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もう遅い

「ハハハ、ぼくの攻撃が効いてない? 強がりもいい加減にしなよ!」

 元王子は半クリーチャーと化した顔面を歪ませ、けたたましく叫ぶ。

 奴が叫び、気持ちを昂ぶらせる度にクリーチャー化が進んでいくのが見てとれた。

 そしてクリーチャー化が進んでいくにつれ、更に攻撃の速度と威力が増していった。

 だがこれでいい。これが俺の狙いだ。

 俺が奴の攻撃をいなし続けている間にも、奴はどんどんとクリーチャー化が進んでいく。

 そうこのクリーチャー化こそが俺の狙いなのだ。

 ライアンの例をとってみてもわかるが、クリーチャー化が進むと単純なパターン攻撃を繰り出すだけの

まさしく魔物といった戦いしかしてこなくなる。

 それに奴の攻撃は、守護者ライアンよりも弱い。

 となると打開策は自ずと見えてくる。

 そう、奴が攻撃を仕掛けてきた時だけは回避行動がどうしても遅れるはずだ。

 その時を狙って反撃だ! 俺は一度攻撃を受ける覚悟で、待ち構えた。

 奴が俺の脇腹めがけて、ドロップキックを決めようとした時俺は反撃に出た。

 今までならガードを決めて、致命傷を負わないような戦い方をしていたが今回は違う。

 一転攻勢に出て、短剣を前へと突き出した!

 それには奴も、想定外だったようで思わず身を捻った。

 俺の突き出した短剣は、奴の体を直接抉ることはなかったが真空波が命中した。

 対して俺は、軌道がそれたとはいえドロップキックを横っ腹にかするダメージを受けた。

 流石にほぼクリーチャーと化した、魔物の直接攻撃を受けた痛みは鋭い刃物で刺されるような感触であったがなんてことはない。

 これぐらいなら荷物運び時代に受けた虐待で追った痛みと比べれば、大したことなど無い。

 対して元王子だった奴は、俺の真空波を浴びて派手に吹っ飛び痛みでのたうち回っている。

 一瞬の隙が勝敗を決する戦いにおいて、相手さんはペースを乱した。


 あとは連続で攻撃を叩き込めばゲームセットだ。そう考えていた時であった。

「キャーッ!」

 なんだ? 何が起きた? 

 何が起きたかわかった時、俺は相手と自身という二人のことだけに気を取られすぎていることを悔いた。

 ──ルリだ。 周りで別のクリーチャーと戦っていたルリが、奴に捕まってしまっていた。

「ルリ!」

「ぼくもちょっと油断しちゃったけれど、お前も油断したようだな。 ぼくはお前に負けたよ。ただコイツも道連れにして負ける!」

 そう言って奴は彼女の胴に、思い切り力を込めて殴打を食らわせた。

 信じられないことが起きていた。 ルリの腹から向こう側が見える。

 腕が貫通し、すっぽりと大きな穴が開いてしまったのだ。

「ハハハ、どうだ! お前の心は完全に壊した。ぼくの勝ちだ!」

 奴は下卑た笑いを浮かべ、顔や体は彼の心を映し出したかの如く完全にクリーチャーと化していた。

「クッソー!」

 今の奴を制圧することは簡単だ。滅多打ちにすれば、それだけで倒すことができる。

 ただそれだとルリが死んでしまう。

 しかし、このまま手当てを行わなければやっぱりルリは死んでしまう。

 一体どうすればいいんだ? クソ! 完全に俺のミスだ。俺がさっさと奴を倒していれば、こんなことは起こり得なかった。

 いっそのことルリに攻撃が当たらないことを願って、真空波の滅多打ちを行おうか?

 そんな考えが一瞬頭を過ぎり、彼女の顔を見つめる。

 すると掠れるような小声で必死に「やっちゃって」と訴えかけてることがあ見て取れた。

 クソ! そんなこと俺にはできない。

 どうにか状況を打開できないか考えを巡らせる。

 しかし、咄嗟にそんな上手い策など浮かぶはずなどない。

 何が世界を救う義賊だ。目の前の女の子一人救えないではないか。

 そう考えた時であった。

『そ! 富める悪から恵まれない善良な者へと施しを与える素晴らしい職業でしょ!』

 なぜだか、レイの義賊に対する最初の説明が頭に浮かんだ。

 そうだ! ユニークスキルだ。ユニークスキルを使えば、もしかしたら今の状況を打開できるかもしれない。

「ユニークスキル発動!」

 俺はユニークスキルを発動した瞬間、奴の体が朽ちていきルリのすっぽりと開いた胴の穴がみるみる治癒していった。

「ば、馬鹿な。ぼくの……負け?」

「ああ、お前の負けだ」

 そういって動かなくなった彼の首を刎ね、胴を八つ裂きにした。

「大丈夫か、ルリ!」

「だ、大丈夫です」

 そう言った後気が抜けたのか、ルリは気絶してしまった。

「フレイムギア!」

 どうやら、廊下に大量にいたクリーチャーの大群もレイの先程の攻撃で片付いたようだ。

 そして俺はようやく、バベルの元へ駆け寄ることができた。

 バベルは四肢を切断されてもなお生きながらえていた。

 流石はAランク冒険者だ。しかし、一刻もはやく治癒魔法を使わなければ彼は死ぬだろう。

「ユニークスキル発動!」

 俺がそう唱えるも、スキルは発動しなかった。

「ユニークスキルは一日に一回しか発動できないの」

 レイは悲しげな表情を浮かべ、そう言った。

「マジかよ……じゃあレイ治癒魔法を使ってやってくれ」

「ごめんなさい、もう何度も治癒魔法を唱えているんだけれど……」

 そう言ってレイは泣き崩れた。

 Sランク冒険者の治癒魔法と言えど、流石に四肢を削がれた上致命傷をいくつも負った者は治せないらしい。

 するとバベルは、最期を察したのかこんなことを言い出した。

「なあ、ナユタ。謝らせてくれ」

「もう遅い」

「せめてお前が、俺のパーティに戻ってから死にたい。俺も世界を救う義賊になりたいんだ」

「もう遅い」

 バベルが何を言ってももう遅かった。

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