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芸術都市にて6

「クラックス家の方々のようでした」

 車いすへの少女へ向けていた笑顔から一転、通常運転で二人の側へ戻ったナナキは開口一番黒の法衣の正体を伝える。まさか黒髪の少女がリトゥルム王国の女王だなどと気づけるはずもなく、先ほどの純粋そうな少女の笑顔を信じたナナキは結果としてアーデンの身分は正しいものの、少女の身分を誤って伝えてしまったのが、それに気づける者も当然いないのだから、致し方ないことだったろう。

「あれ、クラックス家は侯爵家じゃなかったっけ?」

 来賓用入り口から劇場の中へ進みつつ、セレマウがふと疑問を抱いていた。

「侯爵には弟殿がいらっしゃいましたし、そちらの方なのだと思います。しかし、あの年の差で親子のようですよ」

「え、おじいちゃんとかじゃないんだ!?」

 どこからどうみても祖父と孫だったが、まさか親子だったとは、セレマウは素直に驚きを隠せなかった。だが貴族という者は強欲なもので、正妻以外にも女性を囲うことがあるのは世間知らずのセレマウとて知っている。彼女にも皇国東部の生家に行けば、腹違いの妹弟がいる。表立っては使用人の子と聞いているが、待遇や見た目から、自分と同じ血が流れていることは察していたものだ。

「クラックス家は当主の侯爵も弟殿も戦場でご子息を亡くされていたんじゃなかったかしら?」

 クラックス家の面々が視界から完全に消えたことにより、平常心を取り戻したのかユフィがようやく会話に参加してきた。

「お、復活してる」

「ご子息を亡くされて、正妻のお子さんじゃなくても、寂しさを埋めようと可愛がってるのかもね」

 視覚情報とナナキからの情報を基に予想したユフィだったが、その答えが正解に辿り着くことはないだろう。

 3人が進む劇場の天井には豪華なシャンデリラが備えられており、床にはレッドカーペットが敷かれ、壁には一座に所属する役者たちの肖像画が並んでいた。魔道具を駆使した照明も使用しているのだろう、全体的に明るいというわけではないが、見て欲しい部分だけはっきりと明るく照らされている。

 彼女たちが進むのは来賓用通路であり、一般客用はもう少し安価な作りになっているのだが、初めて訪れたセレマウは劇場内の様子に驚きつつ、終始キョロキョロと視線を彷徨わせていた。

「おそらく法話にもいらっしゃる予定のようでしたし、次は中央でもお会いできそうですよ」

 その言葉に瞬間湯沸かし器のように、再度ユフィの顔が赤くなる。

「ユフィ様がそうなるのも正直納得がいきました。ちらっと見ただけで、私も少し鼓動が速くなったように感じましたし」

 反則的なイケメンだったと、先ほどの黒髪の少年を思い出すナナキ。冷静沈着な彼女がそこまでなるとは、「イケメン恐るべし」とセレマウは心の中で呟いた。

「ユフィ様の想い人もですが、もう片方の従者も、老紳士の従者とは異なる気品を感じましたし、彼らももしかしたら貴族の子なのかもしれませんね」

 愛人などの子のため公にできない、跡取りとできない子を、衣食住に困らせたくない思いから貴族家の従者として育てることはよくある話だ。

「でもクラックス家に仕えてることがわかれば、これからも会おうと思えば会えるねっ」

 セレマウはにこやかにユフィにそう言うが、皇国でも最上位に近い身分のユフィが、子爵位の者の娘の従者に会いたいなど、どのような理由で会えばいいのか見当もつかず、ユフィは苦笑いを浮かべていた。

 そんなこんなを話しながら劇場内を進んだ3人は舞台のあるホールに続く扉にたどり着いた。専属の係の者が扉前に待機しており、彼らに開けてもらってホールへ入ると、そこは特別なゾーンとなっているようだった。

 招待席は客席中段に位置し、一般客のフロアからは来ることはできないような造りになっていた。ホールと通路とを行き来するための扉には、ホール内側にも専属の係の者がついているようだ。招待席ゾーンの真後ろは天井に到達する大きな柱が壁となっており、招待席よりも高い位置にあるゾーンに座っても、招待席にいる者を見下ろすことはできないようになっている。

 開演まではまだ20分ほどあるが、前方の客席はほぼ全てが埋まっているようだった。

「あの子たち、入れたかな……」 

 無意識に車いすの少女がどこにいるかを探していたセレマウは、ホール入り口から丁度入ってくる少女を発見した。

「あれ、従者の二人が一緒なんだ」

 先ほど一緒にいたはずの老紳士の姿がないことに疑問を抱くセレマウ。ウェフォール一座の本公演は芸術都市に来たのであれば誰しもが憧れる一番人気の観光スポットだ。その席を従者に譲るとは、俄かには信じられなかった。

「やはり、ある程度の出自の方かもしれませんね」

 老紳士が席を譲ったということの裏を考えるセレマウとナナキだったが、ユフィは終始車いすを押す少年の姿を目で追っていた。そろそろ顔を抑えなくても平気なくらいに慣れてはきたのか、頬は赤くなっているが顔は上げている。

 ユフィとあの少年が並んで歩けば、類を見ない程の美男美女カップルだろう。だが肝心のユフィの様子がこれでは、隣を歩くなど夢のまた夢のように思える。戦場ではあんな奇異なマスクをかぶって戦える癖に、想い人一人見つめただけでここまで恥ずかしがるとは、正直ナナキには理解できなかった。

 招待席にいるナナキの姿に気付いたのか、車いすの少女がナナキの方へ向きにこやかな笑みを浮かべながら一礼した。合わせて車いすを押す少年も足を止め、彼も招待席側へ視線を上げる。

「ひゃっ!!」

 不意に彼と目が合ってしまったユフィは耐えられずに奇声を上げる。顔ごと視線を外すユフィだったが、同様に車いすを押すイケメンも視線を招待席から外していた。だがユフィに気を取られた二人はそれには気が付かなかったようだ。

 車いすの少女たちの席は招待席の真下の席だったのか、再度移動した彼女たちは見えなくなってしまったが、無事に入場できたことにセレマウは少し安堵していた。

 だが、あんな幼い少女があの若さで自由に動く権利を奪われていることに胸が痛む。せめてこうした楽しい場に招くことができたことが嬉しかった。

 セレマウとユフィを気遣って説明を省いたナナキのおかげで、セレマウたちが招待席に座ることになったために車いすの少女たちが招待席に座れなくなったことなど欠片も思わず、セレマウは楽しそうに開演を待つのだった。



次話に続きます。

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