21話―「ここが深海」
良かったらご評価お願いします(*'ω'*)
ノックが鳴る――。
一瞬あの変態かと思い臨戦態勢をとったが、六教官の特殊なノック「コン、コン、コココココ……」という出てくるまで永遠に鳴らし続けるパワハラノックに安心をした。
「よう。 ちょっといいか?」
「あ、はい」
ちょっといいか? と言いながら言動が合っていないノック回数をなんとかしてくれ。
と心で思ったが何も言わず部屋へ通した。
髪を乾かし終え2人で晩酌を始めた。
「なんだ、知り合いなのか、あいつ」
「? 誰ですか?」
「あいつ、えーっと、お前見てると股間抑える奴」
一瞬で分かった。
股間の「コ」で分かった。
「あ、あぁ……。 知り合いというか、まぁ、同級生……です」
「そうか。 仲良いのか?」
「仲良くは……ない、です」
「……。 聞いてもいいか?」
それから僕は陽帝のことから、なぜ冒険者を目指しているのかまで複雑な過去を含め全て打ち明けた。
六教官なりに防衛省時代にできなかった「人ととの深い関わり」を意識したのだろう。
かなり深堀されたが、僕自身の心の負荷がなんとなく軽くなったように感じた――。
「そうか。 彼はいじめっ子だったのか」
「まぁ、いじめっ子というより超プライドモンスターという感じだったのですが、今は見る影も無く変態モンスターにアップグレードしてます」
「……。 なんだかお前、面白い人生歩んでるよな。 あははは」
あはははじゃない。
何笑ってんだこの人。
「事情は分かった。 俺もあいつは見張っておく。 まぁ明日から実践だ、ゆっくり休んでおけ」
「はい、ありがとうございます」
「あぁ。 話してくれありがとうな」
そう言って僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。
韋駄天さんもそうなんだけど、なんでみんな撫でたがりなんだろう。
2人から見たら20歳の男の子が家族の責任と自分の将来へのために努力している姿が可愛いと思わないわけがない。 なんてことはこのときの染には分かりはしなかった――。
――翌日、潜水艦の実践が始まる。
Aチームは全員潜水艦のメインルームに集められ実際に乗り込んでいく。
こ、これが潜水艦。
父さん母さんが乗っていた物。
そしてその最後を見送った物。
これで――あの『深海』に――。
初めて乗るのになぜか懐かしさを感じている。
不思議な感覚だ。
あれ程恨んでいた思い出に今度はワクワクし、両親が見た物や事に触れてみたいと考えている。
このときの自分は素直に「また会いたい」と思っていた。
「おい、大丈夫か?」
ぼぉーとする僕に声をかける六教官。
「はい、すみません」
「昔のことでもを思い出したか」
既に僕の過去を聞いている六教官には、潜水艦の船内が僕の心の感傷と繋がったのだろうと察していた。
「はい。 少し両親を……」
「まぁいろいろ思うことはあるよな。 苦しくなったり何かあったら言ってくれ」
「ありがとうございます」
「あぁ」
「はい! では皆さん、先日シュミレーションした通り実践していきましょうか!」
『はいッ!』
その掛け声に伴い、全員持ち場に動く。
先日の機械操作訓練から予想通り潜水艦のコントロールは女性の人で決まった。
六教官はその補助に、僕とフシロムはインベーダーが出てきたときのための武器操作に役割を与えられた。
陽帝は中心に立ち全員がどのように動くのかを常に評価している。
そして、ついに――僕達は初めて『深海』に潜った――。
海面から50メートル、100メートルと沈んでいく。
潜水艦のフロントガラス越しに見える魚の種類がどんどん変わり、太陽の光も変化し続ける。
まるで夢の中を泳いでいるような、そんな幻想的な世界だった。
「深海300メートル地点到達。 陽帝さん、このまま進行してよろしいでしょうか?」
「うん。 もう少し奥に行こうか。 これからはインベーダー『島喰らい』や『海ネズミ』の住処になる。 染くんとフシロムくんは戦闘準備を整えるように。 また直ぐに帰還できるように補助機能の操作も慎重にお願いします、六さん」
『はい!』
陽帝も含め深海では一切の油断を許されない。
一歩間違えればプロの冒険者であれ事故死してしまう危険な区域。
全員に緊張が走る。
どんどんと深く潜り、太陽の灯は既にほとんどが届かない1000メートル地点に到達した。
予定していた時間よりもかなり長くかかったがAチーム全員無事に目的地まで到着した。
「想定よりもかかりましたね。 いや、かかりすぎか……?」
「そうだね、でも2年ぶりでしょ? 感覚のズレもあるだろうし、それよりも久しぶりで疲れたんじゃないですか?」
「いえ、お気遣いありがとうございます。 実践で陽帝さんにご迷惑をおかけしないように気をつけます」
「とんでもない」
「では、ここで一時待機します。 よろしいでしょうか」
「うん、お願いします」
流石に新しい環境と連続した試験に疲れが出たのか「一時待機」という言葉に全員が集中力を一旦切った。
「俺達ほんとうに深海にいるんだな」
「そうみたいですね」
昨日に何度か会話をしたフシロムだが、髭面で大人っぽい外見だったため30代だと思っていたが、なんと1つ上と聞いて度肝を抜いた。
六教官とは性質が逆のようだ。
「真っ暗で何も見えねぇな」
「そうですね。 ほんとうに闇の中ですね」
「あぁ。 不思議な空間だ」
「そういえば、フシロムさんはどうして冒険者に?」
「ん、あぁ、高校生の頃におもしろいもん見たんだよ。 変な話なんだけど、海を泳ぐ『女の人』を――」
海を泳ぐ女の人――。
僕は瞬時に頭をよぎった。
もしかしてこの人――。
「あっ、あのっ、もしかして……人魚のような形をしたっ……」
その言葉にフシロムが瞳孔を開いた。
「お前っ! まさか!」
「ええ! 僕も一緒です!」
まさかの共通点。
こんな嘘のようなおとぎ話で理解し合えるなんて。
「まじか! 俺はたまたま防衛省に務めるOBを訪問してて、そのときに見たんだよっ。 ゆらゆら泳ぐ人魚をっ。 周りに言ったら人間が海を泳げるわけ無いだろ? なんて馬鹿にされたけど、お前もだったなんて」
「あははは、僕も一緒です。 家族は楽しそうに聞いてくれたんですが、防衛省に努めているときに仲間内で話したら頭おかしいんじゃないかって言われました」
「あはははは、だよな。 まぁ客観的に聞いたらおかしい話だもんな」
「あはは、そうですね」
フシロムとの心の距離が縮まった気がした。
「あら、貴方たちも――」
そんな馬鹿話とは無縁そうなあのクールな女性が話に入ってきた。
「え?――」
水をクールに飲みながら僕達の話を聞いていたのか。
「あ、いや、ごめんなさい。 つい『人魚』って聞こえたから……。 ごめんなさい、私の勘違いだったわ」
「えっ! お姉さんもッ?」
「あっ、合ってるわよね? その話で……」
多分隠語っぽく隠す辺り、この人も周りに話して頭おかしい系と思われた筋だ。
「合ってるっ! 合ってるっ! まじか!」
「そうっ、良かったわ」
「いつ見たの?」
「あぁそうね。 私が丁度冒険省に就職してから2年が過ぎたときだったかな。 潜水艦の開拓任務で潜っていて、大波に潜水艦がさらわれてコントロールも全く効かなくなっちゃって。 そんなときに大しけのはずなのに優雅に泳ぐ女性が居て。 まぁそんなの見てる場合じゃなかったんだけど、あまりの幻想的で信じられない光景に目を奪われちゃったの。 それで、あのときのことを思い出して再びここに就職しにきたのよ。 笑っちゃうわよね、もう三十路近くなのに夢追いだなんて」
「え、三十路……」
なんか話とは別でショックを受けているフシロム。
どうした。
「いや、良いと思いますが――」
いつもならこういう話に入ってくることは無い六教官まで周りの熱に感化されて入ってきた。
「え」
「私も同じようなものですから。 正直こういった話をそこの部下にするときは恥ずかしかったんですが、今では腹割って話せて本当に良かったと思っているんです。 だから、いくつになっても良いと思うんです。 夢追いは」
「でも、あなただいぶ若いわよね?」
「……。 こう見えて多分あなたより年上ですよ。 一回りくらい」
「えっ? 嘘! え? 嘘……。 あ、ごめんなさいっ。 つい、その、外見が……」
「いえいえよくあることなので、お気になさらず」
「あ、ありがとう……ございます。 あっ、自己紹介まだだったわね。 あたしは出羽神 鳩クックって愛称でよく呼ばれるわ。 よろしくね」
「よ、よろしく……ねがい、ます……」
やはり『三十路』というワードから返事に元気がないフシロム。
たしかに同い年、いや顔年齢ならフシロムの10個下くらいに見えるかもしれないけど。
それとは別で、おまえほんとうにどうした。
「よろしくお願いします」
「あぁ。 よろしくお願いします」
なんだかチームにまとまりが出始めそれぞれの個々間で絆が強くなっていると感じた。
それにしても六教官から人に話しかけるなんて、教官という職を通して思うことが強くあったんだろうな。
僕はそんなことを思って、ふと陽帝を見ると――。
そこには恨み妬み嫉妬の増悪の全てをかけ合わせた純粋な悪を持つ陽帝が真っ暗な深海に目を向けていた――。
ご愛読ありがとうございます(*'ω'*)