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お姉さんに連れられて

 外に出て、ガイドブックを取り出す。索引から通貨のページを開くと、色々な貨幣の絵が載っていた。どうやら世界で統一されているらしく、小さい銅貨が1カッパーで最小単位らしく、1000カッパーで1シルバー、1000シルバーで1ゴールドというふうに繰り上がっていくようだ。


 貨幣にも加護が付いていて、どうか、銀貨、金貨の交換は誰でも行うことができて、壊れたりはしないが、武器や部品など、他のことに使おうとするといつの間にか消滅し、時間が経つと知らないうちに現れるらしい。


 通貨の製造はされておらず、世界各地の商売神の祠から無作為に供給されたり、逆に通貨を納めるように神託が下ったりすると書いてある。これが神の見えざる手ということだろうか。

…ちょっと違う気がするが、まあ良いだろう。


「お待たせ、待たせちゃったかしら。」


「いえ、丁度キリのいい所でした。」


 薄い緑のシャツに空色の吊りスカートのような服装(後で調べたらジャンパースカートというらしい)で肩に小さめの茶色い鞄を掛けている。


 読んでいたガイドブックをしまって、リュックを背負う。


「良かった。それで、名前を言い忘れてたわね。私の名前はセレイヤ。好きに呼んで良いわよ、セレとかセレちゃんとか…セレ(ねぇ)とかどうかしら?」


「…ではセレイヤさんと呼ばさせて」


「実は私、弟が欲しかったのよね…姉さんとか呼ばれてみたかったわ。そう呼んでくれる子が居たら凄く嬉しいのだけれど…」


 これはそう呼んで欲しいということだろう。

ならば少し恥ずかしいけれどそう呼ぶのが良いはず。うん。


「…セレ姉さん、と呼ばさせてもらいますね。」


「ええ!良いわよエイレ君、好きなだけ呼んで頂戴ね!」


「…」


 凄くしっかりした年上のお姉さんという印象ではあったが、近親者のように呼ばれたがるということは、寂しい思いをしていたのだろうか。

慣れよう、ちょっと恥ずかしいけれど。


「それじゃあ暗くならない内に行きましょう」


「最初は何処へ?」


「そうね…先に商店街と鍛冶屋に行って戻ってくる時に教会って感じが良いかしら。」


「なるほど」


「それじゃあ手を繋いで行きましょうか、迷うといけないし。」


「なるほど」


 という訳で手を繋いで歩くことになった。

…前にも感じたが、誰かに触れていると何処か安心する。

人間は他者の存在を前提として進化してきたからだろうか、

或いは、語り得ぬ不安を誤魔化せるからだろうか、

少なくとも、自分がまだ子供であるからというだけではないだろう、恐らく。


 

 石畳の道を歩いて少ししたら、セレイヤさんは立ち止まった。

ギルドに向かうときは急いでいて気にしてはいなかったが、広場があったようだ。

 人は居ないが、噴水は太陽の光を受け、湛えた水を輝かせていて涼しげで長閑な広場だ。ベンチが置かれているので昼間などは此処で休憩するのも良いだろう。


「ここは広場ね。何かお祭りごとがある時は会場として使われるわ。暑い日はここに涼みに来る人も多いわね。ここから右の道に行けば領主様の執務館があって、左のは住宅街、前に行くと商店街、鍛冶屋と続いて門があるわ。ギルドからここに来る途中の道で曲がってたら教会に着くけど、先ずは商店街ね」


 ということで手を引かれて歩くこと数分、商店街と呼ばれる場所に移動した。

やはり手をつないでいるというのは目を引くものなのか、街ゆく人々の視線を感じることは少なくなく、しかし、手は放したくないもので、所謂葛藤を経験したことになるのだろう。


「さて、ここが商店街よ。他にもお店はあるにはあるんだけど、冒険者が利用するのはここのお店がほとんどじゃないかしら。さあ、回るわよ。」


「ここら辺は人通りが増えますね…」


 この装備を買いに来たときはこんなに人がいるようには感じなかったが、

武装した人や、普段着の人、中には学者のような人もいて、冒険者ギルドあたりに比べて人口密度が三倍以上はありそうな具合だ。

馬車が二台は通れそうな道が奥の建物まで続き、その道に面して六つの大きな建物がある。左手前にはこの装備を買った店もある。


「ふふ、それは当然よ、それに今ぐらいの時間帯から酒場とかは開くからそれに合わせて帰ってくる人も多いのよ。ということで先ずは酒場ね。」


 向かって右の、看板には液体の入ったジョッキの絵が描かれている店の前に来た。人が出入りするたびに、喧騒が漏れてくる。


「酒場とは言うけれど、食事も取り扱っているから夕飯をここで済ませる冒険者も多いわ。おなかはすいてる?」


「いえ、まだそんなには。」


「そっか…じゃあまた後で来ようか。さて隣は宿屋よ。」


 寝具の絵が描かれた看板が吊るされている。この建物は落ち着いていて、たまに料理の音が聞こえてくる。


「今日の宿はまだ取ってない?」


「場所もわからなかったので外で寝ようかと」


「あら、野宿なんかしたら狼に食べられちゃうわよ。それならウチに来ない?お金なんて取らないし、朝ごはんまで付けてあげるから、どう?」


とてもありがたい話ではあるが、流石に甘えすぎるのも良くないだろう。


「いや、そこまでお世話になるのは申し訳ないです。出来たらここに泊まろうかな。」


「1泊1シルバーよ。」


「えっ」

 

 所持金は75カッパーであり、流石にもう一度依頼をこなすにはちょっと遅い時間で、休憩も必要な気がする。


「一人暮らしは寂しいし、偶には誰かを泊めて一緒に過ごしたいんだけどなぁ。」


「さっきの広場のベンチでも…」


「街中の野宿は盗みとか多いし、最悪殺されちゃうこともあるのよね。」


「…一晩だけ、泊めて頂けますか、セレ姉さん。」


「ええ勿論!ふふふっ、夜が楽しみね。」


「いや、本当にありがとうございます、お世話になります…」


ああ、どう埋め合わせするべきだろうか。


 相手のためになることをせよ、とはアリストテレスからキリスト、その他諸々の思想、宗教に通ずる所謂黄金律ではあるが、される側はうれしさと共に、罪悪感にも似た、津波のように押し寄せる自責までもが生じる。

しかし、これを無視してはならないのだ、それ故に成長するのだから。だからこそ、慣れてはいけないのだ、だから、これでいい。


「あら、暗い顔をしちゃって…本当に気にしないでいいのよ、私は君を気に入ったからここまでしているのだから。」


「はい…ありがとうセレ姉。」


「じゃあ、次は道具屋よ!買いたいものはあるかしら?」


「はい、色々と」


 宿屋の隣は道具屋のようだ。袋の絵が描かれた看板が扉の横についている。

ようやくここに来れた。


 道具屋に入ると、入店を知らせるベルが鳴る。

店内は、装備屋と同じぐらいであり、薬品や戦闘向けではない刃物など、用途別に場所が分けられているようだ。よく見ると、階段やカウンターの位置が装備屋と同じみたいだ。


「エイレ君は何を買うのかしら?」


「火付け道具が必要でして…」


「おお、偉いわね。それならこっちよ。」


 と、流石は冒険者ギルドの受付嬢、勝手を知るようで火起こし関連の用具が置かれている店内の隅に案内してくれた。

金属の棒のようなものや木と紐でできたもの、箱に入った先端の赤い小さい木の棒なんてものもある。


「この二つはコツがいるから大丈夫だとは思うけど、このマッチっていうのがおすすめよ、簡単に付けられるし、一回で一本使っちゃうけれど安く買えるわ。」


「なるほど」


 ということでマッチというのを買うことにした、45カッパーで。

残りのお金で、もう買えるものは無いだろうが、どんな物があるかは確認しておくのは大事だろう。

会計を済ませたら店内を回ってみることにした。


薬品エリア。ポーションや塗り薬などがあり、色々なものがあるが値段は高めで一番安い回復ポーションでも300カッパーはするようだ。


採集道具エリア。釣り竿や空き瓶、木を切るための斧やつるはしなんかも置いてあった。値段自体は薬品系よりも高かったが、揃えれば受けられる収集依頼も増えるだろう、早めに集めておきたい。


食事用具エリア。携帯食料と調理道具、食器が置いてあり、マッチもここに置かれていた。皿の1つでも買っておくべきだろうか。


雑貨エリア。下着や携帯トイレなど雑貨屋的な道具屋の中でも雑貨と分類されるような商品が置かれている。ただ、便利なのは確かなものも多そうなので余裕があるときは確認したい。


 1階はひと通り見終わったため、2階に上がろうとしたら、


「あら、エイレ君にはまだ早いわ、あと5年は待たないとね。」


 と止められてしまった。気になったので何があるのか聞くと、


「ええと…あまり人に見られたくないものね。」


 それだけ答え、僕の手を引いて足早に外へ出てしまった。


 外に出ると、ここに来た時の騒がしさは失せて酒場からこぼれるだけになり、日の光の代わりに街灯と店舗の窓からあふれる光が夜道を照らしていた。


 依頼終わりに来たこともあってか道具屋を見ていたらすっかり暗くなってしまったようだ。


「もうすっかり夜ね。じゃあ家に帰りましょうか、エイレ君。」


「はい、お世話になります。」


 広場まで戻り、そこで右に曲がってセレイヤさんと住宅街の方へ一緒に歩いていく。


 夕食時なのだろうか、道を歩いているだけで様々な料理の匂いと共に子供や大人の楽し気な声も聞こえてくる。夜は冷えるものではあるが、住人それぞれの家庭が確かに存在し、その暖かさが寒さを和らげるようである。


「ここが私の家よ、エイレ君。」


 街の様子を見ながら歩いていたら、目的地へ着いたようだ。セレイヤさんは鍵を鞄から取り出し、扉を開けてくれた。


「おお、お邪魔します。」


「お持ち帰り完了ね…」


 セレイヤさんの家は二階建てで、大家族で暮らすには少し小さいが、一人暮らしならば広々と過ごせそうだった。


ちょうど、料理の手伝いで肉を使うことができ、料理について少し理解することも出来た。

 

 色々とあったが、家族のような団欒を感じることができた気がした…


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― 新着の感想 ―
[一言] あまりに私欲に走り過ぎでは??? 誰か、良識ある人が通報して上司のお叱りを受けさせるべき案件かと。 8歳児に色目を使う大人って、客観的に見て気持ち悪いし。 それともそういう色物として読み進め…
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