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人間嫌いだから異世界で人間辞めることになりました  作者: 夢見人
第一章「王都ユーティス」
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一章20.「裏と表」

 たくさんの建物がずらりと並ぶ中央通り。そこには冒険者ギルドやその冒険者たちが通う装備屋さんやアイテム屋さん。更には、高級そうな料理店に洋服屋も軒並み並んでいる。そして、中央に位置する広場には大きな噴水が雰囲気を醸し出し、その広場から十字に道が続いている。中央通りと対になるウィーン通りには、中央通りと比べると比較的リーズナブルな店が多い。

 イツキ達は、まだ駆け出しの冒険者ということでウィーン通りを勇者に案内されていた。


「それにしても君たちが無事でよかった。先日のアピセ村でのゴブリンの暴走も君たちが対処してくれたのだろう?本来ならば僕がどうにかしなければいけないものだった。本当に感謝する。」


「いや、僕は…そんな…。」


 実際、僕はエメラダが助ける判断をしていなければ、あの場から逃げ出していたし、いざという時まで動くことすらできなかった。それなのに感謝されるのは、明らかに筋違いだ。僕は、この勇者に感謝こそすれど、されるような人間じゃない。


「けれど、君たちがいなければ、助からない命もあっただろう。君がどういう思いで行動したかではなく結果それで救われた人がいるということを覚えておいてほしい。」


 そう言われては、何も言えない。そんなことは分かっているつもりだ。でも、それでは僕の気持ちは無視することになるじゃないか。そんなことには慣れっこだけど。


「そう…ですね。」


「あぁ、ところで君…あ、そういえば自己紹介がまだだったね。失敬。僕は、高橋ユウ。この国の勇者として召喚された日本人だ。今更だが、よろしく頼む。」


 やっぱり、この人…。顔つきからそうだろうと思っていたけどやはり日本人だったのか。


「私は、エメラダです。見ての通り、ハーフエルフだけど、悪いハーフエルフじゃないよ?」


 それを聞いたイツキとユウはお互いに少し吹き出した。


「なんで二人して笑うの?おかしいところあった?」


「いや、すまない。懐かしいセリフを思い出してな。」


 悪い〇〇じゃないよ。というセリフはイツキ達の元の世界の日本で一世を風靡した名台詞だった。


「もう!なんか恥ずかしいじゃない。イツキも早く自己紹介してよ!」


 この流れから自己紹介か。元々、自己紹介すること自体苦手なんだけどな。


「その、僕は、桐谷樹…です。僕も日本生まれで、こっちの世界には気づいたら来ていました。」


 自殺して来たとか食べた物に変身する能力とかは伏せておいた方がいいだろう。エメラダにすらまだ話していないことだ。


「そうか。もしかしたら、最近、複数召喚されたバッカニア国の勇者かもしれないと踏んでいたのだが、そうじゃなかったのか。もしそうなら、いずれ戦うかもしれないと覚悟していたのだが、良かった。君とはなんだか長い付き合いになるような気がしたからね。」


 は?別の国の勇者? この世界に居る勇者は一人じゃないと言っているみたいだけど、そんなことあり得るのか?しかも、戦う?勇者同士が?どうなっているんだ。僕の知っている勇者は悪い魔物を倒す唯一の称号のはずだ。


「…この世界には、ユウさんのほかにも勇者が?」


「あぁ。そうか、そこから話すべきだったね。――」


 イツキは、ユウからこの世界の勇者についての説明を聞いた。


 この世界に異世界人を召喚するには一つの国が所有している大地の魔力を使用してようやくできるもので、それを一度使用するとその勇者の命尽きるまで使えなくなる。そして、当初この禁忌の魔法が使われた理由は魔物に対抗するためのものだったが、次第に国同士の争いごとに持ち込まれ、戦争の兵器として扱われるように変わっていった。


 こちらの世界の都合で召喚された挙句に元の世界の人と戦わされるというあべこべで自分勝手なエゴの塊。


「そんな…。」


 エメラダもそのことは、初耳で呆然とする。


「嫌な気分にさせて、すまないね。でも、僕は街の人々を救うことを使命だと思っているし、理由はどうあれ犠牲者を出さないための処置だと納得しているよ。」


 そう割り切れるこの人は本当に根っからの勇者気質なのだろう。僕には到底背負えないし、許せない。


「…街の人には、罪はないからね。」


「何か言いましたか?」


 ボソッと何か聞こえた気がしたけど…。気のせいだったか?


「さて、ある程度回ったし、ここの宿を紹介したら今日はお開きにしようか。ここは僕がこの世界に来て何度もお世話になっている宿だから安心して平気だよ。」


「はい…。お願いします。」


 正直宿のことは決めあぐねていたし、とても助かる。『虎猫亭』の獣人が言っていたことも気にはなるけど、勇者のお墨付きなら問題ないだろう。



「やぁ、イズさん。久しぶりだね。」


「あら、ユウ君じゃない。今日はどうしたの?」


「彼らに街を案内していてね。宿が決まってい無さそうだったので、ここを紹介しようと思って。」


 ユウがイツキ達を紹介するや否や、その店員は、一瞬固まった後、にっこりと笑いながら会釈をした。


 それを見たイツキは、胸をなでおろす。


 良かった。ハーフエルフを泊めるのはごめんと言われたらどうしようと思っていたから、正直ホッとした。やっぱり、少しずつ周りも変わりつつある。

 これで寝床の問題は当分無さそうだ。


「じゃあ、イズさん。彼らのことをよろしく頼むよ。じゃあ、イツキ君達、僕はこの辺で失敬するよ。冒険者カードは作っておくよう言っておくから後日取りに来るといい。」


「はい。今日はありがとうございました。」


「ありがとう!」


 そうして、ユウは、宿から出ていき、イズという宿の店員とイツキとエメラダの三人が残った。


「早速今日から泊まりたいんですけど、宿代はいくらですか?」


 お金を払うエメラダは財布を取り出しながら、店員にそう質問した。


「すみません。先程満室になってしまって。」


「いやいや、さっきから僕等居たじゃないですか。誰も入って来てないと思うんですけど。」


「いえ、満室ですのでお引き取りください。」


 明らかに勇者といる時と対応がおかしい店員。僕等を客として全く見ておらず、頑なに泊める気がない。さっきまでの笑顔も消え、軽蔑の目でこちらを見てくる。


「いや、でも!」


イツキは、あまりの変貌ぶりに納得が行かず、珍しく声を荒げる。

しかし、店員も負けじと声を張り上げた。


「大体、うちは亜人禁止ですので!他のお客様に迷惑なのでこれ以上居残るようでしたら、騎士団を呼びますよ!?」


「亜人禁止って…。!!!」


 関所での小人への対応。街を歩いている時の違和感。裏路地での猫の獣人の態度と台詞。全ての点と点が繋がり線へと変わる。


 この街…。もしかして、ハーフエルフどころか亜人差別があるのか…?

 だから、小人の商人が兵士に蹴られたとき周りは当たり前のような顔をしていて、街の中の活気あふれる場所には、ほとんど亜人がいなくて、裏路地という辺鄙な場所にだけ獣人がいたんだ。そう考えたら全ての辻褄が合う。どうして、どうしてこの世界は、こうも人間の醜い部分が露呈しているのだろう。

 待てよ。こんなことこの街に暮らしていれば誰でも気づくことだろう。勇者はこのこと知っていたのか?それでここを紹介したのか?その真意はまだ分からない。

 とにかく、こんな所にはもういられない。


「エメ、行こう。」


「う、うん。」


 イツキとエメラダは、静かに宿を後にした。

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