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追放

「バベル!」

 金髪の女エリスが目を覚ましたバベルに駆け寄る。

「おお、エリス来てくれたのか」

「当たり前じゃない!」

 まったく起きてそうそうだというにこれだ。お熱いことで全く反吐が出る。

 俺は話を元に戻して、昨日二人で決闘を行った顛末を語った。

 すると案の定、エリスとバベルは激昂した。

「は? バベルがあんたに負けるなんてありえないんだから!」

「おい、本当のことを言えよ。どうせ何かインチキをしたんだろう?」

 本当のことを言えと言われても、俺はただ大衆店の裏メニューを頼んでそれを完食したそれだけだ。

 当然そのことを彼らに説明したとして、納得してくれるはずがないのはわかっていた。

 今まで散々馬鹿にして、コケにしてきた奴に負けたのだから認められないという気持ちはわかる。

 しかし、だからといって理不尽に責められるような覚えは俺にはない。

 そんな風に俺が二人に散々責められている時であった。

 黒髪でショートヘアの女魔法使いルリが、ボソボソとこんなことを言った。

「あの……あんまりナユタさんのことを責めるのもどうかと」

「あん? 俺が間違っているとでも言うのか?」

「いや……そうじゃなくて。ただなんというか可愛そうだなって」

 このルリという女は、先程の言動からも見て取れるように基本的には小心者だ。

 たまに俺の肩を持つようなことを言うが、本心は正直言ってわからない。


「じゃあこうしようぜ。ナユタがこのパーティに必要かどうかってのを手を挙げて決めるんだ。当然コイツに手を挙げる権利はない」

 何を言っているんだと俺は言いそうになった。

 バベルとエリスは俺のことをいらないと言うに決まっている、その時点で過半数が俺のパーティ追放を賛成するということになってしまう。

「おいおい、待ってくれよ。それじゃあ俺が不利すぎる」

「なんだ? 命乞いか、助けてくださいと言ってももう遅いぞ」

「いやそうじゃない。その提案自体は飲む。だけれど、全員が俺のパーティ追放に賛成ならパーティ追放という具合にしてくれないか?」

 さてこの提案を受けてバベルがどう出るかだ。

 彼は珍しく、頭を傾げて何やら考え込んだ後ニヤりと邪悪な笑みを浮かべた。

「確かにな。お前の言っていることも一理ある。お前の意見飲もう、じゃあさっそく聞くがコイツのパーティ追放に賛成なもの手を挙げてくれ」

 それに対しエリスは我先にと手を挙げた。ルリはというと、どうも煮え切らない態度だ。

 だが意外なことに、この提案をした本人であるバベル自体は手を挙げなかった。

 俺をそれは訝しむ。

「おい、俺の追放には賛成なんじゃないのか?」

「いやいや、俺はただ追放を提案しただけさ。別に追放賛成なんて一言も言っていないぞ?」

 ハハン、奴の意図が読めてきたぞ。

 きっと奴は他の二人が手を挙げた後建前上仕方なくという体裁を保ちながら、俺に止めを刺したいそんなことを考えているのだ。

 その証拠に今も物凄い形相で、ルリのことを睨みつけている。

 彼女はオロオロと動揺するばかりで、未だにイマイチ煮え切らない。

 それに業を煮やしたのかバベルは直接的な脅迫に出た。

「なあ、ルリ。俺がいなくなるのとアイツがいなくなるお前はどっちが困ると思う?」

「そ、それは……」

 元々が小心者の彼女である、こんなことを言われたならばひとたまりもない。

 モジモジとしながら、ゆっくりと手を挙げた。


 それを見て待ってましたかと言わんばかりに喜びの笑みを浮かべるバベルと、エリス。

「よーし、これで決まりだな。俺もこいつの追放には賛成だ。ということで満場一致で追放だ」

「お、おいちょっと待てよ。さっきのは脅迫だろ」

「ああん? いいからさっさと出ていけよ偽Sランクの荷物運びさん」

 そう言って彼は侮蔑の表情を浮かべ、俺のことをシッシと追い出す仕草をする。

「お、おい。みんなはどう思ってるんだ! 正直なことを言ってくれ」

「私は全然あんたのこと必要と思っていないわ」

 そう即答するエリス。対してルリはまたモゴモゴとして口ごもる。

「ハハハ、随分と往生際が悪いな。なあルリ早く言ってやれよこいつのこと要らないってはっきりとな」

「あの……私は」

 頼む言わないでくれ、俺は心の中で小さくそう願った。

 まだ追放に賛成という件についてはいい。実際に俺は大して役に立っていなかったし、半ば脅迫されて手を挙げたようなものだからだ。

 だが、ハッキリと要らないと口に出されたらもうそれは自分としても許せない相手になってしまうかもしれない。

 その俺の思いとは裏腹に、バベルはルリの首に腕を絡ませ「要らないと言え」と脅迫を続ける。

 間もなく彼女は折れて俺にこういい放った。

「すみません、ナユタさん。私も食い扶持が必要なので……」

「ハハハ、おい聞いたか。お前のこと頼りにならない男だってよ! やっぱこの世界で物を言うのはステータスと職業! Fランクの荷物運びなんざ

お呼びじゃないんだよ」

 バベルは俺のことを執拗に貶した。

 そう言われた次の瞬間俺の中で何かが切れた。

「ああ、そうかい。じゃあ出ていくよ」

「おう、出ていけ出ていけ」

 俺はバベルの宿泊する部屋から飛び出していった。

 その時に、ルリが何か小声で何かを言った気がしたが俺の耳にはなにも届かなかった。

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