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19話―「先生……本当にいいんですか?」

こんにちは、腎臓くんです(*'ω'*)


昨日までの2日間休みで、いっぱい書き溜めようと考えていたのですが酒に溺れました(;´・ω・)

すっごく美味しかったです(*ノωノ)


以上、お酒に溺れた腎臓くんでした(*'ω'*)



 ――その日は残りの試合も全て終わり上位25名が決定した。

 もちろん六教官も勝ち上がり2人ともチーム戦まで残り切った。


 翌日、個人戦を終えた25名の受験者には予定通り休日がもうけられた。

 染は翌朝には目を覚まし自分が奇跡的に勝ち越したことを聞いた。

 が――それを聞いた染にとってはその土俵に自分がいるようでいないのだと感じていた。



 病院のベッドに横たわり天井をぼぉーっと見つめる染。

 海の潮風が頬をなでるように舞い込む。

 昼の匂いが太陽と共に時間を教えてくれる。


 ……あぁ。 腹減ったな。


 そのときガラガラと重い扉を開く音が聞こえる。

 染は気づいているが振り向きもしない。


「やっほぉー。 元気にしてるぅ~?」


 病院の中なので気を遣ったのだろう、声を小さめに挨拶をするスーツ姿の韋駄天。

 皮肉にも試合の敗者が勝者のお見舞いに来ているのだ。


「……」

「くだものぉ~。 もってきたんだけどぉ~。 たべるぅ~?」

「……」

「あ、嫁がさぁ~。 牛のモツ煮を作ったんだけどぉ~、どう? あ、体調に悪いか」

「……」

「そういえば娘がさぁ~ピアノのコンクールでゆう――」

「韋駄天さん。 僕はあのとき死にました。 勝者はあなたです。 僕は死んでます」

「え? 生きてるよ?」

「死んでますよ……」

「ん? だって、喋ってるじゃん」

「……、ん? いや、そういう意味じゃなくて……。 なんていうんだろう、物理的にじゃなくて精神的にというか」

「ん? どういうこと?」

「えっ、あ、えっ? いや、そのあの……」

「……」

「……」


 なんでッ?

 なんで遠回しで喋ったら気まずくなるのッ?

 バカなのッ?

 もう一回説明したら、なんかっ中二病みたいじゃんッ!

 格好つけてるみたいじゃんッ!


「で、身体の具合はどうだい?」

「まぁ、はい。 大丈夫です」

「そうか、まぁ頑丈そうだもんね。 良かったよ。 あはははははは」


 いつもよりは小声で笑っているつもりなのだろう、でもほとんど廊下に響いている気がする。

 ここで染は早速本題に入った。


「韋駄天さん。 まずお詫び申し上げます。 試合中とはいえ年上の方、ましてや先生の先生に暴言を吐いてしまったことをお許しください」

「ううん。 ぜんぜん気にしてないよ。 あ、ごめん。 ゴキブリはちょっとムカついた。 あははははは」

「すみません」

「いえいえ、気にしてないよ」

「あの、僕は韋駄天さんとの試合の結果、敗北したものだと考えております。 なので、どうか僕の代わりに駒を進めていただけませんでしょうか」

「うん無理。 あははは――」

「なぜですかッ! 先生ほどの力があれば間違いなく合格し冒険省をさらに発展させます! 僕はもう……負けてますから……」


 韋駄天はスリッパを履いたまま足を組んで、置いてある水で喉を潤す。


「そうネガティブにならないで。 うーん、そうだねー。 あのね、私はね、染くんに感謝しているんだ」

「か? 感謝?」

「うん。 私ね、この負けを機に戦いから引退しようと考えているんだ」


 はっ?


 染はとっさに言葉が出ない。

 なぜなら、優しい顔して落ち着いて軽々しく喋っているだけで内容は「君に負けたから引退しようと思う」と言っているのだ。

 これだけ『冒険者社会』に影響を及ぼし、何百、何千との人々の命を救った伝説を僕のようなスーツを着て舐めプしちゃうクソが終わらしたら全てに申し訳ない。

 それに――そんなことをしてしまった自分を殺したくなるほど憎くなってしまう。

 それだけは勘弁してほしい。

 それだけは……。


 僕はゆっくり吐き出すように返した。


「な、なんで……。 そっ……そんなに、僕との試合が恥ずかしかったんですか……。 失望したんですか……」

「あはははは。 違うよ……。 うーん、3年くらい前から考えていたんだ」

「3年も、前から?」

「うん。 20年前はこの冒険者社会があまりにも無法地帯だったから目的持って奮闘して行動できたんだけど、3年前くらいから『もう私は要らないな』って気づき始めたんだ。 多分、私が目指してきた形が目に見えるくらいハッキリと現実に現れるようになったからなんだと思う。 それは本当に嬉しいことだよ。 でも、あ~そうか、もう私は要らないんだなって」

「そ、そんなことないですよっ! 絶対にないッ!」

「ありがとう。 分かってるよ、自分でも。 実はもう少し居たほうがいいんじゃないかなって、ほんとうは思ってる。 だから、正直認めたくないなって、思っちゃってる」

「……」


 違う。

 これは多分「決意」だ。

 韋駄天さんの中でなにかが動いたんだ。

 六教官が自分の「後悔」と向き合ったように――。


「だからね、悪あがきで冒険省の試験に出てみたんだ。 あははははは。 ……次に必要とされる場所を求めて」

「……」


 韋駄天は大きな声で笑った後、黙り込んでから話し出した。


「でも、君と戦ってみて分かったんだ。 私はもう本当に要らないんだって。 次にすべきことは『自由奔放な私のために自分を我慢し続け尽くしてくれた嫁に尽く返すこと』と『次の未来を信じること』なんだって、分かっちゃったんだ」

「で、でも」

「だからね、最後に君を少し育てて嫁と隠居生活でもしようと思う」

「僕……を、育てる?」

「うん。 その怪我が治ったら私の肉体操作術『纏』を教える。 ちなみに、これを教えるのは六くんと君だけだ。 非常に強い分、力の調整を誤ると筋肉が爆発するから気をつけてね。 あはははははははは」


 筋肉が爆発するって……。

 笑うことじゃない気がするんだが……。


「い、いいんですか? 本当に。 もう、全てを置くってことですよ?」

「うん。 大丈夫。 私もこの心の壁を乗り越えようと思う」

「……」

「ありがとうね。 ほんとうにありがとう」


 韋駄天は染の頭をくしゃくしゃと撫で心の枷を自ら解いた――。




ご愛読ありがとうございます(*'ω'*)

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