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 散歩?を終えてリック兄様の部屋に帰りリック兄様とユージーンが執務室に行こうとした時にクイクイとステラがユージーンの袖を引いた。


「ん?」


「なあ、さっき思い出したんだけど」


 ああそんなことを言いかけていたわね。ビーンランド子爵令嬢の乱入で忘れていたけど。


「あのさ、怒らないで欲しいんだけど……」


 珍しくステラがもじもじしている。


「何だ?言ってみろ」


「そっちの王子サマも怒らないか?」


 ステラに名指しされてリック兄様も頷いた。


「あたしの家はこの近くだって言っただろ。そんで、その、子供のころから仲間たちとこのお屋敷の庭に忍び込んでいたんだ」


「ああ、果物を取りに来てたのか」


 ユージーンの言葉に頷いてステラは続けた。


「だって勿体ないだろ。ここには美味しそうな食い物が沢山()っているのに誰も採らないんだ」


「ああ、ここは長い間閉めたままだったからな。王族の別邸と言ってもここに来る者はいなかったし。でも管理をしていた者がいるんじゃないか?」


「うん、爺さんと婆さんがお屋敷の裏の建物に住んでた。だから夕方や夜にこっそり……な」


 首をすくめるステラにリック兄様はポンポンと頭を叩いて優しく言った。それ、よく私にしてくれた仕草ね。


「ここに()っている果物を採るくらい構わないさ。その管理人も知っていて見逃していたんだろう」


「それでね、よく見かけたんだよ」


「?」


 突然話が飛んだことについていけないわ。


「だから!あのおっさんたちだよ。執事様と、えーとさっき一緒に居たおっさん」


「クライドとアンガスか!」


 ユージーンの言葉にリック兄様も身を乗り出した。私も気分的に身を乗り出したわ。


「あの二人がこそこそこのお屋敷に入っていくのを何回か見たんだ。重そうな荷物を抱えて」


「セオドリック総団長、アンガスはここの鍵を持っていたんですか?」


「いや、この屋敷は王家の持ち物で代官とは管理が別だ。持っている筈がない」


「怪しいですね。この屋敷の何かを盗みに来たとか?」


「……聞いたことがない。そもそもここにそんなに値打ちのあるものは置いてなかっただろう。家具なんかは一級品だが持ち出すには大きすぎる。お前に下賜するときに簡単な補修や模様替えを行ったはずだが……何か聞いているか?」


「特に何も聞いていませんね。ということは無くなったものは無いということか」


 ユージーンとリック兄様が話をしているのを私はもどかしい思いで見ていた。


『ステラは大きな荷物を抱えて入っていったと言ったじゃない。持ち出したんじゃなくて持ち込んだのよ!多分あの執務室に!』


「姫様が意見があるみたいだよ」


 ステラの言葉にユージーンとリック兄様が振り向いた。


『ステラ、私の言葉を伝えてくれる?』


「あんまり長い言葉は覚えられないから少しずつ喋ってくれよ」


「ちょっと待ってくれ、話が長くなるならアンガスに午後の説明は取り止めるよう使いを送ろう。執務室の前に居るんじゃないか?」


「俺が言ってきます」


 サイラスが部屋を出ていった。執務室は同じ三階だからすぐに戻ってくる。

 私たちはソファーに腰を落ち着けて、ステラに少しずつ私の考えを伝えてもらった。


「なるほど、セラはアンガスとクライドがこのお屋敷に何かを隠していたと考えているんだね」


『そう、公には出来ない何かよ』


 ステラが律儀に伝えてくれる。


「ちょっと待ってください、でもこの屋敷には補修や模様替えの職人が入ったんだ。何かがなくなったという報告も受けていないが、何かがあったという報告も受けていない」


 ユージーンの言うことももっともね。だから私はステラに伝えてもらった。


「執務室?」


「うん、この三階はえーと王様や偉い人達のぷら……ぷらいべっとすぺえす?だったんだろ。今執務室になっている部屋に隠し金庫とか隠し部屋があるんじゃないかって姫様が言ってる」


「そうか、それはあり得るな。俺は聞いていないが兄上や父上なら知っているかもしれない。もっとも久しく使われていなかった別邸だから忘れているかもしれないけど」


 リック兄様が私の考えを補強してくれたけどこればっかりは手紙で聞くわけにもいかない。王宮に帰ってからお父様に確かめるしかないわね。……っていつ帰れるのかしら。その前にいつ元に戻れるのかしら。私はリック兄様が手紙を書いてくれたダドリー・ウッドマンに一縷の望みを抱いているのだけど、彼が来てくれるにしてもあと三~四日はかかるわね。


「クライドとアンガスを締め上げてみますか?」


 部屋の入り口近くで警護していたサイラスが声を掛けた。


「いや、まだ材料が乏しい。彼らの密談でも聞ければいいんだが」


 リック兄様が待ったをかけた。でも彼らがどこでいつ密談をするかなんてわからな……あ。

 急いでステラに伝えてもらう。


「なるほど。奴らが密談をするにはここしかないという状況を作ればいいんだな」


 そう、このお屋敷は今、リック兄様が連れてきた騎士たちが巡回している。それを強化してもらって下手なところで喋っていたら騎士に話を聞かれるという疑念を抱かせればいい。執務室なら扉が厚いから中の話は聞こえないわ。それにさっきもあの二人は執務室で怪しげな話をしていたじゃない。彼らが内緒で鍵を持っていることをユージーンが咎めなかったから彼らはばれていないと思っている筈よ。


「え?あれはレイジング・アローを狙っていたんじゃないか?」


 ステラに私の考えを伝えてもらうとユージーンが素っ頓狂な勘違いをしていた。

 あの魔具をそんなにありがたがっているのはユージーンだけだから。


「だってあれはアイスドラゴンを倒した貴重な魔具なんだぞ。倒した本物はアイスドラゴンの腹の中に消えてしまったけど、あの矢は魔具師のティアが作ったオリジナルの最後の一本なんだ!」


 めちゃくちゃ力説しているユージーンにリック兄様が水を差した。


「熱く語っているところ悪いが問題はそこじゃない。確かに執務室は密談をするのにうってつけだ。セラの推測ならそこに何かが隠されているわけだしな。でもその密談をどうやって聞くんだ?ソファーの中とかに誰かが隠れるのか?」


 サイラスがうへぇという顔をしたわ。もし隠れるんなら自分にお鉢が回ってきそうだと思ったんでしょうね。でも大丈夫よ。打ってつけの物があるの。


「姫様が作っていた魔具が役に立つって言っているぞ」


「「魔具?」」


 そう、ここに来てまでずっと作っていた魔具よ。

 保音機と仮に私が名付けた魔具は音を保存できる魔具なの。これ絶対便利だと思うのよ。たとえば楽団の音を保存するでしょ。そうしたら次は楽団を呼ばなくてもその音が聞けるのよ。楽団が入れないような狭い部屋でも聞けるわ。たとえば誰かの声を保存する。それを遠く離れた場所に届けることも出来るのよ。ほかにも使い道は沢山あると思うわ。まだ試作が出来たばかりだから音の保存も再生もこの魔具一台しかできないけどね。

 この音を保存する媒体に響澄石が必要だったのよ。ほかの物では音が聞きづらかったり雑音が入ったりして上手くいかなかったの。今は試作品だからこの魔具は大きな木箱ぐらいの大きさがあるの。でも大きな響澄石の板をセットすれば半日くらいは音を保存し続けるわ。響澄石を取りかえればまた半日。その分沢山の魔力が必要になるけど、ここには私とリック兄様という桁違いの魔力を持った人間が二人もいるんだから全く問題なしね。





 その後、私たちは執務室に私の魔具を設置した。執務室には元からガラクタ?が入った木箱が積み上げられていたから怪しまれないと思うわ。


 ユージーンとリック兄様はアンガスから領地の説明を受けながら適度に執務室から離れる時間を取った。そうしてあの二人が執務室にしのび込めるような隙を作ったの。


「二人が何かわからないけど荷物を持ち逃げしたらどうすんだ?」


 ステラが心配したけど大丈夫だと思うわ。


『今、このお屋敷を逃げ出すことは出来ないわ。騎士たちが厳重に見張っているもの。それに大きな荷物を運び入れていたんでしょ、何度も。そんな大きな荷物を持ちだしたら捕まらないわけないじゃない』





 そして二日後、待ちに待っていた人がやって来た。

 ん?二日後?この人手紙が着いて読んだらそのままここに来たんじゃないかしら。







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