ヤンデレすずかと肉まん2
2月1日。深夜。すずかはネット上の友達と楽しく配信していた。声だけで配信できると最近話題のアプリ。spoonでだ。
彼女の趣味は配信をすることだ。最近はspoonにコラボ機能が付くという噂がユーザーの間では持ち切りだ。
彼女は引きこもりである。カーテンを締め切った暗い部屋。少しでも日光から身を潜めたくて、窓には段ボールを貼ってある。ぺたんこになった布団の上で、彼女はスマホに向かって話し続ける。
「でさぁ〜昨日丸一日使って面白い枠探してたの〜枠主が面白くてリスナーもノリよくて、みたいな」
『肉まんって人面白いよ』
「えーっとコメント、肉まんって人面白い……?えー初めて聞いたかも、男の人?」
『無言配信でランキング1位になってた。性別は不明』
『配信行ったけど、ずっとミュートだったよ笑』
「無言配信!?spoonで!?意味分かんないじゃん!声出しはしないってことか、じゃあチャットみたいな枠になるんかなぁ」
配信アプリで無言……?それで1位……?意味分かんないけど面白そう。
まだ配信中だが、リスナーに教えて貰った肉まんの配信アカウントをフォローする。アイコンは手描きなのかな。ウサギみたいな犬みたいな、ほっこりするアイコンだった。
「肉まんさんのアカウント教えてくれた人ありがとね〜!早速フォローしちゃったよ」
プロフィールを覗いてみると、『無言配信で1位取りました』とだけ書いてある。簡潔にも程がある。これじゃあ性格も人間性も、どんな配信なのかさえ分からない。
「いや、謎すぎんか。まぁ肉まんって人の枠行ってみるかー、教えてくれてありがとね、じゃ、今日の配信おしまい!点呼取るよー、呼ばれた人は元気に返事してね!」
配信終了の画面を見たあと、何となくスマホを指先でなぞる。インターネット、ここがわたしの居場所で、こんな引きこもりを受け入れてくれる唯一のコミュニティだ。
肘と腰に痛みと言うには大げさな違和感がある。きっと肘をついて上体を起こして配信していたせいだろう。
シャワーでも浴びようか。いや、面倒くさい。洗顔だけでいいや。
化粧用の立体鏡を手元に引き寄せる。思わずうわ、と声が漏れた。
髪の毛がギシギシだ。ぱさついている。前髪なんて伸び切ってしまって、耳にかけられる程だ。最後に美容室に行ったのはいつだっただろう、ぱさぱさの毛先を指先でくるくると弄る。
「肉まん、ねぇ……」
フォロワー数134、フォロー数77。
「無言配信なのにフォロワー多いな、いやこれ多い方なのかな…?フォロワーの方がフォロー数より多いし、やっぱ配信者なんだ」
spoonは投げ銭しているリスナーが公開される仕様だ。投げ銭の欄も開く。
「いや、意外と投げられてるな」
1人1人は少額であるものの、かなりの人が肉まんに投げ銭をしていた。
「無言配信で投げ銭ってどのタイミングで投げるのよ……盛り上がるかよ……」