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遥かなる統一を夢見て ~少年少女は平和への夢を見る~  作者: 佐藤哲太
少女たちは平和へ手を伸ばす
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少女たちは平和へ手を伸ばす2

「……ビンゴっすね……」

 演台に登場したのは、冷たい目をした黒髪の美少女だった。美しい純白の法衣も、少女の美しさを引き立てる存在でしかない。法皇を初めて目にした人々は歓声を上げつつ、その姿を拝見出来たことに涙を流す者もいるようだった。

 だが、ゼロたちは彼らのような感動を浮かべない。昨日のアーファの予測の一部が的中したこと、先日から各地で彼女の姿を目撃していた事実が、不安を胸に広げていく。

 間違いなく、演台中央に立つ少女は昨日宝飾品店で薄緑の法衣を纏っていた少女に違いない。

 歓声を上げ続ける人々へ、法皇は右手を挙げて静止の合図をする。

 一瞬にして広場に静寂が広まるのは、見事の一言だった。

 広場を囲む皇国魔導団400名、演台の下に控える皇国軍騎士10名。演台の上に立つシックス・ナターシャとユフィ・ナターシャ。何があっても法皇を守りきれるであろう布陣と圧倒的な法皇の統率力に、改めてゼロは緊張を覚えていた。

 もし自分たちの素性がバレていたら、どうやっても助からない状況だと自覚する。

「カナン神を信じる信徒たち諸君。よくぞ集まってくれた。そなたらに会えるこの日を、私は心待ちにしていた」

 凛とした透き通る声は、聞く者の耳に心地よく届いた。

「拡声魔法っすね。すごい練度だな……」

 ルーの呟きに「ほお」とアーファが驚く。広場の広さに、彼女の声が届くだろうかと勝手に心配していたゼロだったが、後方にまで振動を伝える魔法が使われているようで、どうやらその心配はなさそうである。

 彼女本来の声を壊さぬように、心地よく聞こえるように丁寧に発動された魔法の使用者にルーは舌を巻く。一般人は当然として、並の魔法使いでも気付けぬほど静かに、法皇の左側に立つ桃色の髪の少女がこの魔法を使っているようだ。

 さすが大魔法使いと評される少女だ。圧倒的なまでの魔力とその制御技術に、ルーの自信は打ちのめされた。

「この3年間、諸君らに道を示せずにいた非礼を、この場を借りてお詫びしよう」

 後方から聞こえてくるのは、感動にむせび泣く声のみ。神々しいまでの彼女のオーラに、ゼロたちも圧倒されていた。同じ顔をしているのに、昨日までに会っていたはずの彼女とはまるで別人だ。

「セルナス皇国建国以来脈々と受け継がれてきた法皇の名に恥じぬよう努めることをここに約束しよう」

 早すぎず、遅すぎず、丁寧に発せられていく法皇の言葉。

「そして、この世界が平和に包まれることを私は望む。カナン神の御言葉を信じよ。神は全ての人々へ幸福を約束する。諸君らよ、祈り、信じ、手を取り合え」

 経典に出てくるフレーズを耳にした人々から歓声が起こる。セルナス皇国にとって法皇とは神の代理人であり、神に等しい存在だ。

 幼い頃から神の言葉として慣れ親しんだフレーズを法皇から直接聞けたことで、彼らの感情が高まったようだ。

「私は世界の平和を願う」

 ひとしきり歓声が収まった後、法皇が再び口を開いた。

「だが、世界は未だに争いに溢れ、帰る場所を失う者や愛する者を失う者は多く、世界から悲しみは消え去らない」

 法皇の言葉に聞き入っていたアーファだったが、先ほどまでより少しだけ、言葉に力が宿ったように感じたアーファが眉を顰める。それと同時に、法皇の右側に一歩下がって立つコライテッド公爵が怪訝そうな眼差しを法皇へ向けたことを、ゼロは見逃さなかった。

 得体の知れない違和感が胸に押し寄せてくる。

「私は、世界から悲しみを消し去りたい。誰も傷つかない、そんな世界を作りたい」

 目を閉じたまま思いを伝え続ける法皇を、ユフィとナナキは見守るように見つめていた。

「私はカナン神の御言葉の通り、全ての者と手を取りたい!」

 力強くなされた宣言に「ほお」とアーファが感嘆の声を漏らすのと、人々が歓声を上げるのは同時だった。その中で、コライテッド公爵が一瞬後方へ振り返ったのに気付いた者が、何人いただろうか。

「世界から争いをなくすため、あらゆる国の者と心を通わせることを、私は誓う!」

 目を見開いた法皇は力強く人々へ誓い立てる。ユフィとナナキはその言葉に満足に頷いていたが、大司教とその隣に立つシックスが驚いた表情を浮かべる。コライテッド公爵のみが無表情に戻り、変わらず立っているだけだ。

「この者の言葉は、信用できるな」

 法皇の姿に見とれていたアーファは嬉しそうな表情を浮かべていたが、大司教とシックスの様子に違和感を覚えたゼロとルーは本能が訴える異常事態宣言に手に汗握っていた。

 その時だった。

「ご報告申し上げます!」

 檀上に皇国魔導団のローブを着た者が現れ、法皇を前に跪く。

「なんだ貴様! 無礼だぞ!」

 予定にない者の登場に、ナナキが強い言葉で叱責するが。

「何事だ!?」

 よほどのことだと感じたのか、コライテッド公爵がローブの男へ言葉を促す。不服そうな表情を浮かべるナナキだが、序列は絶対だ。コライテッド公爵の言葉に悔しそうに押し黙る。

 始まりの広場にも、ざわめきが生じる。法話が中断されるという前代未聞の事態に人々は不安を覚えたようだ。

「諜報部からの報告! 一昨日リトゥルム王国東部の反乱軍、西進し、王都との中間点である商業都市を制圧! 商業都市を治めるオーチャード公爵が処刑された模様! 反乱軍は現在商業都市に滞在中! 王都よりゲルプリッター団長シュヴァイン・コールグレイを指揮官として反乱鎮圧に進軍中! 諜報部の予測通りの動きを受け、皇国軍1万、本日早朝砦攻略へ防衛都市を出陣! ナターシャ公爵は早馬で明朝合流予定です!」

 矢継ぎ早に行われた報告に、アーファたちは言葉を失う。信じられない言葉の連続に気を失いそうになり、車いすに座ったままよろめきそうになったアーファの肩をゼロが支える。

 演台に立つユフィとナナキも驚きに目を見開き、先ほどまで力強く語っていた法皇は誰よりも青ざめた表情を浮かべていた。

 リトゥルム王国東部はウェブモート公爵が治める領土であり、ルーの上官に当たるグリューンリッター団長クウェイラート・ウェブモートが療養しているはずの場所だ。療養中とはいえ王都七騎士団の団長がいる土地で反乱が起きたことがアーファには信じられなかった。

 またオーチャード公爵家が委任統治するリトゥルム王国の中心部近くに位置する商業都市は、リトゥルム王国の物流の中心として栄える活気ある都市だが、王都に次いで戦線から最も遠い場所にある都市のため、戦力はほとんど有していない。処刑されたと告げられたオーチャード公爵は、英雄王の治世時代に軍門に下った日より代々都市の発展に寄与し、王国発展に貢献してきた忠臣だった。その公爵が死んだ事実も、簡単には受け入れられるものではなかった。

 そしてアーファたちの思考を停止させかけた極めつけの情報は、リトゥルム王国の状況を察知していた皇国軍が、既に動いているということ。

 この場にエドガー・ナターシャがいないことに合点はいったが、処理しきれない情報量に、アーファは全てを投げ打って叫びたい気持ちになる。

 目を開いたまま顔を落とすアーファに何も言えず、ゼロとルーは唇を噛みしめるのだった。






「エドガーが出陣しただと? 私は聞いていないぞ!」

 青ざめた表情のまま、セレマウが何とか声を振り絞って聞き返す。ユフィが動揺のあまり拡声魔法を止めたため、演台から距離のある者たちには何事が起きているかは聞こえず、多くの参列者たちには演台の上に立つ者たちが慌てている様子だけしか分からなかった。異常事態すぎる状況に、広場のざわめきが拡大していく。

「エドガー殿は法皇様に心配をかけまいと、伝えるなと仰っていましたよ」

 コライテッド公爵の言葉を受け、セレマウが絶句する。同様に言葉を失ったユフィは兄の方へ視線を向けたが、シックスに驚いた様子はない。おそらく彼は知っていたのだろう。兄の態度に全てが真実であると悟り、ユフィは全身から力が抜けるのを感じていた。

 昨夜コライテッド公爵が用意した原稿を無視し、平和への宣言をしようと提案したのはユフィだった。言葉は発されてしまえば後戻りはできなくなる。予定通りに計画を進めたつもりだった。少しでもコライテッド公爵の思惑を外そうと思っていた。だが、彼の方が一枚上手だったのだ。

 このような事態を見越したのか、有りえないタイミングで現れた伝令により、状況は大きく悪化した。初法話で取り乱すなど、セレマウに法皇としての力量がないと信徒たちに見せつけることになってしまう。

 どうすればいいか分からない状況に、セレマウもユフィもナナキも、悔しさに拳を握りしめていた。



次話に続きます。

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