17話―「その筋肉って、別々に意思を持ってます?」
こんにちは、腎臓くんです(*'ω'*)
もう時間がないので割愛します( ;∀;)
ごめんなさい( ..)φ
――闘技場に2人の主役が歩いてくる。
観客の熱が爆発したかのように盛り上がる。
「きたきたきたッァァァアアアアアア! スーツマン!」
「ママ―! サラリーマンの人来たよー! ポップコーン早く~!」
「やっちゃえっ、サラリーマンッ! お前がサラリーマン代表だッ!」
「いけぇッェェえええ! 脱サラリーマン!」
おい、誰だ。 脱サラリーマンとか言ったの。
聞こえたぞ。
前回とは比べ物にならないほどの注目度。
たった1試合でここまで下馬評が変わるとは世の中の単純さというかなんというか、複雑な気持ちだ。
2人は向き合い改めて挨拶を交わす。
「もう、私はお爺さんだから、手加減してくれよ。 あはははは!」
「あはは……」
なにがお爺さんだ。
その鎧の内側から鋼みたいな筋肉が顔を出したがっているぞ。
両者構える。
韋駄天は両手剣スタイルのはずだが木製の剣はしまったまま。
腰を下ろし武闘派の如く拳を構える。
「ではッ! 2回戦を始めたいと思います! ルールは前回説明した通りで、今回の試合も同様に適応されます。 いいですね? ではッ! 始めええええェェェッッッ!」――。
開始の合図と共に韋駄天は素手のまま駆け抜けた。
んっ? ステゴロッ?
嘘だろっ! このまま直線距離で――盾ごと僕をごと殴る気かッ。
一直線で風を切る槍の如く駆ける韋駄天に盾をどっしりと構える染。
来たッ!
目の前に爆速でやってきた韋駄天が拳を引く。
「まずは挨拶だ、後輩くんの後輩くん。 踏ん張れよ」
にいっ!と笑みをこぼした韋駄天はそのまま拳を染の盾にぶち込む。
さっきのアバランさんの攻撃を防げたからこの程度な――らぁ。 あ。
盾はまるでショックウェーブを受けたかのように波を打ち、その衝撃破は染の身体に伝わり背後の壁向けて豪快にぶっ飛ぶ。
バッァァァアアアッン!
一体何メートル飛んだのか。
一撃で木製の盾に割れ目が入り、受けた左手の骨はきしむ。
染の中ではサハギンよりも、いや今まで戦った全インベーダーを含んでもこの男の一撃は重かった――。
なッ!
なんて重さだッ!
クソっ。
受けたら受けたでまずい。
だがっ、こんなのどうすればっ――。
「さぁ。 次行くぞ」
うおッ! まじか!
そもそも受けることがまずいと感じた染はまた爆速で飛んできた韋駄天の拳をギリギリでかわす。
グッ、ギリギリ。
だが――すぐさま逆手で拳を出す。
これは盾で受け止めるが、またぶっ飛ぶ。
バッァァァアアアッン!
まるでなにかに背中を引っ張られるようにノックバックする。
なぜだッ! なんでッ飛ぶんだッッ?
クソッッ!
「あははは。 噂通りとんでもなくタフだね。 結構力入れてるんだけどなぁ、染くん」
「それはどうもです。 ハァハァ」
「さぁ次いくぞ!」
「ちょっ、ちょっと待ってください」
「どうした?」
試合中なのに急に止められ笑ってしまう韋駄天。
「な、なぜ剣を抜かれないのですか」
「あ、あぁ。 まぁ、剣は性に合わなくてね。 あははは」
「……拳だけで十分ってことですか?」
「まぁ、そうだねぇ~。 悪いねぇ強くて」
「……」
最後のセリフを吐いてからまた韋駄天は染にそのまま突っ込んでいった。
染は盾を下げ剣も下げ顔を下に向けたままぼそぼそと呟いていた。
そんな姿に韋駄天は気を遣ったのか、力を抜き当たっても事故にならない肩の部位に拳を定める。
あぁ……。 諦めてしまったか少年。
だが、君は十二分に耐えたよ。
ありがとう、染くん。
韋駄天の爆速パンチがそのまま染の肩目掛け――。
バァァァアアアアアッッッン!
んッ?
拳の放った線上に砂埃が舞う。
力を抜いたとはいえ貫くつもりで放った拳が肩に到着せずに手前で止まっている。
違和感をすぐさま察知した韋駄天だが手が動かない。
だんだんと違和感は明確になる。
それは――先ほどまで盾で防いでも何で防いでも7メートルはぶっ飛んでいた黒糸染が――片手でその拳を受け止めているのだ。
「――な」
「ん?」
「――けんなよ」
「……」
「ふざけんなよッッッ!」
受け止めた拳とは逆手で韋駄天の顔面を思いっ切り殴り飛ばす。
グッ、バァアアンッッ。
空いた片手で防ぐが引きずられるように転がる韋駄天。
拳を防がれたときに感じた脆いようで脆くない何か。
韋駄天の頭の中では黒糸染のとんでもない重荷とバカでかい意志を感じていた。
「この試合には人生かけてる奴もいんだよッ。 テメェッのくだらねぇ信条に俺たちの人生利用してんじゃねェェェッッ!」
染の脳裏には1回戦目で戦ったアバランのことが頭をよぎっていた。
何が理由で今頭をよぎったのかは分からない。
ただ、アバランからはこの試験では一度たりとも負けてはいけない、そんな苦しみを感じていた。
その苦みが彼の大きな執念を作り、精神の枷までもを作った。
まさかそれが敗北の原因になるとは思ってもいなかったが、それでも彼は自分の最低な姿をカメラで写されようと泡を吹き倒れようと最後の一振りまで自分の全力を見せた――。
全身全霊をかける彼の想い、自分の試合に両手を合わせ見守る家族、負けたらどんな未来が待っているのか分からない不安。
その重い枷全てが韋駄天の舐め腐った行動全てを否定した。
「来いよ、クソじじい。 引けねぇ人生ってもん、見せてやる」
「……。 んッんっ。 ちょっと、言いすぎだよ。 後輩の後輩くん……」
立ち上がった韋駄天は腰を少し降ろし、2本の剣を同時に抜いた――。
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