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防衛都市にて

 リトゥルム王国の女王がセルナス皇国を目指し、セルナス皇国の法皇が約束の塔を離れ国内査察を行っている、その影で。

「貴殿たちは現状のまま、あの小娘に生殺与奪の権利をもたれたまま、のうのうと暮らしていかれるか?」

 豪奢な屋敷の一室に、数人の礼服を着た者たちが集まっていた。各々背後に武装した従者をつれており、その一室の雰囲気はただならぬ様相を見せていた。

 奥の座席に座る二人の内、銀髪の整った顔立ちの若い男がその場を取り仕切っているようだった。隣に座る初老を迎えたであろう男性は眠っているかのように視線を下げていた。

「我らとて矜持がある。貴様らが攻め入ってくるというならば、最後の一兵となるまで戦うぞ」

 口周りに髭を蓄えた目つきの鋭い男性が苛立ちを含んだ口調で若い男性に答えていた。

「ほう。“攻め入られないならば”、あの小娘によって生かされると自覚しているのか。それは結構。だが、生かされただけの命を大切に、己の王位だけを保てれば満足か?」

 若い男の真意が読み取れず、集められた礼服たちは苛立ちとともに困惑を抱いていた。彼らを招待した者たちが礼服たちの敵である者を、“あの小娘”と呼ぶ意味が分からなかったからだ。

 若い男とその隣に座る初老の男性を除き、室内にいるのは15人。座席に座る礼服たちは5人。背後に立つ従者はそれぞれ二人ずつ。

「何が言いたいというのよ」

 礼服の内の唯一の中年女性が苛立った様子で聞き返す。

 一様に全員が穏やかではない雰囲気だ。

 はぁ、と大きくため息をついた若い男が礼節を捨て、脚を組む。

「貴様らに未来も選択肢もないのだと、いい加減理解してもらえないか?」

 初老の男性の名で送られてきた招待状という名の脅迫状を受け、今回の参集に応じた礼服たちは、ここまで口ぐちに呼び出し主への文句や苦情を口にしていたが、若い男は語る言葉こそ穏やかではないものの、ここまで終始穏やかに対応をしていた。

 その彼の発した怒気を満ちた言葉に、礼服たちが押し黙る。

「あの小娘からの命令がなければ、貴様らの命運などとうの昔に断たれていたのだと、なぜ気づかない? 無能か貴様ら」

 若い男の放つ強烈なプレッシャーに礼服たちは冷や汗を吹き出し、従者たちが皆臨戦態勢を取る。だが彼らは知っているのだ。この男には勝てないということを。礼服とその従者たちは、殺意に対する本能的な行動を取っているに過ぎない。

「安心しろ。今ここで殺しはしない。招待状に書いてあったろう? 参集に応じれば命は保証すると。私は嘘はつかない主義でね」

 くっくと悪い笑みを浮かべた若い男は先ほどまでの怒気を鎮める。

「私に従ってもらおうか。貴様らの平和はここまでだ。まぁ、ここまで王でいられたのだ。いい加減満足だろう?」

 先ほどまでの丁寧さは消え、組んだ膝に肘をつき、手の甲に顎を乗せる不敵な姿になる若い男。彼の言葉は服従か死か、それだけなのだと、集められた礼服たちは理解していた。

「……この所業は、公爵殿の判断なのか?」

 最早生殺与奪の権利を奪われたことを理解した恰幅のいい礼服が質問に質問で返す。

「それはどうだろうな。まぁ、日和見の父上にはこれを機に隠居していただくつもりだ」

「なんと……悪魔か貴様……!」

 背の高い眼鏡の礼服がその言葉を聞き、若い男の隣に座る初老の男性に視線を定めるも、初老の男性は俯いたまま動かない。

「貴様らの矜持とやらに免じて、返事の期限をやろう。3日後だ。私に協力するか否か、色よい返事を期待する」

 彼の言葉とともに、礼服たちの背後の扉が開く。扉から出ていく礼服たち一人一人に、返事用なのだろうが、メイド服をきた女性が手紙のようなものを渡していく。

「……中央で何を学んだか知らぬが、後悔するなよ、小僧」

 5人の礼服たちの中で唯一沈黙を保ち続けた腰の曲がった老人は、メイドから手紙を受け取ると半身だけ振り返り、若い男に対してそう告げた。

「ふっ。今さら貴様らに何ができるというのだ、老いぼれ」

 その言葉に怒るでもなく目を細めて笑った老人が部屋を後にする。

 出て行った礼服たちを見下すような目をしたまま、若い男はテーブルの上に置かれたグラスワインを一気に飲み干し、グラスを床に捨てる。

 小さな音を立てて割れるグラス。

「屑どもが……。今に見ていろ。私が国の頂きに立つ日、貴様らの終わりだ……!」

 彼の負の感情を象徴するかのように、空はどんよりと淀み、今にも雨が降り出しそうだった。





舞台は皇国の領土へ移ります。


次話に続きます。

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