24話―「悔いなき死」
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静まりかえる船内。
僕は自分の甘さに膝が崩れる。
「ちくしょうッ……」
そのとき、また潜水艦が揺れる。
今度は小刻みに。
クックは熱感知モニターを確認すると大量の赤い点が見える。
「もう、なにもかも終わった……」
その赤い点1つ1つは「インベーダーの群れ」を表していた。
さすがにこの絶望的な状況に六教官も言葉が出ない。
ただただ潜水艦の装甲を壊され剥され、いずれ深海の水圧で粉々に砕かれインベーダーどもに肉の欠片が残らないほど乱暴に喰われることを待つしかなかった。
そしてついに――潜水艦の動力が切れ浮力を失った鉄の塊は真っ暗な闇の中にゆっくり沈んで行った――。
全員が一歩も動けない。
誰も何も喋らない。
動力の落ちた潜水艦には灯りも無くなり、ゆっくりと深海と同じ暗さと温度まで落ちていく。
身体が凍え始め皮膚の表面に薄っすらと氷の霜ができ始める。
それでも誰も動かなかった――。
が、そんなとき突然六教官が喋り出した。
「……俺さ、この深海まで来れてよかった。 今そう本気で思っている」
『……』
「染は知っているんだが、俺はここに死んだ親友との約束を果たしにきたんだ。 でも親友との約束は守れなかった。 それでも、俺はここまで来れてほんとうに良かった」
『……』
「まぁでも、強いて言うなら――生きてぇな。 この先も生きてあいつの夢を、叶えてやりてぇ」
六教官らしからぬ言葉に僕は思わずきょとんとしてしまった。
それに染。
多分初めて呼ばれた。
そもそも覚えていたことすら驚きだ。
だが、なんだか、今なら素直に話せそうな気がした。
僕は霜ができかけている崩れた膝を立ち上げみんなに向き合った。
そして凍える身体を抑え、深く頭を下げた。
「本当にすみませんでした。 あいつの事あなどっていました。 僕のミスです。 本当にすみませんでした」
「いや黒糸、俺も悪かった。 あのとき楽しく談笑しててなにも考えてなかった。 あれだろ? あのクソ野郎と元々知り合いだったんだろ? あの感じだと、多分そんなに良い間柄じゃねぇと思うけど……」
「はい、すみません……」
「俺はお前がなにか悩んでいるなんて考えてもなかった。 気づきもしなかった。 本当にごめん」
フシロムも凍える身体を我慢し、頭を下げた。
「いえ、それを言うならあたしだわ。 もっと最初の段階で貴方たちのことを分かろうとすれば、その辛さを共有できたはず。 死ぬ直前になって言うことじゃないけど、今のあたしが恥ずかしい……。 ごめんなさい」
クックも深く頭を下げた。
この死ぬ直前なのに全員が謝っているという混沌な空間に六教官がクスクスと笑い始める。
「あははは。 俺は良いチームに入れたみたいだな。 思ったよりも早くあいつの所に行く間際だけど、人生で1番楽しいかもしれない」
「あはははははっ! 同感です! あぁ~あ、まさか21歳で死ぬとはなぁ~。 もっといろんなことしたかったなぁ~。 昨日大酒のんどきゃぁ良かった」
「あたしも28で死ぬとは思っても無かったわ。 なんなら、三十路迎えてやりたかったわ」
『あはははははは』
全員が今になって心の壁を全て取っ払って話している。
死ぬ間際なのに全員ほんとうに楽しそうだった。
そこで六教官が空気を変えた。
「あぁ~よし。 ちっと考えていたことやってみるか」
「考えていたことですか?」
僕には六教官が今から死ぬように見えないほど誰かに生に導かれている、そんな気がした。
「まぁ、成功確率0パーセントのクソ作戦だ」
「なにをする気ですか」
「俺の親友の助言に従ってみる気だ。 どうだ? どうせこのまま凍えて死ぬか、水圧で死ぬかくらいなら一発馬鹿やって死んでみないか?」
「六さんっ! 俺賛成っすね! あははははは」
「そうね、みんなここに集まったのも人魚見るために集まってるもんね。 もうねじぶっ飛んだ集まりだからいいんじゃないかしら」
「あははは……」
なんかみんな吹っ切れ過ぎて面白くなっちゃってる。
「分かりました。 ぜひやらせてくださいっ!」――。
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