ダンジョン突入
「え?」
俺はよく言葉の意味がのみこめず、聞き返した。
「いや、だって……よく考えてみてください。バベルさんがナユタさんにしてきたことを」
そう言われて、俺がバベルから受けた仕打ちの数々を思い返してみた。
ある時は、荷物運びが遅いという理由で理不尽に殴られ、とある時は積荷が破損している
という理由で、その日の夕食は抜きにされたこともある。
よくよく考えると、ろくな目にあっていないなと自分で思い返してみても思う。
しかし、それが彼女の投げかけた質問とは微妙に噛み合わずにいた。
それを察してか、ルリは言葉を続ける。
「もう。はっきりと言いますよ? 正直言ってあんな酷い仕打ちをしたかつての仲間と言えるかも
わからない人をどうして助けにいく必要性があるんですか!」
そう言われてみて俺は、ハッとした。確かに俺がバベルを助けにいく義理など全くない。
でもどうしてか俺は今バベルを助けに行こうと必死になっている。
その様子を見てクスクスとレイが笑い声をあげた。
「アハハ、やっぱり私が見込んだパートナーだけあるね。損得勘定抜きで、人を助けるためなら急発進しちゃう。
それでこそ世界を救う義賊ってもんだよ」
「それは褒めてるのか……?」
「さあ?どうだろうね」
レイは不敵な笑みを浮かべるばかりで、彼女の意図を推し量ることは難しい。
だが、彼女の言う通り世界を救うという目標に小さくではあるが、一歩前進できていることに間違いはない。
「ルリ、確かに俺がバベルを助ける道理はないのかもしれない。けどなぜだか知らないが、俺は憎たらしいあいつを助けたいんだ」
「ナユタさん……大馬鹿ですね!」
そう言ったルリの顔は、少し小馬鹿にしたものであったが嬉しそうにも見えた。
とにかく俺は、バベルを助けに行く。もう決めたことだ、後退りはしない。
そんなことを考えているとだ。
「さあて、そろそろ目的地に着くわよ、衝撃に備えて」
レイがそう言った数秒後であった、俺達は地上から数メートル真上の虚空に放り投げられた。
レイとルリは流石に何度もテレポートを使って、移動をしているだけあってうまく着地することができた。
しかし、俺は元々荷物運びとして冒険者をやっていたため、テレポートの経験があまりない。
そのため着地がうまく行かず、思いっきり尻もちをついてしまった。
「アイタタタ……」
「もう。しっかりして」
「大丈夫ですか?」
こんな情けない醜態を晒してしまったが、とにかく俺たちは城付近の山に辿り着くことができた。
山からは今回のダンジョンとなる、城が覗いて見ることができその堅牢さを静かに物語っていた。
俺はこの城をどうやって攻略するか静かに考え出した。
(やはり前回みたく伝令に化けて本丸に一直線が最短ルートか? でもあの方法が何度も通用するとは思えない。それに……)
それにだ。今回本当に考えるべきは、この城を俺がどうやって攻略するかではない。バベルがどうやって攻略するかだ。
当然ダンジョンは攻略したい。だが、今回の目的の大部分はバベル救出が主だ。
ならば、まずは一旦バベルの痕跡を追うのが先であろう。
俺は義賊のスキル【利き鼻】を使って、バベルの位置を探索した。
「あっちだ!」
俺は東門を指差して叫んだ。
東門は、山と隣接しており崖から飛び降りれば、一気に中へと侵入できるような作りとなっていた。
それによく見れば東門の上だけ、やけに門の損傷が激しく戦闘が行われていたことが伺える。
バベルは行くとなれば、一直線で物事に進むタイプだ。
その性格から考えてもまず東門で大暴れしたと考えて間違いないだろう。
「よし! 行くぞ!」
「わかった!」
そう言って俺に続いてレイとルリは、崖を駆け下りて東門へとダイブした。
流石は百戦錬磨の冒険者といったところだ。崖から駆け下りるのに、何の躊躇いもなく要領もいい。
俺たち三人は、東門へと無事着地に成功した。
すかさず周りを見渡すが、クリーチャーの姿はない。
おそらくはバベル達が全て片付けてしまったのであろう。
これはなおさら都合がいい。
俺は東門から城内へと侵入した。
城内に入ると、そこでまず感じたのは物凄い魔力の圧だ。
禍々しいオーラというものがこれでもかと言わんばかりに出てしまっている。
このことからも今いる場所は、決して人が住んでいるような場所ではなく魔物が棲み着く魔窟なのだと思い知らされる。
そして次に感じるのは、バベルの残した臭いの痕跡だ。
しかもこの臭い……血の臭いだ!
「まずい、バベルがやられているかもしれない」
俺はそう言い放ち、長い回廊のような廊下を曲がった。
そうして曲がった廊下の先で俺達は、再会したのであった。
「バベル!」
「ナ、ナユタ……?」
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