だるまさんが転んだ
B…ボケ T…ツッコミ
T「はあ、困ったな~」
B「どうした? だいぶ顔色悪いな」
T「実はこの部屋のことなんだけど……」
B「そうそう、都心でよくこんな部屋借りられたな?」
T「訳有り物件で格安だったから」
B「あ~、いわく付きって奴か」
T「そしたらな……この部屋、本当に出るんだよ」
B「おいおいマジか! でも実はかわいいギャルのお化けだったりして?」
T「ガチムチのおっさんだったよ……」
B「そらすぐに引っ越したほうがええわ」
T「そうしたいけど、そんなカネないし」
B「そっか~。けどそこにいるだけと思えば我慢できるだろ?」
T「あのおっさん……耳元で囁くんだよ」
B「なんて?」
T「やりませんかっ、て」
B「何をッ! 一体何をやるんッ!?」
T「そんなの怖くて聞けるわけないだろッ! 布団の中で朝まで震えてたよッ!」
B「意気地無しッ!」
T「ええッ!?」
B「男ならそういう時こそ立ち向かえ!」
T「で、でもなあ」
B「逃げずにちゃんと話を聞いてやれ。話はそれからだ!」
T「わかった。今夜おっさんが出たら勇気を出して聞いてみるよ!」
B「しっかりな!」
☆ ☆ ☆
T「昨日の夜、またこの部屋におっさんが出たよ」
B「やっぱり出たんか! そ、それで?」
T「『やりませんか』って囁いてきたから、何をだよって聞いてやったんだ」
B「おっさんは何て言ったんだ?」
T「それがな、だるまさんが転んだをやりませんかって、そう言うんだ」
B「なんだそりゃ? で、おまえはどうしたんだ?」
T「正直びびったけど、やってやるよって言ってやった」
B「さすがだな!」
T「それでおっさんに鬼の役やってくれって言われてな。反対側を向いて、だるまさんが転んだって唱えて、素早くおっさんの方を振り返ったんだ」
B「うん」
T「そしたらおっさんは微動だにした様子はないんだけど、足元に上着が落ちてるんだ。いつの間にか素早く脱いだらしい」
B「ん? なんで脱ぐんだ?」
T「オレも不思議に思った。それでもう一度だるまさんが転んだを唱えて振り返ったんだ。するとおっさんは今度、ズボンを膝まで下ろした姿勢で固まっていた」
B「そ、それでッ!?」
T「それを見たオレは恐怖を感じた。でも勇気を振り絞ってもう一度、今度は超素早くだるまさんが転んだを唱えた。そしてバッと振り返ると、おっさんはブリーフをずり下ろしかけた姿勢で固まっていた!」
B「それから! なあ、それからどうしたん!?」
T「オレは予感した。これ以上だるまさんが転んだを唱えたら大変な事が起こると! だからそれからはおっさんから目を離さずただひたすら朝を待ったんだ。すると夜明け前……瞬きした瞬間におっさんは消えていた!」
B「このヘタレッ!」
T「ええ、なんでッ!?」
B「お前は勝負から逃げたんだ! 男なら最後まで勝負したらんかいッ!」
T「くッ! わかったよ……またおっさんが現れたら、今度は最後まで勝負してやるよッ!」
B「それでこそ男だ! 期待してるぞ!」
☆ ☆ ☆
T「なあ、例のおっさんまたこの部屋に出たよ」
B「そ、それで!?」
T「もちろんだるまさんが転んだで勝負したよ」
B「さ、最後までッ!?」
T「いや、警察が言うには最後までやってたら危なかったらしい」
B「なんでそこに警察が出るん?」
T「あまりにもリアルなお化けだったんで、警察に相談してみたんだ。すると恐ろしい事実が発覚したよ。この辺でな、例のおっさん絡みの事件が続いてたらしい」
B「事件ッ!?」
T「夜にガチムチのおっさんが現れて、だるまさんが転んだで勝負しようと囁くんだって。その誘いにのって勝負してやると、おっさんが段々と裸になっていくんだって。そして最後に素っ裸になったおっさんを見てしまうと、おっさんに……生きたままだるまにされてしまうらしい。体を血で真っ赤に染められて、床に転がされて、『だるまさんが転んだ』って、言われるんだって」
B「こわッ!」
T「この部屋も、それで事故物件になったって話だ」
B「お、恐ろしい話だな。ちょっと信じられんけど、それは本当の話なのか?」
T「オレも信じたくはないけど、昨晩は勝負の最中に警察が何人も踏み込んだんだ。それでもおっさんにスルッと逃げられたよ。あの動き、人間とは思えない……あれは間違いなく本物の化けモノだよ」
B「は、はははッ! 思わず聞き入っちまった。うっかり信じかけたよ!」
T「嘘じゃない、本当だって!」
B「そんな話信じるわけないだろ? そんな化けモノが本当にいたら、オレがだるまさんが転んだで勝負してやるって!」
T「バ、バカッ! そんなこと言って本当にあのおっさんが来た……ら……」
B「ど、どうした? 急に顔色が悪くなったな。オレの後ろ? 後ろに何かおるん?」
T「おいッ! だるまさんが転んだって唱えて振り返れ! 早くッ!」
B「ななな、なんでッ! オレの後ろに何がおるんッ!?」
T「は、早く! ああッ! ダメだもう全裸になっちまったッ!」
B「イヤーーーーーッ!?」