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人間嫌いだから異世界で人間辞めることになりました  作者: 夢見人
第一章「王都ユーティス」
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一章08.「アピセ村」

「ここら辺は、危ないから気を付けてね。」


 エメラダにそう言われて、いかにも落ちたら生きては帰れないような崖の近くを歩くイツキ。とは言っても、注意していれば絶対に落ちないし歩くスペースだって十分にある。たまに吹く風に一々驚いてしまうぐらいだ。


「あともう少しでアピセ村だよ!」


 実は、僕たちがあの小屋から出てもう三日が経っていた。

 このプチ旅行は、魔除けの石のおかげもあってか何事もなく安全な旅そのものだった。強いて言うなら、毎回料理を頑張ろうとするエメラダが一番の強敵だったが、なんとかその辺になっているフルーツやらキノコやらで、食い繋ぎ今に至る。


 正直早くまともなご飯にありつけたい。温かくて美味しいごはん。熱々の味噌汁なんかもあれば完璧だ。まぁ、異世界にそんなものは無いのだろうけど…。そんなことを考えているとエメラダが急に、「ちょっと待ってて」と言って、森の中へ入っていった。恐らくお手洗いだろう。そこら辺を詮索するのは良くないことだとコミュ症の僕にでもわかる。気長に待とう。


 ――三分ぐらいが経ち、森の中からエメラダが出てきた。


「お待たせしてごめん!それじゃあ、行こうか!」


 そう言いながら出てきたエメラダは、何故か先程と恰好が違う。さっきまでは着ていなかった深いフードの着いたローブを身にまとっていた。


 決して肌寒いわけではない気候で、どちらかと言うと半袖でも平気なくらいの春みたいな暖かさなのにとどうしてかは気になったが、きっと何か理由があるのだろう。野暮なことを聞いて彼女に嫌な思いをさせたくない。


 イツキはそう思い、喉まで出かかった疑問を飲み込んだ。この時、その疑問を飲み込んでしまったことを後々後悔することになるとも知らずに――


 ☆


「イツキ!見て!ここがアピセ村だよ!」


 意気揚々と村の方を指さして、目を輝かすエメラダ。


 対してイツキは愕然としていた。二人が辿り着いたアピセ村は、数えるのに両手で足りるほどの建物と畑で成り立っていたからだ。


 こ、これが村…?僕の知っているどんな田舎よりも田舎だ。こんなところに宿とかあるのか?かろうじて、村の中心に大きめの建物があるけど明らかに教会のような見た目だ。でも教会ならもしかしたら、寝床を提供してくれるかもしれない。後で立ち寄ろう。


「じゃあ、言葉が理解できるようにしてから、村に入ろっか!」


 そのまま精霊魔法をエメラダにかけてもらった後、村に入った。


 村に入って早速、小さな露店で野菜を売っているお婆ちゃんに話しかけられる。


「いらっしゃい。何か欲しいものでもあるかい?」


「あ、はい。全部十個ずつ貰えますか?」


 村に入る前に顔が見えなくなるほど深くフードを被ったエメラダは、いつもより低いトーンで買い溜め用の買い物を済ませる。


「それじゃあ、買い物も終わったことだしもう戻ろうと思うんだけど…。」


 野菜をたくさん買った後、パンやら必需品やらをたくさん買ってイツキの両腕がはち切れそうなほどの買い物を済ませたエメラダはそろそろ戻ろうと提案する。


「あ、ごめん。その前に協会に寄ってもいいかな?」


「うん!いいけど、どうして?どこか悪いの?」


「いや…教会の人に聞いてみたいことがあって…。」


 イツキはエメラダの提案を断るように自分の目的地に向かった。


 ☆


「神のご加護があらんことを。」


 イツキとエメラダは、教会に来ていた。丁度具合の悪い人の治療をしていたようなので席に座り、それが終わるのを待つことにしたのだ。


 少しすると、


「お待たせいたしました。さて、お話があるのは確かそちらの黒髪の少年だったかな。何か用かい?」


 そう言って近寄ってくるのは、先のいかにもな台詞を吐いていた白髪頭の神父だ。スタイリッシュなお爺さんでとても清潔感がある。笑顔も作られたように朗らかだ。


「あの、単刀直入に言うと、僕今家が無くて…。それで、良かったら当分ここで寝泊まりさせてもらえませんか?」


 僕は、文字通り単刀直入に聞いた。村に行けると分かった時からずっと考えていたのだ。このままエメラダと二人で暮らしていくのもきっと楽しいだろう。この子に悲しい顔をさせたくない。それは今もずっと思っている。だがそれは、僕の身勝手な考えで、彼女の望んでいることとは違うかもしれないのだ。それならいっそ、離れてしまった方がいい。大体、男女が同じ寝床を共有するなんて根本的に間違っている。だから――そう覚悟を決めようとした時、


「うわぁぁぁぁぁぁん。」


 神父の答えを聞く前にエメラダは膝をついて泣き出した。


「えっ…。」


 何がどうなってる。エメラダはどうして急に泣き出したんだ?


 イツキは今の状況に頭が追い付かない。否、追い付いても離れていく。イツキも分かっていたのだ。エメラダにとって自分が必要とされている存在だということを。村の人達と話すときと自分と話している時のギャップがあまりにもでかくて、自分と話している時は目をあんなにも輝かせるのにと。

 しかし、イツキはそう()()()()はいても()()できない。何故なら、()()がないのだ。今まで生きてきて誰かに必要とされたことなど一度も無かった。自分は居ても居なくても同じ。幽霊みたいな存在なんだと。それがイツキにとっての常識で、世界だった。それでも、自分がエメラダを泣かせてしまっていることは間違いではない。それは分かっている。でも、どうすればいいんだ。と悩んでいると、


「すみませんね。いつもならば大丈夫なんですけども、近々王都から勇者様がこちらに見回りとして偵察に来てくださるのでここで歓迎会をする準備をせねばならんのですよ。ですから、寝泊まりは当分できないことになってまして…。」


 神父はニコニコしながらそう言うとこちらに向かって目配せをしてきた。きっと、彼女を慰めてやれと助け舟を出してくれたのだ。イツキは、素晴らしい人間もいるもんなんだなと感心しつつ、エメラダを慰めながらアピセ村を後にした。


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