裏メニューの正体
俺は朝目覚めると、昨日起きたことの整理を始めた。
確か昨日は死ぬほど奴にコキ使われて、その後店主の店で裏メニューを食べさせて貰って、そんでその後奴を一発でのして……。
一つ一つ噛み砕いていくが、疑問に思うことはやはりひとつ。
なぜ俺がいきなりこんな強くなったのかということだ。
やはりあの裏メニューに謎の正体があるのではないか? そう考えて俺は、店主の店へと向かった。
「大将! いるか?」
俺は開店してそうそうの、朝食時という時間に店へと押しかけた。
すると店主は大欠伸を浮かべながら、ノソノソと店の奥から出てきた。
俺はそんな間の抜けた対応をする店主をよそに、早口で捲し立てた。
「おいおい、店主どういうことだよ。あの裏メニューには何があるんだよ」
裏メニューという単語が出てきた次の瞬間、店主の顔はいきなりキリッと覚醒し、店の奥へと押し込んで小声で話しを始めた。
「ちょっと、裏メニューのことはみんなには内緒なんだ、黙っておいてくれよ。それに何があっても大丈夫だって言ったのはあんちゃんだろ?」
「確かに何があっても大丈夫だとは言ったけれど、事情ぐらい話してくれてもいいんじゃないのか」
「わかったよ」
そう言って店主は、バツが悪そうに話し始めた。
どうやら店主曰く、あの裏メニューを始めたのは俺が来るちょうど前日からだったそうだ。
夢の中に神様が現れて、「最初に腹を空かせた若者にこの料理を作ってあげなさい」と言ったそうだ。
そうして目が覚めると、枕元にあの裏メニューを作るのに必要なレシピと材料が置いてあったという次第だそうだ。
俺はその説明を聞いて「ハハハ」と乾いた笑いを浮かべた。
そうか、そうか。裏メニュー、Sランクと来て今度は神様か。
俺はその説明を受けた次の瞬間、思いっきり自分の頬を摘んだ。
「イテテテ」
夢じゃない! 俺はそのことにまた一層驚いた。
俺は今の今まで起きたことがすべて夢だったのではないか? ということを真っ先に疑った。
だがこの感触は間違いなく現実のものだ!
俺は小躍りをして、自分がSランク冒険者になったという事実を噛み締めた。
「大将! 俺Sランク冒険者になったんだよ」
「へー、え!? マジで? 本当にSランク冒険者になったのか?」
「本当だよ本当。大将が作ってくれた裏メニューを食べたらSランク冒険者になってたんだよ!」
「おー、まじか! そいつはすげえな」
だが次の瞬間、俺にある疑問が浮かんだ。
「なあ大将、あの裏メニューってまだ作れるのか?」
「いや、無理だ。レシピは残ってるが、材料が特別なもので市場をどこを探しても見つからねえ」
その言葉を聞いてホッと胸を撫で下ろす俺がいた。
もしこの裏メニューを別の人が、頼むことができたら俺以外にもSランク冒険者が簡単に生まれてしまうからだ。
そうなると途端にSランクの価値は落ちてしまう。
それに元々オールFランクの俺ですら、Sランクになれてしまったのだ。
もし才能に恵まれた、例えばバベルのような者が裏メニューを食べたらどうなるのだろうか?
そう考えただけで俺は身震いをした。
バベルのことを考えて、俺はあることを思い出した。
そうだ、奴を俺は一撃でノシてしまって以来、彼の元へ尋ねていない。
もしかすると、あのまま一生起き上がってこないかもしれない。
そう考えると俺は身震いし、彼の元へと一目散に走っていった。
★
彼の眠る一等室へと着いた。すると彼は、何やら独り言をブツクサと呟きながらうなされていた。
「俺はAランクだ……あんな奴よりも強いんだ」
どうやら彼は 昨日のことを未だに引きずっているようである。
とりあえずは意識があることに俺は安堵した。
「なんだよ……心配させやがって」
俺にとってこいつは嫌な奴でしかないが、これでも一応旅をしてきた仲である。
なんだかんだ今まで俺を養ってくれていた奴でもあるし、今は俺の方が強いという精神的な余裕もある。
その余裕からか俺は、こいつを憐れむことができた。
そんな時であった、トントンと扉をノックする音が聞こえた後なだれ込むかのように二人の美女がやってきた。
こいつが囲っている、いやパーティを組んでいる魔法使い二人組みだ。
この二人は、バベルのお気に入りで庇護を受けながらそこそこ程度の実力で、魔物退治を行っているいわば寄生虫だ。
おそらく寄生主が意識不明と聞いて、駆けつけてきたのであろう。なんとも浅ましい連中だ。
「バベル! 大丈夫?」
意識のないバベルの体を揺さぶって起こそうとしている金髪の女は、エリスという名前だ。
彼女は俺のことを見ると、蝿の如く嫌がり煙たがってくる。
そしてなによりも、バベル一番のお気に入りの女だ。
そんなお気に入りの女の声に反応してか、バベルは遂に目を覚ました。
「ん……? ここはどこだ」
そうしてここからが俺にとっての修羅場の始まりであった。
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