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駆け出しの冒険者

 残念ながらやりたいこともやるべきこともないので、冒険者ギルドで依頼を探すことにした。


 相変わらず冒険者は少ないように感じる。暇を持て余しているのかライラさんは本を読んでいるし、他の受付嬢も暇そうにしている。


 出ている依頼の中で受けられそうなのは…”森の魔物討伐”、”薬草収集”、”家の掃除代行”…これぐらいだ。


 ということで、魔物討伐と薬草収集を二つ同時に受けることにした。宿代を稼がないといけない。






 イニサル森林の魔物の間引き


依頼者 ギルド


報酬 1体当たり100ブロンズ(最低6体から)


期限 受付から5日


説明


 イニサル森林での魔物のみを対象とします。依頼受注時から5日分の記録のみを対象とします。


期限を過ぎた場合のペナルティはありませんが、依頼は自動的に破棄されます。






「依頼の受諾をお願いします。」




「ん…おっエイ君か。おっけー…受諾完了したよ。はい、これが薬草の袋ね。何か質問とかある?」




 本を読んでいたライラさんに受付をしてもらった。本の題名は「七人の英雄と元平民の私」、恋愛小説のようだ。




「魔物の討伐数はどうやって数えられるんですか?」




 なにか魔物からとってこないといけないのだろうか。




「あー、それはね、ギルドカードが…えっと…なんやかんやで記録してくれるんよ。だから、魔物の死体を持ち込まないでも大丈夫なんだけど、その代わり、ギルドカードを置いて行っちゃうと記録されないから気を付けてね。」




「なるほど…このカードは凄いですね。それじゃあ行ってきます。」




「うん、怪我しないようにねー。」




 ライラさんの声を背に冒険者ギルドを出て、町の門へ向かう…



…門の前に着いた。今日も2人の衛兵が立っている。

挨拶だけしておこうか。


「お疲れ様です。」




「おう、行ってらっしゃい…って昨日の坊主か、ちょっと待て。」




 挨拶をして、意気揚々と出ていこうとしたら引き止められてしまった。




「ああ、ここに来た時の門番さんですね。あの時は助かりました。ありがとうございました。」




 ギルドの場所を知らなかったら飢え死にしていたかもしれない。いつかこの人にも恩返しをしないといけない。




「いや、いいってことよ。それより、ほら、今日泊まる場所がなけりゃここに来な。」




 いい人そうな門番のおじさんはメモのようなものを渡してくれた。




「そこで俺の嫁と娘が宿屋やってんだ。まあ商店街の宿屋と比べたら小さいんだけどな。そんで昨日話したらバイトで雇ってやってもいいって話になったからよ、寝る場所が欲しけりゃうちに来て良いぞ。賄いもある。」




 この町はお人好しが多いようだ。部外者ながらとても居心地がいい。




「ありがとうございます。必要になったら頼らせて貰います。」




「おう。それじゃ気をつけてな。」




 門を抜ける。


 爽やかな風が頬や身体を撫でて行き、陽の光が踏み固められた道や揺らいでいる草花を余すところなく照らしている…


今日は快晴だ。



/『イニサル町付近』午前/




 イニサル森林へ向かう道を歩いていると、不意に強い衝撃が体にぶつかり、そのまま後ろに倒れてしまった。すぐさま上体を起こし、周りを見ると、少し遠くの背の高い草むらの中から以前殺したことのある、鳥型の魔物が出てきた。戦闘だ。




 座ったままではうまく戦えないので魔物を注視しながら起き上がる。




 魔物は走って近づいてきている。あと数秒で目の前まで来れるだろう。


推測される魔物の攻撃手段は嘴、爪、先ほどの風による衝撃だ。


風を起こすのはたぶん魔法だ。わざわざ近づいているということは連発は出来ないか難しいのだろう。


嘴、爪の攻撃に必要な近さはとらせないようにするべきだろう。こちらの得物は長棒で、十分距離を取って戦えるはずだ。




 武器を構えながら魔物が近づくのを待つ。


 魔物は駆けながら長棒の射程距離に入った。


突き、前から走ってきているので当たれば威力は大きいが、左右、上に回避することは容易だろう。


横なぎ、当てやすいが周りはひらけているのであまりダメージは出ないだろう。また、跳ばれたら大きな隙を見せることになる。


振り下ろし、突きよりは当てやすいが左右に避けることは出来るだろう。当たれば地面があるので威力もそこそこ出るだろう。


 いや、まだ判断するには早い。動作が予測できた時に攻撃するべきだ。




 魔物は羽を広げ、一瞬地面に踏ん張った。予想される行動は跳躍だ。


長棒を上に構え、片方の手を少し遠めに添える。




 魔物は足を前にして顔の方へとびかかってくる。


それを迎えるように長棒で上から地面へ押さえつける。


すかさず左肩で長棒と十字に抑えつけ、空けた右手で顔を殴りつける。


グローブ越しに殴る感覚はしているが、あまり威力は出ていない、すぐ側にこぶし位の石が転がっていた。


石で殴りつけると、あからさまに怯み出した。羽に赤い色が滲みだしている。


石を魔物の頭部へと突き立てる。時折、嘴で抑えている肩を突いてくる。少し痛いが、気にする必要もないほどだ。




 大きく振りかぶり、骨を砕こうとしたとき、魔物は声を上げた。すると、突然発生した風で後ろに押されてしまった。その隙に魔物は体勢を立て直したようだ。




 前回のことも踏まえると、どうやら魔法を使うには声を出す必要があるみたいだ。魔法についても調べなければいけないが、先にこの魔物を殺さなければいけない。




 魔物はこちらを向いて、じっとしている。すると、後ろを向いた。逃げるつもりだろうか。


魔物が走り始める前に、前方へ大きく踏み込んで長棒を振り下ろす。振り下ろした長棒の鉄で覆われた先端が魔物の首部分へめり込んだ。魔物は潰れた声を出し、転ぶように倒れた。




 両手でもう一度振り下ろす。


何かを崩すような感覚と鈍い音と少しの水音がして、暴れていた魔物の体は動かなくなった。




 長棒は赤黒く染まり、鉄と木の境目が分からないほどになっていた。辺りには生臭さが漂い始めていた。




 後処理をしなくては…




 魔物の肉と皮を手に入れた。




/『イニサル森林』午前/


 森林は木々によって草原に比べて少し暗く、葉の擦れる音が聞こえる。地面には落ち葉が積もっており、土はふかふかとしている。自分の歩く音だけが響き、時折獣の鳴き声が聞こえるが、静かである。




 魔物との戦闘後は何もなく、明るいうちに森へ着いた。暗くなる前に薬草を集めよう…




 薬草集めは順調に進み、シロツメとツルマキを合わせて充分な量を採集できたので、休憩を取ることにした。




 水の音を頼りに歩き、小さい川を見つけた。水は澄んでいて、小魚が泳いでいるのが見える。




 石を丸く置き、中に葉や枝など、そこらへんにあるなんとなく燃えそうなものを置いてマッチで火をつけると、しっかり火が出来た。ナイフで枝を削り、魔物肉の串焼きを作る。




 パチパチという木の燃える音、水のせせらぎを聞きながら肉が焼けるのを待っていると、魔法について調べようと考えていたのを思い出し、ガイドブックを開いた。






 魔術、スキル、奇跡




 魔術とは、神が世界を操作する術を下位存在向けに改変したものです。魔力が関連します。


 スキルとは、取得している技能を魔力によって行使するものです。魔力が関連します。


 奇跡とは、神に請願し、世界を操作してもらうものです。信仰が関連します。


 それぞれにも加護が付与されています。




 魔術に必要なものは魔力と意識、そして呪文です。また、魔力の中でも属性、魔力量、魔力変換効率が大きく関連します。呪文によって魔術を決定し、魔力によってそれを行使します。現在発見されている呪文一覧は巻末に掲載されています。




 スキルに必要なものは魔力と意識、そしてスキルの獲得です。また、スキルによって関連するステータスはさまざまです。スキルの行使を意識すると、魔力によってそれを行使します。




 奇跡に必要なものは儀式と信仰です。神や請願する内容によって儀式内容は変わります。現在発見されている儀式一覧は巻末に掲載されています…






 続けて呪文一覧を見ると、そこには文字らしきものと、その説明が記載されていただけであり、その読み方は全く書かれていなかった。これは、魔術を使う人に聞くしかないだろう。




 さて、もうそろそろ肉が焼ける頃合いだろう。




 汚すといけないのでガイドブックは仕舞い、串焼きを食べることにした。


ぶつ切りになった生肉はそのタンパク質の立体構造が熱によって変化し、浅黒くなっている。




「いただきます…うっ、硬くて臭い…」




魔物の串焼きは美味しく頂けたが、川が近くて助かった…




 そろそろ休憩は終えて依頼を進めよう。今回の依頼は森の魔物の間引きで、最低でも六体は殺さなければならなかったはずだ。日はまだ高く、時間は十分にあるだろう。




 落ち葉や腐葉土の柔らかさや、木の根や石の硬さ、体を撫で行く冷ややかな風やそれに乗る草の匂い、時を感じさせるそれぞれの大樹の陰や時折地に咲く花を照らし出す木漏れ日を感じながらも、魔物を探しに歩き回る。




 すると、後ろの茂みから自分以外の音が聞こえるのに気付いた。少し歩いて様子をうかがうと、やはり後ろをついてきている。戦闘だ。




 まずは敵が何かを判断しなければいけないので、振り返ると見覚えのある獣が藪から出てきた。今回の敵は猪のようだ。


 相手を注視していると突然半透明のパネルが空中に出てくる。




スキルが発動しました。


 イノシシ


無属性獣型


弱点属性:切断系、電気系


弱点部位:目、脳、心臓 


討伐回数:1回




 分析のスキルが発動したようだ。情報はありがたいが、切断したり電気とやらを出すような武器は持っていない。




 イノシシはこちらに向かって突進する準備をした。


 距離は近い。後ろには木があり、草木が生い茂っているため自由には動きづらいだろう。


横に回避、多少は進む先を調整するだろうからよけるのは無理だろう。


防御、ダメージは抑えられるだろうが、そのまま木と敵に挟まれる可能性もあり、距離感的にも不利になるだろう。


うち払い、振り下ろし、どちらも威力は出そうになく、押し切られるかもしれない。


突き、これも威力は出ないだろうが、相手の突進をそらすのには有効かもしれない。




 イノシシは突進を始めた。突きの射程に入るのは2,3秒後ぐらいだろう。こちらも突きを出すために長棒を構えて、引く。


 弱点らしい相手の目あたりを狙い…先を持った手で定めて後ろを持った手で思いっきり長棒を押し出す。


先端に付けられた金具がぶつかる寸前でイノシシは顔を背け、しかし左側頭部に当てたままこちらに突進を継続した。


長棒の当たった感触はしているが手応えはあまり感じず、そのまま押されてしまう、が後ろにあった木に棒が当たり、突進の力がそのままイノシシに返されることになり、一瞬力が打ち消される。その隙に長棒の先を左に引っ張り、流れで斜めに打ち払う。




ダメージは低そうだ。次は…


足払い、転倒させることが出来ればとどめまで持っていけそうだ。


距離を取る、少し離れた方がより有効な攻撃が出来るだろう。


突き、打ち払い、振り下ろし、ダメージを負わせることはできるが、怯まずに反撃されたら危ないだろう。


 前足を引っ掛けるように体を軸に棒を斜めに回すように動かす。


結構な重さを手や体に感じるが、体ごと回すように振り、前足を無理やり持ち上げ前へ進み、今度はさっきとは逆に相手を木へ押し付ける。右手でベルトポーチから解体用ナイフを取り出し、肋骨の隙間から中央に向かって差し込む。


 イノシシは鳴き声を上げるが、前足をばたつかせることもできない。


ナイフを抜き、より角度を付けてもう一度刺す。


イノシシは鳴き声を上げ続けている。


ナイフを握る右手は生ぬるい感覚に包まれている。


もう一度抜いて、刺し込むがこの刃は心臓に届いているのだろうか。


イノシシは鳴き声を上げているが、その声には水音が混じっている。


ナイフを抜き、みぞおちから突き上げるようにまた刺す。


すると、ナイフ越しに、ビクンと強めの動きを感じた。


イノシシは声を上げていない。


ナイフを抜き、またナイフを突き立てようとしたところでイノシシが動いていないことに気がついた。




 川はまだ近いだろう。持って行ってローブやナイフと一緒に洗おう…




 その後もイノシシやニワトリを相手に戦闘を行った。そして日が暮れ始めた。


 森はほの赤く照らされ、影はより暗く、空気はより冷たくなり、人ならざるモノの場所になり始めている…

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