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遥かなる統一を夢見て ~少年少女は平和への夢を見る~  作者: 佐藤哲太
少年は想いのために命を懸ける
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少年は想いのために命を懸ける4

 クウェイラートの一撃を受け、床に倒れ伏せたゼロは自分の意識が薄れゆくのを感じていた。

――ああ、痛ぇな……。俺、死ぬのかな……。

 戦場で傷を負ったことは今までも何度もあるが、今食らった一撃はそのどれよりも痛かった。

『こんなところで、死んでいいの?』

 薄れゆく意識のゼロへ、誰かが語りかける。ぼんやりと彼の意識に現れた声の主は、切れ長な眼差しの、美しい黒髪の女性だった。その声は、聞いたことのある、聞き馴染みのある声だった。

『貴方はまだ、約束を果たしてないでしょう?』

――やく、そく……?

『そう、今貴方を救ってくれた、胸ポケットの中の約束』

――胸ポケットの、なか……?

 気を失った方が楽だと思うほどの激痛に耐えながら、なんとか右手を動かし、自分の左胸に触れる。とめどなく流れる自分の生暖かい血液とともに、彼の右手が何か固いものに触れた。

――あ……ピアス……。

 薄れかけた意識が、少しだけ戻ってくる。

 彼が触れたのは、左の内ポケットにいれていた、ユフィにあげようとして一度は断られた小さな箱。その中には彼女に渡すはずのピアスが入っている。ちゃんと渡して、と怒られた、大切な約束。

『それ、あの子に渡すんでしょう? なら、勝たないと』

 意識の中で倒れたゼロを見下ろしてくる女性の声には、焦りや不安などは一切感じられなかった。ただ淡々と事実を告げるような、そんな口調だった。

『でも、受け取ってもらえなかったのが幸いだったかもね。その箱があの攻撃の軌道を少しだけずらしてくれた。そうじゃなかったら、たぶんもう死んでいたわ』

 その箱は、心臓を貫かんとしてしたクウェイラートの一撃を僅かにそらし、ゼロを即死から救ってくれていた。もしあの時ユフィが受け取っていたら、別なポケットにいれていたら、起きなかった奇跡。

『あの子が守ってくれたのかもしれないわね。そんな子を、泣かせたままでいいの?』

――ユフィ……泣いてる……?

 言われるがままに耳に意識を向けると、ぼんやりとゼロの大切な人の声が耳に届く。その声は悲しみに溢れているように聞こえた。

『大丈夫。貴方ならできる。ゼロと私なら、まだ戦える』

 ゼロの意識がはっきりとしていくにつれて、意識の中の女性の声も、少しずつ感情を帯びていく。幼い頃からずっと一緒に育ってきた相棒は、もし人間だとしたら今ゼロの意識の中に現れた女性のような姿をしているのだろう。

 彼女は、アノンはゼロが倒れてなお、勝利を諦めていない。

『立ちなさいゼロ。立って、戦って、あの子を守りなさい!』

 厳しい顔つきで、意識の中の女性がそう言い放つ。その眼差しは、ゼロに力を与える。

――我が相棒ながら、無茶を言うぜ……。

 だが、その無茶な要求がゼロを奮い立たせる。

 わずかに、床に倒れ伏せるゼロの口元に、笑みが浮かぶ。

――俺が……ユフィを守るって、決めたんだもんな……。

 クウェイラートの一撃で受けた傷は間違いなく重傷だ。

 だが、それは辛うじて致命傷ではない。

――俺が……ユフィを……守るんだ……!!

『そうだ! 私たちは、まだ戦える!』

 諦めそうになった自分を恥じる。

 絶対に勝つと誓った自分を思い出す。

 彼女とともに描きたい未来が、ゼロの身体に動かした。

 動かそうとする身体の痛みと出血量に気を失いそうになるが、ゼロは無理矢理に自分を奮い立たせる。

――俺は……! こんなとこで死なない……!!

 その決意の瞬間、ゼロの中に魔力が溢れる。死の淵まで追いやられた絶望と、そこから立ち直り、まだ戦うと決意した思いが、彼の魔力量を増大させた。

「うおおおおおお!!!」

 全身を駆け巡る魔力は、死にかけのゼロに制御できるものではないように感じられたが、そんなことは今の彼にとって関係なかった。

「いくぞ! アノン!!」

『任せろ!!』

 目の前の敵を倒し、大切な人を守る。

 彼の胸にあるのは、その決意一つ。

 自分とともに歩んできた主を、ただ信じる。

 彼女の思いはその一つ。

「ゼロ!?」

 立ち上がったゼロに気づき、悲しみに泣きじゃくっていたユフィの声に喜びの色が混ざる。

「馬、馬鹿な! なぜ立てる!?」

 明らかに心臓を貫き、致命傷を与えたはずの相手が立ち上がったことに、クウェイラートの表情に焦りの色が浮かぶ。もし心臓をずれていたとしても、あれほどの血を流して動けるなど、クウェイラートの常識では考えられなかった。

「汚い手で!! ユフィに触れるなぁぁあああ!!!

 決意と怒りとともに、ゼロが全魔力を解放する。

 膨大な魔力を受けゼロの身体が光輝いたと思うと、ゼロの周囲に無数の不思議な光の壁が漂い出した。

「嘘……アノン、さん?」

 瀕死の重傷から起き上がったゼロの動きは、とても死にかけていたとは思えないものだった。その彼が起き上がったことに喜びつつも驚いたが、それ以上に彼の周囲に浮かぶ光の壁に、ユフィは驚いていた。

『すごい……』

 その神々しいまでの輝きを、ユフィもユンティも茫然と眺めるしかできなかった。

 ゼロの周囲に漂う光の壁は、おそらく彼の魔力を受けて変化したアノンだろう。たしかにアノンはエンダンシーの中でも稀有な万能型で、時に剣となり盾となる。だが彼女の知る限り、エンダンシーは一つの物質に人格が宿っているものであり、人格が分裂できないように、エンダンシーは複数の物質には成り得ない。

 だが、今目の前の光景はユフィの常識を覆していた。

 ゼロに襲いかかる傀儡たちの攻撃を防ぐ光の壁。それはまるで意思を持つかのように、傀儡たちの振り下ろす剣を正確に防いでいた。それも、同時に迫る複数の攻撃に対して、だ。

 そして防ぐと同時に、別な光の壁が、白刃と姿を変え傀儡たちへ突き刺さる。

 ゼロ自身は真っすぐにクウェイラートに向かってきており、彼が傀儡を相手取る様子はない。

「な、なんだというのだ!?」

 カナン大陸にはない魔法を用いて、リトゥルム王国の騎士たちの常識にない攻撃を仕掛け続けてきたクウェイラートが、今度は自身の理解を超えた事態に困惑の表情を浮かべる。

 彼に迫りくるゼロのエンダンシーは、明らかに自律的な動きを見せているのだ。その本体は間違いなくゼロの右手に握られた剣なのだろうが、ゼロ自身からも、彼が握る剣からも圧倒的な魔力が発せられていた。

 攻防一体、完全無比なその戦闘力にクウェイラートは恐怖した。

「クウェイラートおおおお!!!!」

 自分を助けに来てくれたゼロが放つ魔力は、恐ろしかった。その魔力から感じられるのは圧倒的な力と殺意。

「ダメ……」

 まるで彼が彼でなくなってしまうのではないか、迫るゼロを見つめるユフィの胸に、一気に膨大な不安が押し寄せた。

「ダメ……! ゼロ……!」

 大好きなはずの彼は、怒りに満ちた表情を浮かべていた。

 その光景を、ユフィは涙を流しながら、茫然と眺めるしかできなかった。





次話に続きます。

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