追放勇者のユニークスキル『魅了』
「カカカカッ……!」
追放勇者バベルは、またもや勝ち誇ったような笑い声をあげる。
その様はなんとも獣的で、もうすっかり魔のものの虜になってしまっているようで醜悪だ。
しかし、これからどうやってこの不利な状況を打開しようというのであろう。
俺の短剣を握る手は、少し汗ばんでしまう。
「ナユタァ、お前には俺のユニークスキルを見せてなかったもんなあ? だからお前は負けるんだよぉ!」
「ユニークスキル? それならさっきお前が見せたじゃないか!」
「ケケケ。違う。違う。俺の勇者時代のユニークスキルだよ。俺は勇者時代のユニークスキルも使えるんだよ!」
「なんだって!」
まさかのユニークスキル二個持ちとは。これは予想していなかった事態だ。しかし、俺に隠していたユニークスキルとは一体なんなのだろう。
「勇者バベルのスキル発動『魅了!』」
そう言うとバベルは、レイの方を向いて妖しげな瞳を光らせて誘惑を始めた。
「すまない、ナユタ。私が油断したせいで……」
「ケケケ、これが荷物運びと勇者様の格の違いってやつだよ!」
何が起きている? まさか無理矢理味方に使役しようとするスキルなのか?
俺は混乱に陥るが、その答えはすぐに出た。
「賢者レイが命じる彼のものを焼き払え『クロスフレイム!』」
レイが俺に向かって攻撃を仕掛けてきたのだ。俺をパートナーだと言ってくれたあのレイがだ。
おそらくスキルで無理矢理使役させられているのであろう、なんとも卑怯な勇者がいたものだとむかっ腹が立つ。
俺はレイの放った攻撃を避けつつ、本体であるバベルに打撃をいれようと試みるが、流石にSランク冒険者同士の戦いの途中にバベルに
攻撃を仕掛けるのはキツイ。
かろうじて放った俺の数発の攻撃は虚しく躱され、ただ空を斬るのみであった。
しかしどうしてレイにだけこのスキルを発動することが出来たのであろう? 俺の頭に疑問符が浮かぶ。
──もしかするとだ。考えたくはないが、奴にこき使われていた時代実はやつにこのスキルを使われていて、無理矢理言うことを聞かされていたのかもしれない。
そう考えると、また腹が煮えくり返ってきそうになり攻撃の手が激しくなる。
「ケケケ、どうした、どうした? 攻撃の激しさの割には、精度に欠くようだな」
そういってバベルは俺のことを挑発し、余計に冷静さを失わせようと試みてくる。
レイはというと、さっきからスキルに抗おうと強い意思で跳ねつけようとするも、やはりこの世界の理には逆らえず俺に攻撃を繰り返してきてくる。
このままでは、俺とレイは潰し合いを始めその隙にバベルは体力を回復。全滅ということもありえるかもしれない。
想像以上に厄介な敵だと今更になって俺は後悔を始めた。
──確かにこれならアマタがやられてもしょうがないかもしれない。
今なら俺だけ撤退することもできるだろうが、それだとレイやルリは確実に奴の餌食になってしまう。
クソッ! どうしたらいいというんだ。俺は必死に頭を回転させるが、答えは見つからない。
このままレイと無駄な消耗戦を繰り広げていると、回復中のバベルが元通りとなり俺に襲いかかってくるだろう。
「ケケケ、ナユタァッ! 後もう少しだ。後もう少しお仲間と戦っていてくれよ? そうすりゃあ俺のこの傷も元通りだ」
そう言った直後であった。回復中のはずの彼の身体から胴と首が二つに分離し、ボトリと首が落ちる音がしたのは。
俺は一瞬わけがわからず奴の新形態か!? と警戒したが、どうやら違うようであった。
「よかった。なんとか間に合ったようだね、ナユタ」
「アマタ!」
なんとアマタがこの土壇場に駆けつけてくれたようであった。
しかも、奴の硬い首を切断し、一瞬にして胴と切り離すだけの剣の技量。相当なものと見て取れる。
「馬鹿な! お前は俺が殺したはず」
「実は生きてたんだよ。ナユタに助けられたんだ。だからそのお返しに来た」
奴の生命力が大幅に失われたおかげか、レイへのスキルも解除されたらしい。
レイはすかさずバベルの胴を焼き払った。
「グアアアッ!」
四肢どころか首だけの醜い化物となってしまったバベルには憐れみすら覚えたが、今は憎しみの方が勝る。
「嘘だろ……? 俺が消滅する……? 馬鹿なァッ!」
そう言った直後奴の周りを暗闇が包み、その後には守護者の鍵が残されていた。
これだけ苦戦はしたが俺達の勝利だ! 俺は数十秒間気が抜けていたが、無事を確認するとガッツポーズを掲げ喜びの歓声をあげた。
「やったー!」
これで元仲間であり、宿敵であるバベルを討つことができた。そしてついでに鍵も手に入れることができた。
俺は残された鍵を拾い上げ、アマタへと手渡した。
「……ん? どういうこと?」
「お前の助けがなかったら俺達は負けていた。とにかく今回のところはお前の手柄だ」
「……きっとその選択後悔することになるよ」
そう言い残してアマタは帰還魔法を使い、どこかへと消えていってしまった。
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