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 さてリック兄様までこのお屋敷に滞在するにあたって使用人たちの軟禁は一応解除され使用人たちは通常通り働くよう言われた。

 但し外出は出来ない。買い物などの用事は業者を呼ぶか騎士にお願いする。そしてお屋敷の内外を騎士たちが厳しく巡回しているので抜け出すことはできない。

 皆、おっかなびっくり仕事をしているといった状況。そして騎士たちがどこに滞在するかというと


「この屋敷の裏手に騎士が滞在するための宿舎があるぞ。従業員宿舎も」


 ユージーンがしれっと言ったわ。どうしてこんなに供の者が少ないのか不思議だったと言っていた。

 クライドめー!急いでヒュッテの町に滞在していた私の供の人たちを呼び寄せたわ。


 でも彼らはヒュッテの町でそれなりに楽しんでいたみたい。私の専属であるコリーンやメイドのデイジー、護衛のサイラスやジーニアス以外は今回の旅行でお供に任命された人たちばかり。引きこもり姫のお供なんてはずれを引かされたと不満たらたらで来た人が多かったそうよ。それでも面と向かって失礼な態度をとったり命令を聞かないなんてことがないだけこのお屋敷の使用人よりマシだけど。


 それからリック兄様には三階の一番豪華な客室があてがわれた。

 クライドめー!再び。部屋あるじゃない!

 それを知った時のコリーンの怖さったらなかったわ。氷点下の笑顔でユージーンに迫っていた。


「い、いや、その、セラは俺の部屋の近くは嫌で拒否したのかなって密かに傷ついていたんだ。セラはここに来るの乗り気じゃなかっただろう?」


 私の今滞在している部屋は二階で他の客室も二階にある。ユージーンの私室や執務室は三階で豪華な客室も同じ三階にあるんだそう。ちなみにユージーンの部屋の隣は領主夫人の部屋。


「そこでも良かったんだけど」



 結局今の部屋をそのまま使うことにした。なんて言ったって今の私の中身はステラだし、ステラの身体はベッドに寝たきり。ステラの身体の世話は引き続きコリーンがしてくれている。






 使用人たちの軟禁を解くにあたりリック兄様はクライドとアンジェラを呼び出し散々脅した。

 本当はクライドとアンジェラは捕まえて牢屋に入れても良かったと思うくらいだったんだけどね。執事とメイド長がいなくなるとお屋敷を回していくのに不便ではあるし。


 その二人はリック兄様、ユージーン、ステラの前に跪いて哀れな声で言い訳を並べ立てていたわ。


「私は、私はご主人様の為を思いましてやったことでございます!その、王家に嫌われているという噂の引きこもり姫との縁談はご主人様の為にならないと思い……ただちょっと不便を感じて不快に思って王宮にお帰りいただければ婚約も取りやめになるのではないかと……いえ、決して傷つけようとかそんな不遜な考えは微塵も無く!嫌がらせをやり過ぎたのはこのアンジェラのせいで……」


 クライドの言い草にアンジェラは抗議の声を上げた。


「クライド様!私はあなたがあの引きこもり姫を苛めぬいて追い返せって言うから!」


 どっちでもいいけど言い訳をするときにも私は馬鹿にされているのね。


「……お前ら……俺の最愛の妹を〝引きこもり姫〟だと?」


 リック兄様の恐ろしい声に二人はやっと〝あ!〟という顔をした。


「そ、そ、それは……代官のアンガス様が……王都でもセラフィーナ殿下は〝引きこもり姫〟か〝幽霊姫〟と呼ばれていると……皆がそのように言っているので……その……王家の方もそれを許されていると……」


「俺は()()を許した覚えはない。その呼び方一つをとっても不敬だな。俺たちは数日この屋敷に滞在する。その間、誠心誠意仕えよ。そうすれば少しは情状酌量しないでもないかもしれない」


 それって情状酌量するつもりは無いって言っているの?どうなの?態と煙に巻くような言い方しているでしょうリック兄様。


 まあ、()()を許していたのは私自身だし、兄様たちは不満に思っていたものね。でもクライドの言い訳は不自然だわ。彼はそんな忠義者には見えないし、私を追い返したい理由がもっと他にあるような気がする。


『アンジェラはどうなのかしら。お屋敷の他のメイドたちは嫌々アンジェラの指示に従っているように見えたしアンジェラがいないところでは不親切でもなかったわ。ステラやメルサさんには会う機会も無かったしね』


 思わずつぶやいた言葉にステラの返事が返ってきた。


「メイド長は執事様と()()()()って噂されてたぞ。なあ、()()()()ってなんだ?」


 いきなりのセラフィーナ(ステラ)の発言にクライドとアンジェラが目を剥いた。


 ユージーンは咄嗟にステラの口を塞いだしリック兄様は早々に彼らを部屋から追い出した。



 

 そしてその日の夜になってようやく代官のアンガスがやって来た。

 アンガスに会ったのはリック兄様とユージーンなのでこれは後から聞いた話なのだけど。




「随分と遅いお着きだな」


 セオドリックの嫌味にアンガスは「は、いえ、あの、何かと忙しく……」と言ってしきりに汗を拭いている。


「まあいい、ところで魔獣の被害は収まったのか?」


 セオドリックの問いにアンガスは目をパチクリさせた。


「あの……?」


「お前は俺を魔獣討伐だと言って散々引っ張りまわしただろう」


 ユージーンが半目で見ると「あっ!」と小さく漏らしたアンガスはしきりにごにょごにょと呟いていたがガバッと平伏した。


「申し訳ありません!領民たちが新しい領主様が救国の英雄様だと知って是非うちの村に来て欲しいと騒ぐものですから!」


「……だったら普通に領内の視察をして欲しいと言えばいいだろう。セラフィーナ殿下が到着した後で一緒に領内を見回っても良かったんだ」


 ユージーンが苦い顔をして言うとアンガスは更に額を床にこすりつけた。


「はっ!まことにご領主様の仰る通りであります!私が浅慮でございました。平にご容赦を」


 ユージーンがため息をついた。このように下手に出られるとやりにくい。

 代わりにセオドリックが口を開いた。


「お前がユージーンを連れまわしている間に私の妹はずいぶんと無礼な扱いをされたそうだ。挙句の果てに階段から突き落とされて昏睡状態だった。これはお前の指示か?」


「め、め、滅相もございません!私も知らせを受けて吃驚いたしております。私はクライドがつつがなく姫様をおもてなししていると信じておりましたので」


 本当だろうか?クライドはアンガスが紹介した執事だ。


「あの……姫様は……」


 恐る恐るアンガスが聞く。

 セオドリックが「今日、意識を取り戻した」と言うとホッとしたように息を吐いた。


「セオドリック殿下は姫様と王宮にお帰りにならないんでしょうか?」


 重ねてアンガスが聞く。


「数日滞在することにした。セラフィーナとぶつかったメイドが昏睡状態だしな」


 今度の返事はアンガスを落胆させたようだった。

「メイドなど放っておけばよいものを」と忌々しそうに小さく呟いたのをユージーンの耳は捕らえたが結局彼はセオドリックに向かって「承知いたしました」と頭を下げた。


「お前も暫くこの屋敷に滞在してユージーンにこの領地に関することを教えてやってくれ」


「この屋敷に……滞在ですか?」


「何か不都合はあるか?」


 鋭い目でセオドリックが見るとアンガスは滅相も無いと首を振った。


「承知いたしました」


 

 

 



 次の日、早速アンガスによりユージーンに領地の経営に関する説明が行われた。


 午前中、ユージーンとセオドリックはアンガスと共に執務室に引きこもった。 

 朝早くに山ほどの書類を届けさせたアンガスは様々な書類を指し示しながら領地の運営状況を説明していく。

 

 昼になり一旦休憩を入れようと彼らは執務室を後にした。

 ユージーンとセオドリックはセオドリックの客室に向かう。そこにセラフィーナと三人分の昼食を用意してあるのだ。












「ユージーン、何か気になる事はあったか?」


「いえ、領地経営は順調に行われているように感じました」


 昼食をとりながらリック兄様とユージーンが会話している。私はステラへの指導で忙しい。


『ナイフとフォークはそれよ、外側のを使うの。あ、スープのお皿は持ち上げないで!あっ!あっ!手づかみで食べちゃ駄目よ!』


「姫様五月蠅いよ。あたしはマナーなんて知らない、覚える気も無いんだ。飯ぐらい自由に食べさせてくれ!」


 ステラが眉を下げた。


「セラ、ここには俺たちしかいない、ステラのマナーには目を瞑ってくれ」


 リック兄様がステラを見て言った。そうね、ステラに私の価値観を押し付けるのは間違っていたわ。私だってステラの身体に居た時ステラに「あたしはそんなお上品に喋ったりしない」と言われていたのに。


『ごめんなさいステラ』


 私がしょぼんとするとステラは「いいって」と笑った。


「姫様も大変なんだからさ。早く元の身体に戻りたいな」


 ステラ、貴方こそ巻き込まれただけなのに。口は悪くて態度がガサツでもステラは強くて人を思いやれる優しい子だわ。




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