物凄い集中力で『離魂くん一号』をいじりだした。

 私たちは邪魔をしないように部屋の反対側にあるソファーに移動したの。私はウッドマン卿の作業を眺めていたかったんだけど……


「やだよ。訳の分からない機械をずっと見てて何が面白いんだよ」


 速攻でステラに却下されてしまったわ。しょぼん。


「明日か明後日のうちに王宮に帰ろうと思う」


 突然のリック兄様の宣言にみんなの動きが止まった。


「この実験が成功すれば大手を振ってセラと帰れるが……もしダメでもこれ以上ここに居るのは無理だろう。いや、ここに居るメリットがない。駄目だったら王宮に帰って父上に相談したうえで新たな手法を模索した方がいいだろう。それに俺もこれ以上騎士団を放っておくわけにはいかないしな」


 そうね。王宮の方が設備も整っているし魔具や魔力の研究者もいるわ。


「あたしも王宮に行くのか?」


 ステラが恐る恐る聞いた。


「ああ、一緒だ。もちろんステラの身体も丁重に運ぶし手厚く世話をするよ」


 リック兄様は優しく微笑んだけどステラは強張った顔のままだわ。


「無理無理無理……マナーなんて何にも知らないし……ドレス?そんなもん着たくも無い……不敬だーって王様に切り殺されたらどうしてくれんだ」


 ちょっとステラ、切り殺されるとしたらそれは私の身体よ?それにお父様がそんなことする筈無いじゃない。大体、あなた王女の私や王子のリック兄様にも今まで普通に喋っていたのに何をそんなに怖がっているのよ……


「ステラ、気分転換に庭に出ないか?」


 ユージーンが見かねて誘ってくれた。

 リック兄様は「それがいい」と笑った。


「私はその間にこの屋敷の使用人を集めてこのことを伝えよう。サイラス、一緒に来てくれ」


「セオドリック総団長、クライドとアンガスは?」


 ユージーンの問いかけにリック兄様が応える。


「連れて行く。クライドとアンジェラはセラに対する不敬な振る舞いに罰を与えなければならない。アンガスは虚偽の報告でお前を引っ張り回したしな。それに令嬢たちを呼び寄せたのも二人のうちのどちらかだろう」


 そしてリック兄様は人の悪い笑みを浮かべた。


「近いうちに王宮にしょっ引かれるとわかったらあの二人はどんな密談をするんだろうな」









「ユージーンも王宮に行くのか?」


 庭に出るとステラがユージーンに聞いた。今日はこの前みたいに駆け出したりしないのね。


「ああ、俺も行く。王宮というか王都に帰るよ。領地の勉強は中途半端だけどどのみちアンガスも王都に行くしな。領地の視察なんかはまた時間を作って来ることになるだろう。焦らず少しずつやるさ」


 そうしてユージーンはまたステラの顔を真剣に見つめた。瞳の奥、私の存在を探すようにして私に語り掛ける。


「セラ、君に寄り添っていたいんだ。俺が何の役にも立たないのはわかっている。だけど今回の実験が成功して君と……本来の君と向き合えたら……いや、もしダメでも君を支えたい……君が本来の君を取り戻すまで。取り戻してもずっと―――」


「だーーー!!こっぱずかしい事はあたしのいないときにやってくれ!!……って無理か」


 ステラが顔を真っ赤にして怒鳴った。




「まあ、素敵ですわぁ」


 不意に聞こえたビーンランド子爵令嬢の声。ユージーンとステラは同時にそちらを向いた。


「うげっ!」


 急いでステラは口を塞ぐ。思ったより近く、垣根のように造形された低木の向こうをアンガスに腕を絡めてビーンランド子爵令嬢が歩いていた。


 二人で囁き合いビーンランド子爵令嬢がキャラキャラと笑う。アンガスは鼻の下が延びっぱなしだわ。


 二人の進行方向からメイドが一人走って来た。


「セオドリック殿下からお話があるそうです。皆集まるようにと仰っています」


 それを聞くとアンガスはビーンランド子爵令嬢の腰を抱くようにしてお屋敷の中に入っていった。


 ステラとユージーンは顔を見合わせた。


「「どういう組み合わせだ?」」


「ケバいおねえさんはユージーンからあのおっさんに乗り換えたのか?」


「しかし、たしかアンガスには妻も子もいたと思うが」


「うえっ愛人ってやつか?あんなおっさんどこがいいんだか。なあ、代官ってお金持ちなのか?」


「いや、豊かな王領はわからないがこの領ではそんなでもないぞ。俺が領主になってからアンガスには実務をほとんど任せるつもりだったからとりあえず今までの給金の倍は出すことにしたけど。確か妻子とヒュッテの町で暮らしている筈だが暮らしぶりは質素堅実だと聞いたことがある」


 ビーンランド子爵令嬢はどういうつもりなのかしら。ユージーンが決して靡かないことは先日わかっただろうけどどうしてアンガス?さっさと家に戻って婚活でもした方が有意義に思えるのだけど。


「……まあ、好みは人それぞれだからな。こっちに絡まなきゃ何でもいいか」


 ステラは既に興味を無くしたみたい。ユージーンも「そうだな」とあっさりしたものだわ。ユージーンって彼女と幼馴染だったんじゃなかった?


 ステラに聞いてもらうと


「まあそうだな。田舎育ちの子爵家の三男なんて平民とあんまり変わらないんだ。長男の兄貴は王都で厳しく育てられたけど俺は領地で駆けまわって育った。ヴィオラは俺の三つ下なんだけどヴィオラの家は隣の領地であいつも田舎育ちだからよくウチの領に遊びに来て一緒に駆けまわっていたんだよ。でも十歳ぐらいになったら急にマセてきて『私は王都に行って将来有望な令息と結婚するのよ。あんた達みたいなうだつの上がらないのはお呼びでないわ』とか言ってもう遊びに来ることは無かった。ここで会って吃驚したよ」


「初恋だったりしたのか?」


 ステラの質問に胸がもやもやするわ。だけどユージーンはあっさり笑い飛ばした。


「そんなわけあるか!あいつはいつも女王様気取りで俺たちは辟易してたんだ。来なくなってホッとしたくらいだよ」


 ユージーンの言葉にホッとしつつもビーンランド子爵令嬢は二十三歳だったのねとちょっと驚いた。若作りというのか同い年位だと思っていたから。今まで縁談が無かったのかしら、彼女も焦っていた?だからユージーンにあんなに必死に迫っていたのかしら。


「あ、今日はイチジクをもいでいこうぜ」


 ステラの弾んだ声で意識を引き戻された。そうね、もう関係ない人だわ。






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