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身躱しの術

「おいおいお前タンク職なんだろ? なんで攻撃を躱しちまうのさ」

「だから私、役立たずなの」

 そう言って奴隷の少女は、ゴホゴホと咳き込んで横たわってしまった。

 このように話の流れまでスルーされてしまうと、原因の追求のしようがないのだがここは強い

言葉を使うと余計に心を閉ざしてしまいかねない。

 兎にも角にもこの娘がSランク冒険者だけれど、攻撃を躱してしまうタンク職という言葉を信じるの

であればSランク冒険者という逸材であることに違いはない。

 その逸材を簡単に切り捨ててしまうのは、賞味期限切れギリギリのパンを捨ててしまうよりも勿体ない。

 俺はとりあえずその話が本当なのかを確かめるため、一度決闘をさせてくれないかと奴隷商に頼んだ。

 すると意外なことに奴隷商は、大丈夫だと快諾してくれた。

 ただし、決闘をする前に怪我を負わせないという約束状を書かされたが。


 俺達は外の広場へと出ると、さっそく奴隷の少女と決闘を始めた。

 奴隷の少女は一応前衛守備職らしく盾と片手剣を構えているが、それがどれほどの実力かは試してみないとわからない。

 俺は試しに軽く斬撃を放ってみた。

 この程度の斬撃ならば、軽く持っている盾でいなすことができるはずだ。

 そう睨んだが、彼女は斬撃を盾で受け止めるのではなく身を翻すことで、攻撃を受け流したのであった。

「おいおい、このぐらいの攻撃その盾で防げるだろうに」

 俺は呆れた様子で奴隷の少女に語りかけるが、少女はモジモジと小さい言葉でこう呟く。

「できないんです」

「え?」

「やろうと思っても勝手に体が動いちゃって。それで、盾で防御しようと思ってもできないんです」

 なんということだ。ここまで臆病なタンク職がいたものかと俺は呆れた顔を浮かべる。

 ルリも同様で、これはダメだといった面持ちだが、レイは少し違った。

「ねえナユタの本気の斬撃を放ってみてよ。そうすれば、盾で受け止めざるをえないかも」

 俺は確かにそれは一理あると思い、本気の斬撃を放つため集中力を増す動きをした。

 それを見て、奴隷の少女はあたふたとし困り顔を浮かべる。

 正直言って俺も本気の一撃を放ったことはない。

 それをこの少女はどう対処するのか見てみたいその気持ちの方が強かった。

「行くぞ!」

 その言葉の次の瞬間には、予備動作もなく本気の斬撃が放たれる。

 この攻撃はまだ、誰にも放ったことがない。

 おそらくスピードだけならこの世界を見渡しても、躱しきれる者がいるのか検討がつかないぐらい溜めを行っての斬撃だ。

 本気の斬撃は、奴隷の少女がいた辺り一面をデコボコにする程大きな衝撃を与えた。

 彼女がどうなったのかは、砂埃が立ってそれがやむまでは状況を伺うことはできなかった。

 ──砂埃が落ち着いた。正直あの攻撃を受けて彼女が無事なのかは保証することができなかった。

 だが、彼女は無事であった。

 最初は彼女が、俺の放った本気の斬撃を盾で受け止めたのかと思った。

 だが彼女は、また攻撃を受け止めるのではなく躱すことでいなしたのであった。


 俺はこの結末に正直言って拍子抜けしてしまった。

 たしかに俺の本気の斬撃を躱したことは驚異であったが、それはタンク職に求められていることではない。

 俺の本気の斬撃を受けきり、パーティメンバーを守れる。そんな屈強さを求めているのだ。

 俺は落胆し、約束通り奴隷の少女を傷つけなかったのだからそのまま返そうとした時であった。

「お客様、その商品は残念ながら返品がききません」

「は? どういうことだよ、服の試着と同じだろ?」

「いえ、先程の約束状をもう一度よくお読みください」

 俺は手渡された約束状をもう一度隅々まで細かくチェックした。

 すると物凄く小さな文字で、決闘を行った場合返品は致しかねますと書かれてあったのだ。

 嵌められた。俺はタンク職としては役に立たないSランク冒険者を引き取ることとなってしまった。

 こうなるともう向こうの言い分を飲むしかない。

 俺は仕方なくではあるが、奴隷の少女を購入することとした。

「いくらだ? この娘」

「はい、金貨三枚でございます」

 金貨三枚とは大金だ。勿論本当にSランク冒険者を購入できるのであれば、これ程破格の買い物はないのだが彼女は曰く付きの

Sランク冒険者だ。

 しかし引き取ってしまったからにはしょうがない、仲間として迎え入れることとした。

「まあ、話の流れはグチャグチャだが君も俺達の仲間だ。名前を教えてくれないか?」

「サーシャ」

 サーシャ、それが奴隷の少女の名前であった。

お読みくださいいただきありがとうございます。

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