依頼の受諾
着衣の感覚に喜びながら歩いていると、冒険者ギルドで依頼を受けられることを思い出した。
今度は堂々と入ることができる。何故なら服を着ているから。
ギルドに入ると、さっき来た時と冒険者は変わっているがその数はあまり変わっていなかった。
この町は冒険者の数が少ないのだろうか。依頼の用紙が貼ってある場所へ向かう。
依頼の紙は100ランクごとに張り出されている。大体800~1100ランクのものが一番多く、100ランク以下のものや2000ランクのものは数枚しかなかった。
ちなみに、最大ランクの依頼は8000で、辺境に棲む半神の竜の捕獲依頼だった。
ランクの数字も、神が居るのも、それを捕獲しようとするのも、色々と驚きだった。
気を取り直して、100未満の依頼を見る。
初級薬草の納品
依頼者 ギルド
報酬 一袋75ブロンズ
期限 受付から三日
説明
ギルドから貸し出される袋に初級の薬草を入れて持ってきてください。
初級の薬草なら種類は問いません。雑草が入っていた場合、やり直しとなります。
畑の見張り
依頼者 キャロ
報酬 150ブロンズ
期限 依頼完了から一週間
説明
畑に魔獣が入り、荒らしていくことが増えたので一日見張り、場合によっては撃退をお願いします。
丸一日での依頼となるので食料を忘れずに持ってきてください。
どうやらこの二つしか今はないようだ。
食料を買うお金もないので薬草の方を受けることにした。紙を取り外し、ギルドカードもポーチから取り出す。
受付は全部空いていたので、今度は端から二番目のところに行く。
そこの受付の人は暗い茶髪をポニーテールにしていて、どこか活発な雰囲気がある。
「こんにちは。この依頼を受けるのでよろしくお願いします。」
台にカードと依頼の紙を置いた。
「おっ、りょーかい。…君はこの依頼受けるの初めてだよね。薬草とかわかる?」
当然分からないので首を横に振る。
「おっけー。じゃあお姉さんが教えてあげよう。あっそうだ。私のことはライラって呼んでね。君は?」
「エイレ・フィロネイアです。これからよろしくお願いします、ライラお姉さん。」
「っ…。じゃあエイ君だね。それじゃあ…」
するとカウンターの裏からゴスッと鈍い音がした。足でもぶつけたのだろうか。
ライラさんはぶつけた足を押さえているのかしゃがんで見えなくなっている。
「いったぁ…、………」
なかなか戻ってこない。打ち所が悪かったようだ。小指か親指か、脛かもしれない。弁慶だって泣くのだから相当痛い。
「…あの、大丈夫ですか?」
「…うん。だいじょーぶ。ええっと薬草の説明だったっけ。鑑定が出来ればすぐわかるんだけど、多分まだ持ってないよね。そしたら、ここら辺の薬草は…シロツメとツルマキだから…
んじゃ薬草の特徴を教えるからそれをこの袋に入れて、大体閉じたときに空間が出来ないくらいまで集めて持ってきてね。」
もらった袋は握りこぶし2個分くらいだった。
「わかりました。」
「そんじゃ薬草の特徴を言うよ。
まずシロツメは、私の親指の爪くらいの葉が三つで、意外と色んなとこに生えてるのを茎ごと採ってね。ただ、葉が二つしかないのは雑草だから間違えないように気をつけて。
そんでツルマキは私の手のひら位の、周りがギザってる葉っぱのツタで、よく木とかに巻き付いてるからそれも茎ごと入れてね。んで、これも似てる雑草があって、それは葉っぱの周りが丸いやつだからそ子に気をつけてね。」
ライラさんは手袋を取り、その手を広げ、こっちに出してそう説明してくれる。
大きさを覚えるために、その爪や手のひらを撫でて大きさの感覚を確認する。
「なるほど、ここがシロツメでここがツルマキか。ありがとうございますライラお姉さん。」
「っ…、い、いいんよこれくらい。そう、説明のためだから、んっ、なにもやましいことなんか、ない。…うん。」
確認を終えたのであとは取りに行くだけだ。
「よし、それじゃあ行ってきます。」
「あっ…。ああそうだ、エイ君。最初に受付したセレちゃんが言い忘れたことがあるらしいから報告はそっちにお願いね。」
「わかりました。ではまた。」
ギルドを出て門に向かう。まだ外は明るい。
さあ初めての依頼だ。頑張ろう、夕飯の為に…
/
ギルドの受付嬢ライラは未だ手袋を付けられずに自分の手を見つめていた。
まだ幼いが、確かに前評判通りの美少年の手は柔らかく、暖かかった。
別に握らせようとしたのではなかったが、確かに触って確かめるのは印象に残しやすい。
そしてその行為には全く不快感がなかった。むしろ、触られているこちらの方が悪いことをしているかのような…
「ライラ」
同僚が声をかけてきた。その声には刺々しさがあった。
「な、なにさ」
「なんで私じゃなくてあなたに受付に行ったのよ。なんで私より先に名前覚えさせてるのよ。なんでお姉さん呼びなのよ。なんで手と手を取り合っていちゃいちゃしてるのよ、それでなんでそんなにうれしそうなのよ。そっちの趣味はないんじゃなかったの、ねえ。あなたのことをこれから泥棒猫って呼んでもいいかしら。さあ、説明して。」
「ちょ、待ってよ。そんな一度に答えられないし、事故、事故だったんよ。別にセレちゃんからあの子を奪おうとしたわけじゃなくて、いやまあそもそもセレちゃんのでもないんだけど…取りあえずこれだけは言わせて、…あの子はちょっと癖とか関係ないわ。やばい。」
そしてややしばらく静寂が訪れた。そして同僚セレイヤは手を出し、ハッとしてライラもそれに応えた。それは正に同盟を表す握手であった。
「セレちゃん…」
「仕方ないわね、まったく…次は譲ってくれたものね。そしてようこそ、こちらの世界へ。」
「いや別にそういうわけじゃ…」
その数秒後、受付の足元あたりからまた鈍い音が鳴った。
握手はすぐにほどかれた。
「いったぁ!セレちゃん!?」
「やっぱりちょっと許せなかったわ。それであなたのことは何て呼べばいいのかしら。同志?泥棒猫?ライバル?」
「今まで通りライラで…うう…わざわざ靴脱いでまで蹴らんでも…」
そうして寂れた冒険者ギルドでは無駄に多いと言わざるを得ない受付嬢たちが暇を持て余しながら冒険者を待っていた…
ちなみに給料が安くない受付の人数を減らさないのは、現場を見ない上の完全な経営ミスであった…
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冒険者ギルドで依頼の受付を無事に済ませ、町を出るために門を通り過ぎようとして、朝の門番さんに気が付いた。
「おかげで服が買えました。それでは行ってきます。」
「おお、ちゃんと準備できてるなぁ。気を付けるんだぞ、なにかあったら構わず逃げてこいよ。」
軽く会釈して、外に出る。薬草のシロツメは色んな所にあるらしいが、町から離れた場所の方が取れやすいだろうから地図を開いて、森っぽいところに向かうことにした。
そして気が付いた。この地図には植生の分布が表示されるということを…