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新連載です。よろしくお願いします。


 ドン!背中をいきなり凄い力で押された。


 身体が前に泳ぐ。運悪くそこはエントランスホールの大階段の上。

 いいえ、運悪くでは無いわ。だってその人は私が階段の上にいることを承知で背を押したのでしょうから。


 あ……これ死んだ?……


 私が生きてきた十八年間の思い出が走馬灯のように……しかし走馬灯が八歳までの思い出に達したところで……ゴッチン!!




 私は意識を手放した。










 私の名前はセラフィーナ・ティア・アリンガム。

 アリンガム王国の第二王女。社交界で引きこもり姫とか幽霊姫と呼ばれている……らしい。

 私は十歳から参加できるお茶会も十六歳から参加できる夜会もほとんど出たことは無いわ。住まいは王宮の端っこの離宮。離宮の名前は青薔薇宮という美しい名前なんだけど人々には「あばらや宮」などと呼ばれているらしいわね。よく知らないけど。

 もちろん王族の住まいなので普通の人は立ち入りできないけれど使用人や出入りの業者が全くいないというわけにもいかない。まあ建物の周囲は草ぼうぼう、奥の壁が一部壊れ、偶にドカンと爆発音が聞こえたり異臭がしたり。そこらへんから噂が流れるんじゃないかしら。

 あ、待って、私は虐げられたりはしていないから。それどころか姉、兄、兄のいる末っ子第二王女。一番上のお姉様は他国にお嫁に行ってしまったけれど国王であるお父様、王妃のお母様、第一、第二王子のお兄様方にも可愛がっていただいてる。


 そんな私が王都から離れたドゥルイット侯爵の領地で侯爵家のお屋敷の大階段の上から突き落とされる破目になったのはどうしてなのかしら。






 ハッと気が付くと見慣れない天井が目に入った。

 私、死ななかったのね。

 ホッと息を吐く。起き上がろうとすると頭がズキンと痛んだ。


 ……それにしても随分と質素な部屋だわ。何の装飾も無い壁や天井。簡素なベッドに薄い布団。この屋敷の人たちには来た時から歓迎されていないように感じていたけれど、幽霊姫だって一応王女、これは無いと思うわ。とにかく私の侍女のコリーンを呼んでもらおうと思った時だった。


 バタン!と扉を開けて中年の恰幅のいいメイドが部屋に入ってきた。


「ステラ!目が覚めたんだね!良かったよ。あんた二日も眠りっぱなしだったんだよ!」


 ……ステラ?私のほかにもこの部屋に誰かいたのかしらと私はキョロキョロと周りを見回した。


「何をキョロキョロしているんだい。ああ、まだ状況がつかめていないんだね。あんたは王女様の命を救ったんだよ!」


 ()()()()()()()()()?このメイドは何を言っているのかしら?この国で王女様と呼ばれるのはお姉様がお嫁に行った今では私一人の筈だけど……たとえ引きこもり姫と馬鹿にされていても。


「あの……あなたはどなた?それに私の名前はステラではないわ」


 私が疑問を口にするとそのメイドは大きな声で嘆いた。


「何てことだい!!ステラの頭がおかしくなってしまった!!やっぱり王女様と頭がぶつかって二日も意識が無かったんだ無事に済むわけなかった!」


 ちょっと!頭がおかしくなったなんて失礼だわ。それに頭がおかしいのはこの人の方でしょう。私はステラなんて名前ではないと言っているのに……

 でも私の目の前のおばさんメイドは大仰に嘆きながら部屋を出ていってしまった。


 私は再び途方に暮れる。とにかくコリーンを探しに行こうと私は立ちあがり部屋を出ようとした時だったわ。

 今は夜であるらしく屋敷の外は濃い闇に包まれている。頼りなげな部屋の明かりに窓に映る自分の姿が浮かび上がって……


 ……誰?


 窓には見たことも無い女の子の姿が映っていたの。

 そんなに鮮明に映っているわけではないけれど一目で別人だとわかるわ。赤茶色の髪はちょっと硬そうで寝ていたせいか変な寝癖がついてピンピンと明後日の方向を向いていて、どんぐり眼に丸くチマっとした鼻。私より小柄で幼く見える。


 私は右手を上げた。窓に映る少女は左手を上げる。私が左手を顔の前で振る。窓の少女は右手を顔の前で振る。私が舌を突き出してしかめっ面をする。窓の少女も舌を出してしかめっ面をする。

 だんだん面白くなってきた私は両頬をグイッと外側に引っ張っておちょぼ口をする。窓の少女の頬がグイーンと引っ張られて唇が付き出される。私が頬を反対に押しつぶすと……


 ガタンと音がした。

 ん?と変顔のまま振り返りと……


「ほら!やっぱりステラがおかしくなっちまった!!執事様見たでしょう!」


 さっきのおばさんメイドとこの屋敷の執事クライドが口をあんぐり開けて立っていた。


 うーんこれはあまりいい状況とは言えないわ。私は頭をフル回転した。二日も寝ていた後のフル回転。正直名案なんてそう浮かばない。だけど状況は少しわかったわ。なぜだか知らないけれど私の外見はステラという少女。そして多分ステラという少女はこのお屋敷の下級メイドね。それから私が本当はセラフィーナ第二王女だと言ってもきっと信用してもらえないだろうということ。


「あ、いたたたた」


 私は頭が痛いふりをしてしゃがみこんだ。


「起きたばかりで混乱していたみたいです。少し休めばきっと……」


 私が涙目で言うとおばさんメイドは同情してくれてベッドまで連れて行ってくれた。

 ベッドに寝た私を執事のクライドが冷たい目で見てため息をついた。


「お前のおかげでセラフィーナ殿下の命が助かったのだから十分休養させるようにと旦那様が仰ったから休ませてやっているけどな、本当は仕事もしない能無しメイドはすぐにでも解雇したいところなんだ。メルサ、こいつが起きられるようになったらすぐに仕事に復帰させるんだぞ」


 感じ悪!この執事は私がこのお屋敷に来た時から感じ悪かったわ。私はむっとしたがクライドが部屋から出ていくとおばさんメイドはドアに向かってアッカンべーをしたのでちょっとスッとした。


「メルサさん……」


 私はやっとおばさんメイドの名前がわかったので呼んでみた。

 メルサさんは振り向くと私に向かって優しく言った。


「あんな奴の言うことは気にしなくっていいよ。旦那様は十分休養させるようにって言ったんだ。ちゃんと治るまで静かに寝ているんだよ。それよりあんた本当にどうしちまったんだい?今まであたしのことをメルサさんなんて『さん』付けで呼んだことなんかなかったのに」


 え?そうなの?メルサはステラの先輩メイドだろうからさん付けしてみたのに……


「あの、私どうして寝ているか覚えていなくて……それに私が王女様を助けたってどういうことですか?」


 メルサさんはまた妙な顔をした。私の言葉使いどこかおかしかったかしら?


「またあんたは……まあいいや。あんたはね、階段から落ちてきた王女様とぶつかったんだ。あたしがあんたに口を酸っぱくして『大階段は下級メイドが使ってはいけない』と言っていたのに、またあんたは山ほどの洗濯したシーツやカバーを抱えて大階段を駆け上がっただろう?その途中で落ちてきた王女様とぶつかったんだよ。それで二人とも階段を転がり落ちたんだけどあんたの抱えていた洗濯物がクッションになって大怪我をしなくて済んだんだ。お医者様は見た目はかすり傷ぐらいしかないけど頭を打っているからしばらくは安静にするようにって言っていたよ」


「王女様は?」


「さあね。王女様なんて雲の上の存在の事はあたしにはわからないよ。上級メイドが王女様の護衛の騎士様が部屋の前で怖い顔で立っていると言っていたからまだ目が覚めないんじゃないかねえ」


「ドゥル……旦那様は?お出かけしていたんじゃないかしら?」


「旦那様は昨日戻ってこられたよ。王女様のことを聞いて真っ青になって客室にすっ飛んで行ったって聞いたけど」


 ふうん……ドゥルイット侯爵は戻ってきたのね。私を領地に呼んでいながらどこかに出かけて顔も合わさなかった侯爵は。

 青くなっていたって……いい気味。

 ……じゃなくて……私はどうすればいいのかしら。

 

  メルサさんはあの後パンとスープを届けてくれてゆっくり休むようにと私に告げて部屋を出ていった。私は問題点をゆっくり考えてみることにした。


 というか問題点だらけなのだけど。






 

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