職業選択
俺はこのレイと名乗る銀髪の美少女が語る夢を呆気に取られて聞いていた。
世界を救う? 魔王を倒す? 俺が新世界の王? なんとも荒唐無稽な話だ。
……だが悪い話ではないように思えた。今までの日々は正直言ってゴミって感じであった。
それが今や新世界の王になってほしいと言われるまでの出世街道っぷりである。
俺は今目の前に舞い込んできた大きすぎる話に困惑し、何も言えず尻込みしているとレイは俺の顔をジーッと覗き込んできた。
「どうしたんだい? 私の話、もう一度最初から聞く?」
「いや、いい。ただ話が大きすぎてちょっとついていけないというか。それに君は本当にSランクの魔法使いなのか?」
「ああ、それを証明していないから話についていけていなかったのか。今からそれを証明してあげる。中に入ってきて」
俺は彼女に先導されるがままに、ギルドの受付嬢の前にまで連れて行かれた。
そういえばここは、ギルド役場前であったことを思い出す。
俺はものの数十秒後この少女の本当の実力を知ることとなった。
なんと彼女は、ストレングス以外のステータスが全てSの化け物冒険者であったのだ。
「ひいっ……!」
俺はそのステータス画面を覗いて、思わず声が漏れてしまう。
「何さ、別に怯えることないよ。私は至って善良な冒険者だよ、それに今現在は君のほうが強いよ」
そういって彼女が俺のステータス画面を指差した。
するとどうだろう、俺のステータスは魔力以外が全てSランクを指していた。
「グホッ」
思わず変な声が漏れてしまう程の驚きであったが、一つの疑問が沸いてきた。
「なあステータスを見る限り君と俺のステータスは、魔力とストレングスが入れ替わってるだけでどっちが強いとかはないんじゃないか?」
「君って言われるとちょっとよそよそしいなあ、レイでいいよ。君もしかして本当に自分の強さにまだ気がついてないの?」
「いんや……全く。それより君、いやレイ、職業の欄」
俺はいつの間にか彼女のペースに流されて、名前で呼んでしまっていた。
けれどそれよりも驚いたのが、彼女の職業が空白になっていたことである。
「ああ。パーティに所属していないからね、当然そこは空白になる。でもまあ私達ならどんな職業でも選び放題だけれどね」
先程の一方的な長話で忘れかけていたが、確かに彼女はパーティに所属していなさそうである。
まあパーティを追放された俺も、職業欄は空白なのでそれはお互い様だが。
しかし問題は俺たちが次に就く職業である。
今ならば勇者でも、剣士でも俺が本当に成りたかった職業に就けそうである。
間違っても荷物運びや雑用係なんてものは選んだりしない。
俺は生まれついての持たざる者であったが故に、何を選択すればいいのか迷いに迷っていた。
やはりこういった時は、誰に相談すべきか。そう考えて周りを見渡してみる。
相談できそうな相手は、今さっきステータスを診断してもらったこの受付嬢の人とレイくらいだ。
俺はまず最初に受付嬢に相談しようかと考えたが、辞めた。
どうせ俺のステータスを見て、勧めてくるのは「勇者」か「剣士」辺りが鉄板だろう。
その辺りで迷っているのだから、その辺りを勧められてもせっかく相談した意味がない。
ならばいっそこのレイに相談してみるのも一興かもしれない、俺は彼女の肩を叩いた。
「なあ」
「なに?」
「俺って何の職業に向いてるかな? やっぱり勇者?」
「ナユタが勇者?」
そういってレイは、今にも吹き出しそうなぐらい顔を膨らませ笑いを堪えた顔を浮かべる。
「おい、なんでそんな顔するんだよ」
「いや、元荷物運びが勇者ねえと思って。もしかして憧れてたの?」
「な!」
俺は何か言い返そうかと言葉を発しようとするが、頭が真っ白になって何も浮かばない。
確かに俺は無意識のうちに、勇者という存在に憧れていたのかもしれない。
そう考えると彼女の指摘は図星で、恥ずかしさがこみ上げてくる。
それを察してか、彼女はケラケラと嘲けりの込んだ笑いを俺に向けてくる。
「勇者は辞めときな。ナユタの柄にあっていないし、何よりも職業適性に合っていない」
「職業適性?」
初めて聞く単語に俺は戸惑いを隠せない。
「んーとね極々稀にだけど、ランクアップを果たす冒険者ってのが現れるのは知ってるよね?」
「ああ、まあな」
「それでだけど、上のランクにあがった時に転職する場合もあるわけだ。そしてここからが本題。転職する際に以前の職業の特性も反映されるんだ。
例えば前の職業が短剣使いならば、剣士に転職した場合は太刀を持っての二刀流の剣士になれるって具合にね」
「そうだったのか! で、俺におすすめの職業はなんなんだ?」
「そうだね。元荷物運びの君の職業適性がいい、世界を救える職業は……」
俺は固唾を飲んで聞いていた。
「義賊だね」
「義賊ぅ?」
感想、ブクマ、ポイント等いただけると大変励みになります。