初ミッション
「そ! 富める悪から恵まれない善良な者へと施しを与える素晴らしい職業でしょ!」
「いや、たしかにかっこいいかもだけれども」
俺は若干照れながらも、義賊という職業に少し興味が沸いた。
受付嬢から渡されたカタログスペックを見ると、どうやらメイン武器は短剣を使うらしい。
そして何より人口が少ない職業で、未発見のことが多いのもこの職業の特徴だ。
カタログスペック表をペラペラと捲っていると、ユニークスキルなる単語が出てきた。
一体ユニークスキルとはなんなんだ? 気になって、隣で賢者のカタログをペラペラと捲っているレイに質問を投げかけてみた。
「え? ユニークスキル知らないの? んーまあその職業にしかできない特別なスキルや魔法ってとこかしらね。
例えばだけど私の選ぼうとしている賢者では、十秒先の未来を知ることができるっていうものよ。ちなみにだけれど荷物運び
のユニークスキルは、収納できるスペースを増やすことができるってものね」
レイは少し小憎たらしい笑みを浮かべながら、ユニークスキルについての解説をしてくれた。
しかしこの少女は一体なんなのだろう。俺には義賊なる珍しい職業を勧めてきておいて、自分は賢者という優れた魔法使いなら
選びがちなものを選ぼうとする。それに荷物運びの補足説明も俺へのあてつけだろう。
小憎たらしいなと思いつつも、この少女がいなければ職業に関する知識は皆無に等しい。なので我慢するしかなかった。
しかし、義賊のユニークスキルの欄を覗くいて見るが「未確認」とだけ記されておりどんなものなのかを知ることはできなかった。
「この職業で大丈夫なのかな……」
俺は本当にこの職業を選んで大丈夫なのか徐々に不安になってきた。するとだ。
「さ、私はもう職業選んじゃったけど隣のSランク冒険者は何にするのかなー」
またレイという少女は俺を焚きつけるかのようなことを口走る。
「わかったよ! 義賊にすればいんだろ、これで決まりだ!」
俺は書き殴るように職業欄を義賊と埋めて、このレイという少女とパーティを組むこととなった。
「へへへ、よろしくね! リーダー!」
リーダー、そうか一応小さな寄り合い所帯と言えど、リーダーはリーダーだ。そう考えると途端に肩に力が入る。
「さてとリーダー、パーティ組んだことだしさっそくミッション受けに行かない?」
「え、いきなり? まだパーティ組んだばっかだぞ」
「えへへ実は私、素寒貧なの。だからミッションをクリアしてお金稼がないとなんだ」
マジかよ……と思い、自分のポケットに手を入れるがそこには文字通り一銭のお金もなかった。
しまった! そうだ俺もパーティを追放されたばかりで、素寒貧なのであった。
もしここで俺も実は素寒貧だということがバレたら、タダでさえ低い俺の株が更に下がってしまうではないか!
ここはさっそく初ミッションを受け、その報酬で仮にとはいえ部下に食い扶持を与えるのがリーダーとしての務めではないのか?
俺は自分の胸に手を当てて考えてみた。するとどうだろう、不思議と追放される直前の光景が蘇ってくる。
『すみません、ナユタさん。私も食い扶持が必要なので……』そうルリの言葉だ。
女一人食わせてやれなくて何がリーダーだ! 悔しさからか俄然とやる気が沸いてきた。
俺はレイの手のひらを握りしめ、こういい放つ。
「よし! 初ミッションさっそく挑戦しに行くぞ」
「おー! じゃあさっそくこれを受けよう」
そういってレイが差し出してきた任務はなんと、このギルドで受けることのできる最高難易度のものであった。
「は?」
「ん?」
どうしたのかと言わんばかりの笑みを浮かべ、俺の顔をマジマジと見つめてくる。
一瞬のすれ違いの後、ようやく時は動き出す。
「いや! いやいや。普通もうちょっと楽なミッションを受けて、それで少しずつ装備を強くしてから最高難易度ミッションを受けるでしょ!」
その返答を聞いて大きくはぁと溜息をつくレイ。
まるで俺の意見が浅はかなものと吐き捨てんばかりである。
俺の見間違いでなければ、パーティの要求水準はなんとAランク冒険者三百人と書いてあった。
流石にSランク冒険者といえどこちらの人数はたったの二人。
これをクリアできれば、少数精鋭というレベルではない。
いや、もしかするとだ。そう考えて俺はレイにこんな質問をぶつけてみた。
「なあもしかして、素寒貧だとしてもAランク冒険者を集められるだけの人脈があるとかの勝算があったりして?」
「ない」
彼女はそうきっぱりと答えた。
は? いやいや無理だ無理だと俺が考えているうちに、彼女はまた突飛な行動に出ていた。
なんと勝手にミッションを受諾していたのである。これは非常にマズイ!
どうマズイのかというとギルドの規約により、ミッションをキャンセルしてしまうと多額の違約金が発生する。
つまり俺は、行くも地獄戻るも地獄の八方塞がりへと陥ってしまったのである。
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