旅の始まり
/『神界』/
…
……
…光も闇もない此処に居るのは世界そのものだけである。
その場所を、その世界に住む人々は神界と呼んだ。
「ダウンロード完了。インストール開始。…3,2,1、完了。『地球-人間-01』発生。」
そこに、ある繋がりを通して読み込まれた一つの存在が出力される。
…声が聞こえる。聞いたことはないが、素晴らしい声だ。
眩しさを感じる。神々しさを感じる光だ。
匂いを感じる。嗅いだことはないが、天国のような安らぎを感じる。
甘さを感じる。空気が甘い、ずっと感じていたい。
暖かさを感じる。あたたかい。まさに神の愛のようだ。
嬉しい。ああ、ここは天国で、前にいるのは神様だ。
隷従したい。崇拝したい。神様さえ居れば、何でもいい…
それは現れて間もなくその性質を機能させた。
感性から悟性を通して創造主をその理性に形作る。
そうして入り込んだ情報は彼の内部で反応し、自己増殖を続ける。
「検査完了。リスク無し。損傷基準値内。修復開始…2、1、完了。」
…思い出した。僕の名前はまだない。地球にいたころの記憶もない。でも神様がいるから無関係だ…
「セットアップ開始。リネーム『エイレ・フィロネイア』精神設定信仰の初期化のみ、肉体設定カスタムテンプレート『オールラウンダー(テスト)』適用、魂設定変更なし。最大レベルの加護を付与。有効化条件『危機レベル』の設定。発生座標(871614,718459,371878,187940)付属生成物『ガイドブック』1、『ローブ』1。セットアップ完了。『エイレ・フィロネイア』を実行。観測を開始。」
そうして、一時的に呼び出された存在は神によって世界へ移された…
/『イニサル町付近』朝/
爽やかな風が吹き、一面の草花がなびいている。
土が露出しているだけの道の上では車を馬に牽かせている者や、剣や弓などの武器を装備した者がそれぞれ歩いている。
そんな草原のどこかに白く光る魔法陣が現れ、強い光を発して消えた。およそ8、9歳ぐらいの少年を残して。
黒髪黒目、少し黄色がかった肌、汚れ一つないが模様もない真っ白なローブだけを着て横たわっている。その幼い腕には辞書のようなものが大事に抱えられている…
「…。ここは…どこだ?」
目が覚めた。よく分からないが、体には傷も痛みも無く、土汚れすらついていなかった。意識ははっきりとしていて、でも少し前まではぼーっとしていたような気もする。
周りを見ても何も分からない。
どうしようもないので、取り敢えず寝っ転がったまま持っている本を読んでみる。
[ ~はじめに~
あなたは神によってこの世界に生まれました。何をするかは自由です。あなたがいる場所は比較的安全な魔物が多く、近くには町があります。まずはそこから生活基盤を整えるのが良いでしょう。
一般的な冒険者よりも高い能力で生まれましたが、今のあなたより強い者は多くいます。戦闘や生産活動などを通して、成長していけば彼らを軽く捻り潰すこともできるようになるでしょう。
この世界にはダンジョンという場所があります。そこには侵入者に敵対する魔物が多く存在し、また、魅力的な財宝も眠ります。能力が高くなったらそこに挑戦してみても良いでしょう。
ただ、あなたは死にますので注意してください。今のあなたは命を一つしか持ちません。命を大事にしてください。
それでは、頑張ってこの世界を生きてみてください。あなたがこの世界に多大な影響を与えるよう祈っています。
追記:この本には困ったときのヒントや人に聞きにくいことなどが載っています。ぜひ有効活用してください。]
そこには折りたたまれた紙も挟まっていた。
開いてみると、今の自分の位置とこの付近の地理が書かれていた。
最寄りの町はイニサル町と呼ぶらしく、このあたりは安定した気候で、魔物も弱いものが多いらしい。
イニサル町はここから滝が見える方向にあるらしい。
取りあえずイニサル町へ向かうことにした。
起き上がって、地図を頼りに町の方を見る。小さく建物が見える。
さて、歩こう。